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【44】ムファンガノの日々

今日はついに、島に別れを告げた。

きっと感動的な別れになるかなぁと思っていたけれど、そんなことは全然なかった。

僕は割といろんなところに長期・短期滞在してきたので、人よりも別れを多く経験していると思うけど、その中でも割とあっさりしたものだった。

ケビンと最後にクラファン広報のための動画を撮って、調査のために必要な紙を買って、気づいたら水上バスが来る時間になった。

帰りの水上バスが近づいてくる。僕は、この港から初めてこの島について、この港からこの島を出る。

どんな出会いがまっているだろうと、少し胸を高鳴らせて、この水上バスに乗り込んだあの日のことを、覚えている。ホストの家について、シャワーは湖だと言われて驚いたことも。

振り返ればあっという間だった気がする。待ち望んでいたはずのこの日は、いつの間にか別れを告げる日になっていて、それが意味するのは、なにか得体のしれない寂しさのようなものだった。

何もかもが、今まで行ったところとは違っていた。これまで「異文化交流」だと思っていたものが、全て可愛く見えた。ここはまるで、別の惑星みたいだった。

そんな遠くの世界から覗いていた、僕が今までいたところを映し出すSNSはこれまでいろんな意味で遠くに見えていたけど、頭の中の日めくりカレンダーの残り枚数が少なくなるたびに、ここに僕は戻るんだと、少しずつだけど、実感として湧いてきていた。

なんとなくだけど、僕はきっとここにいてはいけない存在だと、少しだけど、ずっと感じていた。なにか見えない均衡のようなものがあって、それを壊してしまう存在だと自分をずっと思っていた。

だから今、僕はあるべきところに帰る。そうすべきだと分かっているけど、やっぱりなんだか少し寂しい。もう満点の星空も、雄大に連なる山々も、湖に溶けていく夕日も、しばらく見られなくなる。

もう、湖に沐浴に、洗濯に行かなくてもいい。デコボコの道をバイクに乗って揺られなくてもいい。わざわざ家の外に出てトイレに行かなくてもいい、髭を剃らなくていい。

僕はいろんなものの匂いをかぐのが好きだった。朝起きて、扉を開けて鼻に流れ込んでくる朝焼けの匂いだったり、行き交うバイクから漏れる排気ガスの匂いだったり、友達に教えてもらった花の匂いだったり。

なんで僕はここにいるんだろう。僕はなんで、こんな苦しい思いをしてまでして、ここにいるんだろうと、何度も思った。

でも多分、その答えはとてもシンプルで、僕は途上国が好きだからなんだと思う。匂いだとか、めんどくさいことも、嫌なことも、全部ひっくるめて。好きだから、ここまで来れたのだと思う。

僕は途上国が好きだ。日本では、かわいそうだとか、助けるべき対象として見られているかもしれないけれど、そんなことは全然ない。いつか、彼ら自身で歩みを進めていくことができると僕は信じている。今はまだまだひよっこだけど、そう気づかせてくれた人たちに恩返しをできるようになりたい。

帰るときも相変わらず、ムズングムズングと言われた。僕にとってそれは、白人というよりかは部外者と言われているようだった。そしてそれは、どうしようもなく正しい事だったと思う。

僕は、きっとここにいるべきではない人間だから、背中を少しだけ、押せる分だけ、ここに少しだけいさせてください。腕一本くらいなら、ムズングでも許してくれるよね。

本当にたくさんのことを、この島から教えてもらった。ありがとう。

僕はちょっと疲れたから、家に帰ります。また来るときまで。

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熊谷拓己
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