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ルオのレクイエム

木曜日、僕が所属しているCBOの代表に
「明日葬式あるけど、来る?」
と誘われ、そんな葬式って軽く誘うもんだっけと思いましたが、まぁ行ってみたいし行くかと軽いノリで行くことにしました。

そして金曜日。家からすぐの船着き場に向かい、小さなエンジン付きの船で葬式のある本島へ。人が乗り込むたびに揺れる揺れる転覆する勢いで揺れる揺れる。

なんでもここの地域では結婚と葬式は深く結びついており、結婚した場所で葬式を執り行うらしい。今回は結婚した場所が本島とのことで、舟で向かいます。

行く前と着いた後に、旅の感謝を祈るキリスト式の挨拶?みたいなのを一人が行い、それに続いてみんなでAmen。向かう途中に初老のおばあさんにAre you ready!?とまくしたてられたり、なにやら歌いだしたり、そこまで厳粛な雰囲気もないまま向かいます。まぁ外国人が気軽に出席できる時点でそうか、、、

島に着くと、甲高い声で
アワワワワワワワワワ(手のひらを口に当てては放しを繰り返すアレ)
と響く女性の声。なんでも悲しみの泣き声を表現しているみたい。島についてから、少し歩いて葬儀場へ向かいます。着くと爆音で鳴り響く音楽、運動会のように並ぶテントと椅子、十字架に磔にされたキリストをあしらった棺桶などなど、なんだか失った悲しみと前向きに生きる気持ちが混在したような場所でした。

棺桶の中に眠る遺体とご対面すると意外と若い。同い年くらいだろうか…なんとなく体の芯が冷えるような気持ち。実は僕が島に着いてすぐの日に別の方も亡くなっていて、その方は結構お年を召して大往生だと聞いていたので
お年寄りの方を想像していました。

席に着き、ほどなくして式のプログラムが配布されます。中には全体の行程や、生い立ち、死因などが記されていました。31歳という若さで亡くなり、20歳のときに頭痛を訴え、病院にもいきましたが、結局原因もわからなかったのか死因は「頭痛」とだけ。

夫の方も亡くなっており、彼女のもとにいた3人の子どもは孤児となってしまいます。うちひとりを、うちのCBOで引き取ることになりました。残り二人は親せきに引き取られるそうです。一人は未就学児で、もう一人は病気で床に臥したままだそう。僕のいるCBOは教育系のところで、代表も教師を務める傍ら活動しているので、そういうところで折り合いをつけた結果でしょうか。

前の席で、代表とその子が話しているのを見ていました。紺色の花柄のドレスを着ていました。ドレスコードは特にありませんでしたが、この日はみんなおめかしをして来ていました。いろいろな方が挨拶をしていき、葬式は進んでいきます。

家族、友人、教会関係者…

間に昼食もはさみ、いよいよ最後となり、棺桶の埋葬に。代表は「ここで座って待ってろ」といいますが、葬式にまで来てそれはないだろうと思い、僕は埋葬まで連れ添うことに。埋める前に教会の方がなにやら口にし、皆でお祈りを捧げます。斜め前にはさっきまで代表と話していたあの子が泣きながらこれから棺桶の入る穴を見つめていました。

棺桶に土が被さると、彼女の泣き声は強まって、それにしたがうようにしてルオ語のレクイエムが始まりました。雲一つない運動会日和な澄み渡った青空の下、青々と生い茂る山々に囲まれて、泣き声とルオ語のレクイエムがこだましていました。

彼女は何を思っているのだろう。自分には推し量ることすらできません。どんどんと埋まっていく棺桶に反比例して彼女は泣き止み、どこかへ消えて行ってしまいました。その後代表のもとにいくと、あの子の写真を撮らないといけないから」と言うと小屋の前にいた彼女を呼びました。

青空と山を背景に、彼はシャッターを切りました。デジタルカメラの中に移る彼女の表情は、悲しみともなんともつかない顔をしていました。背景のひたすらにきれいな青空がなんだか悲しい対照を映し出しているように見えました。

これもまた現実なんだ。自分がこれまで生きてきた世界の裏側では、きっとこういうことが毎日起こっていて、自分がそれを目にするのは電車の中吊り広告だったり、ネットの広告に出てくる「かわいそうな子ども」の写真でなんだろうな。

その背景にある1人のストーリーを知ったとき、自分に何ができるんだろう。写真を撮るのはCBOにお金を出してくれるドナーのためだろうか。何も別に埋葬が終わってすぐじゃなくても…なんだか最近代表に対する不信感が募ってきました、、、

この日は心が疲れて、すぐベットに入りました。晴天の中こだまする泣き声とレクイエム、カメラに映る彼女の顔、11年も苦しみ、具体的な病名さえわからずに亡くなった彼女の母親。スマホに映るカラオケ、水族館、飲み会の文字。

なんだかすごく遠いところまで来てしまったなぁと思う。つい先週まで自分がいたところは、本当に同じ地球上にあるのかとさえ思う。

疲れたな。明日はゆっくり休もう。


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熊谷拓己
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