なぜ今、GettyとShutterstockは一つになるのか??
先日、大きなニュースが飛び込んできました。Getty ImagesとShutterstockが合併するというのです。
合併発表直後、Getty Imagesの株価は58%以上、Shutterstockは30%以上も急騰しました。でも、その後すぐに株価は下降。この急激な上昇と下落は、市場が感じている「期待」と「不安」を映し出しているようです。
私も同じような気持ちでこのニュースを見ています。ここ数年、両社の株価は下降傾向が続いていました。AIによる画像生成技術の台頭が、既存のストックフォト業界に影響を与えているのかもしれません。
公式発表では、コスト削減や事業拡大など、様々な戦略的意図が語られています。でも、この統合の本当の意味は、もう少し時間が経ってみないとわからないのかもしれません。
10年以上このストックフォト業界関わってきた一人として、今この時点で考えていることを共有してみたいと思います。
変わりゆく業界の現実
私自身、ここ数年はAIについての実験的な取り組みは行っているものの、実際の撮影によるストックフォトの投稿はほとんど控えていました。特にGetty ImagesとShutterstockは売上の減少が顕著だったサイトで、実写での投稿を続けることの意義を見直さざるを得ませんでした。
興味深いことに、従来のストックフォトとは異なるアプローチを取っている会社の中には、現在も安定した売上を維持しているところがあります。これは、業界の変化に対応する新しいビジネスモデルの可能性を示唆しているのかもしれません。
AIをめぐる現実的な課題
ストックフォト各社のAI対応には興味深い違いがあります。GettyはStability AIを著作権侵害で訴えるなど、慎重な姿勢を示しています。この訴訟の背景には、Stability AIが使用したLAION-5Bデータセットの問題があります。このデータセットには著作権で保護された画像が含まれている可能性が指摘されており、AI開発におけるデータセットの適切性という重要な問題を提起しています。
EUでは2024年にAI法が可決され、AIシステムのトレーニングに使用されるデータセットの透明性確保が求められるようになります。この動きは、今後のAI開発において大きな影響を与える可能性があります。
一方、AdobeはFireflyを展開していますが、ここにも複雑な現実があります。当初は完全に合法的なデータセットのみを使用すると謳っていましたが、現状はより複雑です。Adobe Stockではクリエイターが投稿した画像がAIの学習に使用される可能性があることを利用規約で定めており、その対価としてクリエイターに報酬を支払う制度も導入しています。しかし、投稿される画像の中にはMidjourneyなどで生成されたものも含まれており、それらも学習データとして使用される可能性があります。このような状況は、AIの学習データセットの「合法性」をどう定義するかという難しい問題を提起しています。Adobe自身はMidjourneyで生成された画像の投稿可否について明確な回答を避けており、「合法的に作られた画像のみ」という曖昧な表現に留めています。
実は、この状況自体が業界の直面するジレンマを象徴しています。完全に著作権をクリアしたデータセットだけでは十分な品質を確保することが難しく、かといって他のAIツールの出力を取り込むと、そのデータセットの正当性が曖昧になってしまうのです。
グレーゾーンとの向き合い方
特に気になるのは、今後動画のAI生成が本格化してきた場合です。現在開発中の動画生成AIの多くは、YouTubeなどの動画を学習データとして使用している可能性が高く、著作権の観点からはグレーな状態です。
GettyとShutterstockの合併には、複数の戦略的な意図があるようです。年間1億5,000万ドルから2億ドルのコスト削減効果や、両社の膨大なコンテンツライブラリの統合による顧客への選択肢拡大、さらには新規事業への投資機会の創出などが挙げられています。
AIへの対応もその重要な要素の一つですが、それは単にAIモデルの開発だけでなく、より包括的なデジタル戦略の一部として位置づけられているように見えます。ただ、動画生成AIなどの新しい技術への対応を考えたとき、たとえ両社が統合したとしても、自社コンテンツだけでどこまで競争力を維持できるのか、という課題は残されているように思います。
私の選択:実験場としてのストックフォト
こんな状況の中で、私は少し違った視点でストックフォト業界に関わってみようと考えています。それは、「AIを使ったビジュアルコミュニケーションの実験場」として活用するというアプローチです。
実は最近、AIについて学べば学ぶほど、逆説的ですが、より本質的な表現の重要性を感じています。ストックフォトでAIを活用しながら、同時により個人的で深い表現活動も追求していく。そんな二軸での活動が、これからの時代には必要なのかもしれません。
フォトグラファーとしての選択肢
正直なところ、この先どうなるかは誰にもわかりません。でも、いくつかの選択肢は見えてきています:
AIと共存しながら新しい表現方法を模索する
より個人的で独自性の高い作品制作に注力する
完全に異なる方向性を探る
私自身、このプロジェクトを通じて何が見えてくるのか、まだわかりません。もしかしたら、「やっぱりAIでの収益は難しい」という結論に至るかもしれませんし、逆に新しい可能性が見えてくるかもしれません。
これからについて
AIの規制は国によって異なり、ゆるい規制の国がどんどん技術を進化させていく可能性が高いです。そうなると、結局はグレーゾーンを完全になくすことは難しく、ある程度のあいまいさを受け入れながら進んでいくことになるのではないでしょうか。
私たちフォトグラファーにできることは、この変化をただ傍観するのではなく、自分なりの関わり方を見つけていくこと。それは必ずしも「AIで稼ぐ」という方向である必要はなく、むしろAIと向き合う中で、より本質的な自己表現の可能性を探ることかもしれません。
みなさんは、この変化の中でどんな選択をしていきますか?私も同じように悩みながら、少しずつ自分の道を探っていきたいと思います。