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イオンに行って、投票してきた:意識の低い地方議会選備忘録(エッセイ)
地方に住んでいる人間にとって、イオンはインフラも同然だ。
どんな田舎にもあって、行けば必要最低限のものが全て手に入る。飲食店が少ない町でも、イオンのフードコートに行けば何かしら食べられる。
特にイオンモールは、そこに行けば大概のチェーン店が揃うという点で、とても有能だ。ユニクロがあって、スタバがあって、映画館がある。イオンモールに行くだけで、大概のことはできてしまう。
往々にして地方都市では、大概のチェーン店がロードサイドに散らばって建っている。車で移動することが前提の社会だから、土地の狭い中心部より、広い駐車場が作れる郊外の方が客を集めやすいからだ。
逆にいえば、大都市の駅前や駅中にある複合商業施設のような場所は少ない。そしてその少ない複合商業施設の一つが、イオンモールだ。
だから、先日の統一地方選挙で、イオンモールに期日前投票所ができたというのはある意味当然かもしれない。
何せ他に行くところなんてない。休日にお出かけといえば九分九厘イオンモールだ。休日に役所までわざわざお出かけする人はいないが、イオンモールに行く人は星の数ほどいる。
かく言う私も先日イオンモールに行き、そのついでに市議会選挙の期日前投票に行ってきた。
期日前投票を選んだのは投票日に出かける用事があったからだが、
近所の期日前投票所(徒歩圏内にある市役所)ではなくイオンまで行ったのは、買い物ついでで行けるなら便利じゃないかと思ったのが半分、「イオンで投票する」という体験が面白そうというのが半分だ。
結論からいうと、イオンで投票するのは面白かった。けれど一方で、イオンに投票所を設けて利便性を高めなければならないほど、地方議会の投票に行くという行為に、色々なハードルがあることも実感した。
今回はその様子について備忘録も兼ねて書いていこうと思う。
※投票所での写真撮影等は秘密保持のため禁止されています。そのため以降の画像は全てイメージ図でお届けしていきます。
選挙に行く前に
さて、選挙に行く前には、まず誰に投票するか決めなければならない。
白紙投票でもいいのでとにかく投票を、という人もいるが、やはり選挙は誰かを「選ぶ」プロセスだ。(よりマシな)候補者を「選ぶ」ためには最低限情報が必要だ。
そのための手がかりになるのが選挙公報だ。選挙公報は、自治体が選挙の告示期間中に発行する、各候補者の一覧などが書いてあるものだ。
何せ地方議会選は、ニュースでもなかなか話題にならない。
新聞の地方版(私は新聞をとっていないが)には候補者一覧が載っているが、注目度の高い市長選や知事選とは違い、各候補者がどんな人で、どんな政策を訴えているかまでわからないことが多い。
選挙カーや演説会といった手段もあるにはあるが、私は昼間働いていて休日死んだように眠るか外出しているので、その機会もない。
そこで今回は、選挙公報を参考にした。私の市はインターネットでも公開していたのでWebサイトのPDFから確認した。
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![](https://assets.st-note.com/img/1682521782712-m8xeMz82j8.png)
普段から議会中継を見ていたり、応援している政党や候補者が特にいない人にとって、地方議会選というのは「どうやって選べばいいんだ?」と困惑しかない。
「普段から政治に関心を持て」とは言われるが、県議会ならともかく、市議会議員の名前やプロフィールまでチェックしている人はなかなかいない。
むしろ大事なのは「知りたいと思った時(選挙の時など)」に「どういう方法で欲しい情報が(正確に)手に入るか」ということだろう。
最近では、候補者がホームページを開設していたり、SNSをやっていることが多い。
選挙公報だけでは物足りないと感じたら、候補者の名前でパブサ(パブリックサーチ)をするというのも一つの手だ。
ホームページはないけどFacebookをやっている、という人も意外といて、公報だけではわからない人となりや趣味、考え方もわかり、参考になる。
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投票所 is どこ
さて、なんとかネットの情報を駆使して(付け焼き刃で)投票する候補者を決めたら、いよいよ投票に行く。
最寄りのイオンモールはバスで2-30分ほどの場所にある。バスの中で持ってきた選挙の投票券を確認すると、期日前投票所はイオンモールの3階にあるという。
だがいざ行ってみると、すぐにはどこに投票所があるかわからなかった。
何せイオンモールは広く、その中に膨大な数のテナントがひしめいている。その中で投票所は、目立つ存在ではない。
私が行った期日前投票所は、フロアの一角、普段は催し物が行われている(そこまで大きくない)スペースの中にあった。
隣は携帯ショップ、すぐそばに映画館という位置で、入り口に置かれた看板で、かろうじて投票所だと分かった。
投票所の前に立つと、映画館の隣にあるゲームコーナーの賑やかな音楽が聞こえてくる。家族連れ、中学生くらいの集団、老夫婦。老若男女がゲームセンターと映画館に吸い込まれていく。
その中にある期日前投票所、というのはかなり異質な光景だった。
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さて、投票所に入ってみると、通路に1人係員さんがいた。
「投票券はお持ちですか?」と声をかけられたので投票券を見せると、期日前投票の宣誓書(投票券の裏についてるやつ)にサインする記載台に案内された。
記載台には、選挙券を忘れた人用に、宣誓書の用紙が置いてあった。
期日前投票には選挙券が必要なものとばかり思っていたが、選挙券がなくても住所が確認できれば投票できるらしい。
記載台でサインを済ませると、受付で投票箱を渡され、そこからは普通の投票と同じように投票をする。
期日前投票ホールの中がパーテーションで区切られていて、順に記載台→受付→投票記載台と投票箱という流れになっている。この辺りは普通の投票所と似たような感じだ。
投票所は、小学校のホールや役所の投票場所と比べると狭く感じた。ただそれで投票に不便はない。土曜日に行ったのにガラガラで、ゆっくり投票できたし、場所の広さの割に係員さんは多く、丁寧だった。
投票を済ませたあとは、衣料品店に行って服を買い、ダイソーにも寄って、家に帰った。
意識が低くても投票に行っていい
ここまで書いてきた内容からなんとなくわかると思うが、私の一連の投票に至るまでの流れは、そこまで政治に関して「意識が高い」ような人間のそれではない。
私が今の市に住みはじめて、たかだか1年くらいだ。市のサービスを何か利用しているわけでもなく、家を買ってずっと住むつもりもない。市政にどんな課題があるのかも、正直わからなかった。
ぶっちゃけて言うと、「イオンで投票する」という体験がしたいという動機がなければ、期日前投票に行こうとも思わなかったかもしれない。
そして実際、イオンモールで投票するというのは、非日常感というか変なちぐはぐ感があって、普通の投票より面白かった。
投票所が開いた直後投票箱に何も入っていないことを確認する「ゼロ票確認」のため朝早く投票に行く人がいる、という話を聞いたことがある。
そうした選挙のイベント性、非日常感をモチベーションにするというのも、投票しないよりはする方がマシという点では「アリ」なのではないだろうか。
私がイオンで一票を投じた選挙の結果を見てみると、投票率は3割くらいだった。過去最低を更新したらしい。私よりも長くこの街に住んでいる人の方が多いはずなのに、7割の有権者が投票に行っていない。
先述のように、地方の議会というのはメディアに取り上げられることが少ない。「誰が立候補しているのか」「どんな政策を訴えているのか」という情報も、自分で何かしら取りにいかないといけない。
それに加えて、候補者の入れ替わりが少ない、争点が見えにくい、といった理由で「どうせ投票してもしなくても一緒」となりやすいのだろう。
どうせ投票してもしなくても一緒なら――わざわざ候補者を調べて、投票所に行って、一票を投じる、という一連の行為をする人は少ないだろう。
投票所へのアクセスや利便性は、そうした行為のハードルを下げる上では無論重要だろうし、その点ではイオンモールに投票所があるのはとても便利だ。
けれどやはり、「どうせ投票してもしなくても一緒」という無力感があると仕事に遊びに忙しい有権者は、投票という行為にどうしても足が向かない。
「何でもできる」イオンモールにおいて比較的目立たない投票所が「埋もれて」しまっていたように、生活の中で「選挙」という行為が埋没している、というのが実情なのでは、と、今回の経験で感じた。
じゃあどうすればいいのか、というはっきりした答えはわからない。
卵が先か鶏が先かという話になってしまうが、意識が低いながらでも投票に行く人が増え、日常で選挙が話題に上るようになることが――地道だが一番必要なことなのかもしれない。
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「ゼロ票確認ガチ勢」以外にも「投票用紙の手触りガチ勢」とか色々いるのでインターネットは面白いですね(とらつぐみ・鵺)