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箕薇路村で“幻の果実“むさごを食べる(空想フードエッセイ)
皆さんは、「むさご」という木の実を、食べたことがあるだろうか。
むさごは、N県の奥地にある箕薇路村が原産地だが、その小さな村でしか栽培されていない「幻の果実」と言われている。
筆者は先日、そんな珍しい木の実を食べるため、箕薇路村を訪れた。村の外ではその名前すら聞かないが、村の人々にとっては馴染み深いものらしく、様々な形で食べられているようだ。
今日は箕薇路村を訪れた備忘録も兼ねて、幻の果実「むさご」と、それを使って作られたお菓子について紹介したいと思う。
むさごは茹でて食べる
箕薇路村は、人口数百人の小さな村だ。
電車はもちろんバスも通っていない。村に向かうには、荒鷲市から県道を車で1時間ほど走る必要がある。
県道沿いの道の駅ではキャンプ客や時折観光客を見かけることがあるが、それ以外は静かな村だ。温暖な気候を生かした柑橘類の栽培が有名だが、それ以外これといって特徴のない、普通の山村だ。
わたしがそんな村を訪れたのは、箕薇路村出身で、荒鷲市で働く傍ら、休日は道の駅の手伝いもしている知人(仮にAさんとしよう)に「幻の木の実を食べないか」と誘われたからだ。
「むさご」の噂をAさんから常々聞いていたわたしは、早速荒鷲市まで電車に揺られ、そこからはAさんの車に乗せてもらって箕薇路村に向かった。
Aさんによると、むさごの木は箕薇路村の至る所に普通に生えていて、晩秋から冬にかけて、集落の人々は自分が所有する山林に出かけては実をカゴいっぱいに採ってくるという。
「むさご」という名は箕薇路の言葉で「たくさん」を表す「むっさ」からとられたという説があるらしい。
Aさんの家の玄関にも、昨日採ってきたばかりだというむさごの実がたくさん干してあった。収穫した実を1日風通しの良い場所で乾燥させ、真ん中に切れ目を入れると、皮はペリっと綺麗にむけるらしい。
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むさごはスモモくらいの大きさの木の実だ。丸い実の表面の硬い皮は緑色で、茶色い帽子のようなヘタがついていて、まるで青いどんぐりのような形をしている。
![](https://assets.st-note.com/img/1705333906601-fX8aqo8DkZ.jpg)
実を包丁などで二つに割ってみると、中には白い果
肉が詰まっていて、中央部には2、3個種が入っている。
青いむさごは、生のままだと固く、青臭いが、茹でると柔らかく、バナナのような芳醇な香りがしてくる。茹でたものを潰すと里芋のような粘り気が出てくる。
四方を山に囲われ、山林の斜面が大半を占める村には稲作に適した土地が少なく、代わりに小麦や雑穀、イモが主食として重宝され、潰したむさごに小麦粉を加えてこねたものを、焼いたり茹でたりしたものが、よく主食として食べられていたらしい。
今では主食というよりはおやつとしてポピュラーなようだ。
☆箕薇路村の定番おやつ「むさごもち」☆
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作り方
①むさごは皮を剥いて塩茹でにする。包丁で切って種を取り除いた後、マッシャーなどで潰す。
②粘り気が出てきたら小麦粉を少しずつ加えながらこね、小さくちぎって丸めたものを10個くらい作り、手のひらで潰して小判くらいの大きさに成形する。
③フライパンに油を引き、②を並べて焼き、表面に焼き色がついたら蓋をして蒸し焼きにする。
完成したむさごもちは砂糖醤油やきな粉につけていただく。
むちっとした食感はいももちに近いが、一口噛むと独特の香りが口の中に広がる。また塩茹でしているのにほんのり甘く、それがまたクセになる。
むさごは種まで食べられる
むさごもちは、その後案内された道の駅の売店でも売られていた。
売られているむさごもちは小麦粉の代わりにアク抜きしたむさごの種をすりつぶして作る「種粉」が練り込んであり、また違う食感だという。
(種粉入りのは作るのに手間がかかるので、普段家庭で作るおやつは小麦粉メインが普通らしい。年中行事の折に配られるおやつのイメージが強い、とAさんは言っていた)
その売店では特産のみかんやフルーツむさごに混じり、種粉も袋入りで売られていた。ケーキやクッキー生地に混ぜ込んで、アーモンドパウダーみたいな感じで使えるらしい。
実際、村おこしの一環でその種粉を使った新しい銘菓まで開発されている。
☆名物×名物の新しい銘菓「みかんもなか」☆
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村の和菓子屋が開発したというそれは、見た目は「最中」というよりは「サンド」に近い。
七夕などの行事の際食べられている種粉と卵白で作る薄焼き煎餅の間に、特産品であるみかんの砂糖漬けを練り込んだ白餡を挟んだお菓子だ。
食べてみると、サクッとした薄焼き煎餅の食感の後に種粉の香ばしい風味、その後みかんの酸味と白餡の上品な甘さが口の中に広がる、上品な味だった。緑茶に合いそう。
白っぽい煎餅に橙色のあんこが挟まっている見た目は可愛らしく、種粉と卵白で作る薄焼き煎餅はマカロンに近い食感で、洋菓子っぽさも感じるのも面白い。
赤いむさごと青いむさご
むさごは果肉、種ともに食べられる珍しいフルーツだが、自生しているむさごの実は生では食べられない。見た目も、あまり美味しそうには見えない。
また、調理も少し手間がかかる。むさごの小さい果実をたくさん集めてきて皮を剥き、茹でるというのは少し手間だ。
そのためか、青いむさごは箕薇路村の外にはあまり出回っていないーー見慣れない、どう調理していいかわからない、どんぐりのような木の実はあまり売れないのだろう。
Aさん曰く、むさごはこの村ではよく育つ植物だが、ほかの土地で栽培しようとするとうまくいかないという(箕薇路村の気候や土質を完全に再現しないとうまく実をつけないらしい)。
栽培の難しさも相まって、「幻の果実」と言われるまでになったのかもしれない。
しかし最近、「みかん以外にも新しい名物を」という考えからか、生でも食べられるむさごの品種が開発されつつある。
それが道の駅で売っている、皮が赤いむさご、「フルーツむさご」だ。
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道の駅でカットされたフルーツむさごが売っていたので、早速食べてみる。青いむさご同様、白い果肉の中に種がいくつか入っている。
だがフルーツむさごの実は生でもスプーンですくえるほど柔らかく、甘い香りがする。
スプーンを口に運ぶと、バナナのような強い甘みとねっとりした食感を感じると同時に、梨のような瑞々しさを感じる。不思議な味のする果物だ。
そんなフルーツむさごを使ったスイーツを食べることができるのが、道の駅から5キロほど荒鷲市側に行ったところにある、移住者の夫婦が営む喫茶店「カフェ・蜃気楼」だ。
☆村民憩いの喫茶店で食べられる「むさごカッサータ」☆
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カッサータとはチーズとたっぷりのフルーツを混ぜて冷やし固めたシチリアの伝統的なデザートだ。
この店のカッサータは、チーズクリームの中にフルーツむさごのペーストを混ぜ込み、フルーツやナッツと一緒に冷やし固めている。
チーズクリームのコクに、甘いけれどしつこくなくどこかさわやかな味のむさごがよくマッチしている。サイフォンで入れたコーヒーともよく合う。
村民に人気なのも頷ける、魅惑的なデザートだ。
ここまで、箕薇路村で食べられる謎の木の実、「むさご」について紹介してきたが、いかがだっただろうか。
もし興味を持たれた方がいれば、ぜひ道の駅に立ち寄って食べてみてほしい。
食べ慣れない味で最初は戸惑うかもしれないが、いつのまにか虜になっていること間違いなしだ。
※このフードエッセイはフィクションです。箕薇路村もむさごも実在しません。仮に似た地名の場所や果物があってもそれとは無関係ですので、あしからず。
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ジャポニカ学習帳の表紙の裏に熱帯の謎フルーツの紹介文が載っていて「美味しそうだなあ」と思った思い出。表紙は虫ではなく植物だった世代です(?)(とらつぐみ・鵺)