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SF少年だったカズおじいが語る現代物理学(霧箱からCERNへ)

霧箱で宇宙線の飛跡を見る……何のことか分かりますか?
そもそも霧箱(桐箱ではない)とは何だ? 宇宙線(宇宙船ではない)とは何だ?

まず、「宇宙線」とは宇宙から飛んでくる高速の素粒子やガンマ線などを指します。
オーストリアの科学者ヘスが1912年に気球観測で発見。
彼はこの功績で、1936年にノーベル物理学賞を受賞しています。

あらゆる方向から、宇宙線が地球に向かって無数に降り注いでいます。
有害なものも多いですが、我らが地球の大気圏が、人類を守ってくれています。

初期の頃、宇宙線研究とは高速の素粒子(荷電粒子)でしたが、近年ではニュートリノ、ガンマ線、重力波(重力子)なども仲間に加えられ、幅広い研究が行われています。

ところで、「霧箱」は1897年に英国の物理学者ウィルソンが開発した、放射線を検出するための装置です。

トムソン博士の電子の発見を皮切りに、陽電子の発見、コンプトン散乱、原子核衝突、宇宙線の研究など多岐に亘って現代物理学に貢献してきました。ウィルソンの霧箱とも呼ばれます。

ウィルソンは1927年のノーベル物理学賞を受賞しています。
ちなみにトムソンも1906年にノーベル物理学賞を受賞しています。

霧箱は、飽和状態のアルコール蒸気などをガラス箱にとじこめたもの。
ドライアイスで冷やすことにより、内部のアルコール蒸気は霧の粒になりやすい状態(過飽和)になります。

この中に、荷電粒子や放射線を走らせると、気体分子のイオン化が起こり飛跡が観測されます。
成層圏でジェット機などが作り出す飛行機雲と同じ原理です。

そうやって長い間、霧箱で物理学者は宇宙線の通った軌跡を観察してきました。原子核や素粒子同士の衝突を、曲がったりぶつかったり具合を観測して質量や電荷を調べたり……。

霧箱自体もどんどん改善、グレードアップしました。
そして電子や放射線・陽電子の検出など、長い現代物理学研究の歴史になりました。

実験の一例……宇宙のかなたから飛んできた宇宙線「1次宇宙線」が大気圏上部の空気分子と衝突します。
そこで2次宇宙線が生まれ、地上に降ってくるのです。ここで生まれるのがミュー粒子です。

地上約10km上空で作られた、ミュー粒子の平均寿命は約2.2マイクロ秒(50万分の1秒)です。
その短い時間では光速度でも600mしか進むことができません。

しかし、ミュー粒子の速度は光速度に近いので、相対論効果により約10倍ほど寿命が延びます。
それによりミュー粒子は、なんと地表で観測されます。
これが「速く走ると時間が延びる」という、アインシュタイン・相対性理論の実証実験になりました。

ミュー粒子関連の現象は基礎的実験として、いまでも行われています。
霧箱の替わりにいまでは、電気信号をデジタル化して取得する方法に変わっています。
観測装置は霧箱の原理として、大きく発展してきています。

さらに「粒子を見る」流れは、現代の巨大プロジェクトの研究施設・粒子加速器に繋がっています。

日本では茨城県にある「KEK」(高エネルギー加速器研究機構)や兵庫県の「SPring-8」、さらにはフランスとスイスの国境にあるCERNが有名です。CERNは欧州原子核研究機構。地下約100mのトンネルが掘られ、全長約27kmの大型ハドロン衝突型加速器が設置。世界最大規模の素粒子物理学の研究施設です。(ほぼ山手線です)

CERNは、重力子グラビトンを除いては最後の素粒子と言われたヒッグス粒子の発見場所です。
2012年、世界中の素粒子物理学者たちが待ち望む、ひとつの素粒子が見つかりました。最新現代物理学の「標準理論」により予言された、物質に質量を与えるヒッグス粒子です。

あれから10年以上経って、素粒子の「標準理論」を明確に超えた現象は見つかっていません。
暗黒物質(ダークマター)や暗黒エネルギー(ダークエネルギー)という現象だけがみつかり、「標準理論」の中には納まりません。

霧箱からCERNまで、現代物理学は大きな発展を遂げましたが、大きなジレンマを抱えています……。

百年かかって到達した場所は「謎」でした。

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