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HubSpotカスタマーサクセス担当としての1年を通じ、私が学んだ最も大切なコト

皆さんこんにちは。

HubSpot Japanマーケティング部の向井(@Takuma Mukai)と申します。

HubSpotでブログを書いたり、Web広告運用をやったり、主にデジタルマーケティング全般を担当しております。

実は、マーケティング部に在籍をする前は、カスタマーサクセス担当を1年やっており、HubSpotを導入しているお客様のマーケティングを一緒に考え抜いて伴走する立場でした。

個人的には、HubSpotのカスタマーサクセスを経験したおかげで、自社マーケティングを担当した後も役に立った事が沢山あったなと思っており、せっかくなので(1年越しになるのですが)

・現職カスタマーサクセスの方
・これからカスタマーサクセスの立ち上げを検討されているCS責任者の方
・経営者としてカスタマーサクセスの立ち上げを検討されている方

向けに、僕が実務を通して得られた知見や学びを共有できればと思います。

真のカスタマーサクセスとは?(私見)

カスタマーサクセスという言葉は、SaaS界隈ではある種ホットワードなのかなと個人的には感じております。私もカスタマーサクセスの実践方法を教えて欲しいという相談が知り合い経由で頂く事も最近では増えてきました。

おそらく、カスタマーサクセス時代に、HubSpotブログで書いた記事が「カスタマーサクセス」指名ワードで検索上位に表示されているおかげなのかなと思っております。*カスタマーサクセスという単語が聞き慣れない方は、是非とも以下のブログを読んで頂けると幸いです。

バズワード的になっているカスタマーサクセスですが、「既存顧客に対してアップセル/クロスセルを実施して売上をあげるための担当者」、いわゆるアカウントマネージャーと呼ばれるような存在として捉えられている印象が個人的には強いです。

しかし、文字通りですが、カスタマーサクセスとは顧客を成功に導く担当者だと私は思っています。

顧客が成功して、結果として、より多くの報酬を払ってくれる訳であって、自社の売上を上げるための担当者として位置付けてしまうと目的手段がすり替ってしまいます。 

しかし、すべての企業が営利目的で運営される背景を考えると、カスタマーサクセスとは、まさに言うは易く行うは難しの概念だと言えるでしょう。

では、本当に顧客の成功に寄り添えるカスタマーサクセスを実践するためには、組織的にどんな仕組みを持たなくてはいけないのか?また、担当者レベルで、どのようなアクションを実践していけば良いのか?などを考察していきましょう。

HubSpotカスタマーサクセス組織の体制

では、HubSpotが実践しているカスタマーサクセスの体制をご紹介します。

HubSpotでは、導入支援を実施するカスタマーサクセスと導入支援後に顧客の成功に伴走するカスタマーサクセスの2つに担当が分かれています。 

それぞれの役割・業務内容・目標を簡単に説明すると

(1)導入支援を実施するカスタマーサクセス:Customer Onboarding Specialist(カスタマーオンボーディングスペシャリスト | 以下、COS)

役割:顧客がサービスを使って自走状態になる事を支援

HubSpotでも当初は、カスタマーサクセス担当者が1人で導入支援と支援完了後のサポートを実践していました。

しかし、導入初期段階が最もお互い痛みを伴うのと、導入初期段階における小さな成功体験の積み上げが、1年後の継続率に大きく影響する、という傾向がデータから分析できたので、今では導入支援専任のカスタマーサクセス担当者が設置されています。

また、HubSpotの導入支援は有料で提供されています。(価格:3万円~96万円)

お金をわざわざ払わなくちゃいけないの?って声が聞こえてきそうですが、私個人の経験としても、費用を払って導入支援を受ける顧客とそうではない顧客では、取り組む姿勢が全く違います。

SaaS全般に共通して言える事ですが、導入成功の秘訣は、導入推進をする担当者のコミット力です。

会社としても、質の高い導入支援を提供できるように、しっかりと顧客からお金をもらう。というのは案外お互いに大切なのかもしれないな、と個人的には感じている部分です。

業務内容:週1回の定例ミーティングの実施、及び使い方や概念を習得するためのハンズオントレーニング 

実際に支援している内容としては、まずは初回のミーティングで導入支援期間中(1~3ヶ月程度)で、実現したいゴールを擦り合わせます。

ここで重要なのは、顧客に関しての情報をどこまで詳しく収集できるかです。

カスタマーサクセスに求められる役割は、顧客を成功に導く事です。

実際に手を動かして顧客を手助けする訳ではないので、顧客の状態や目指している場所を解像度高く認識していく必要があります。

具体的にヒアリングする項目を簡単にご紹介すると

【Object】目標
目指している目標の大きさや時間的な制約によって、アクションプランは大きく変わります。

例えば、半年後に売上を100倍にしたい、という目標なのに、リソースが全く掛けられないでは、どう頑張っても達成しようがありません。

逆に、目標は同じであったとしても、達成までに残された時間猶予が半年間なのか1年間なのでは、優先すべき事項が変わってきます。

さらに、目標を正確に認識しておかないと、なぜ?(Why)顧客が、企業としてリソースを割いているのかの背景を読み取れません。

顧客が望むゴール達成を伴走するカスタマーサクセスとして、目標のヒアリングをしていない事は、そもそもスイカがないのにスイカ割りをしている人に「もう少し前に進んでから右だよー!」と声掛けしているのと同じです。

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SMARTゴールというフレームワークを利用すると、スムーズに目標のヒアリングが可能なので、是非とも試してみてください。

【How】目標達成に対して現在実施している施策
現状実施している施策レビューを通して、顧客が目標達成に向けて投下をしているリソースを把握します。

リソースの中では、主にヒト・モノ・カネを詳しく聞いていきます。特に、ヒトの部分では単純に人日だけではなく、ヒトが持つスキルやノウハウを詳しく把握する事が、目標達成に向けて重要となります。

なぜなら、たとえ人日が計算できたとしても、何か新しい施策を実行する際に大切なのは経験値です。

経験値がないのであれば、それを考慮した上で、次の打ち手まで考えながら、誰に・何を・いつ実施してもらう事が、成功に向けての最速のアプローチなのかを導かなくてはいけません。

【What】ビジネスモデルやターゲットの詳細 
事前リサーチを徹底にする事は前提にありますが、顧客に聞かなければわかりづらい部分は、初回ミーティング内で深掘りしてヒアリングします。

特に、HubSpotの提供サービスが、マーケティング・セールス・サービスとビジネスにおけるバリューチェーン上の広範囲に及ぶため、どのようにユーザーに対して価値提供をしているのか?詳しく把握をしておかないと、会話が噛み合わなくなってしまいます。

初回ミーティング実施後は、週に1回程度の頻度でゴール達成に向けて必要な知識やノウハウを顧客に移管をしていきます。COSが手を動かして支援をする訳ではないので、顧客はCOSから提示されたアクションプランを実践していかなくてはいけません。

顧客がツール内にログインをしているのか?どの機能まで使えているのか?というのは担当者側は確認できるダッシュボードがあるので、その診断結果を見ながら、顧客を自走状態までハンズオンで導いていきます。

目標:導入支援終了後のヘルススコア

目標は、導入支援終了から一定期間経過した後のヘルススコアが用いられます。*HubSpotのヘルススコアの算出方法に関しては、以下のブログで詳しく解説しているので、気になる方は読んでみてください

一定期間が経過した後でも、ヘルススコアが良好な場合、顧客が自走しながら継続的にパフォーマンスが出せている証拠なので、COSとしては良質な導入支援を提供できた、という評価を受ける設計になっています。

少し余談ですが、数年前まで、このヘルススコアは、カスタマーサクセス担当者によって顧客ごとに手動で計算されていました。

手動の精度が立証されてから、現在では機械学習による自動化が実現されており、カスタマーサクセス担当は自分が担当している顧客の健康状態が俯瞰して、かつひと目で判断できるという優れものでした。

もし、ヘルススコアを自社でも実装されたい場合は、まずはカスタマーサクセスロードマップ作成に取り組んでみてください。

『顧客が価値を感じるポイント』『価値を感じるまでの障壁』を言語化した後に、実際に計測すべき指標(=KPI)を設定すると、打ち手が見えるのではないかな?と思います。

カスタマーサクセスロードマップを実際に作ってみたい方は、以下のテンプレートを参考にしてみてください。

(2)顧客の成功に伴走するカスタマーサクセス:Customer Success Manager(カスタマーサクセスマネージャー | 以下 、CSM)*私が在籍していた方

役割:顧客がサービスを使って成功を実現できるように伴走 

個人的には、本当にカスタマーサクセスは、やり甲斐が大きな仕事だったなと思っています。PDCAで言うと、COSがPlan(計画)とDo(実行)を担当、CSMがCheck(評価)とAction(改善)を担当、とイメージして頂くと役割が理解しやすいかもしれません。

COSと比べると、ミーティングの頻度が、3ヶ月に1回程度と少ないのが特徴です。

HubSpotが定義する成功とは、インバウンド手法を実践してビジネスを成長させる事です。

実際に、お客様のビジネスが成長する瞬間に立ち会えるのは、カスタマーサクセス冥利に尽きると感じていました。

業務内容:四半期に1回程度の定例ミーティングの実施、及びビジネス成功に導くためのコンサルティング全般 

実際に、私が実施していた内容は

・【定例1時間前までに】前回までのミーティング内容の振り返り

・【定例30分前までに】顧客の状態を分析(ツール使用状況、ビジネスパフォーマンスの確認「が出来るようにダッシュボードを構築してもらっていた」)

・【定例10分前までに】当日のアジェンダで伝えたい事と提示するアクションプランの決定

・【定例終了後に】アクションに必要な各種マテリアルの共有と振り返りノートの共有(忙しくて実施デキない事も正直多かった)

という流れです。基本的にZoomでのオンライン会議になりますが、ミーティングが多い時は、1日5~6件くらい朝から夕方まで予定がぎっしり詰まっていたので、高速で質の高いミーティングをどれだけ実施できるか仕組み化とスキルアップに当時はフォーカスしていました。

HubSpotの前職が、メディアアプリのグロースハックを担当していたので、デジタルマーケティングの基礎知識やSEO、Web広告を実践する上でのノウハウをハンズオンでお伝えできたのが、個人的な強みだったので、その価値を最大限に活かしたっていうのが、良かったのかなと感じました。

ただ、ロジカルシンキングやコンサルティングのスキルは、ほぼ皆無だったので、先輩たちにおすすめの本をたくさん紹介してもらってインプットしながら、日々の打ち合わせでアウトプットするを半年間くらい続けていくと何となく感覚が掴めてきたのを覚えています。

定番なんですが、個人的に読んだ後に、ちょっと考え方が変わったな、と思う本は「イシューからはじめよ」です。

顧客の課題を的確に捉えるためには、コンサルティングスキルがある程度必要かなと思うので、苦手意識が強い人は是非とも読んでみると良いんじゃないかなと思います。

目標:チャーンレート(レベニューベース)

詳しいKPIは話せませんが、ざっくり言うと、月初の担当しているMRRのトータル金額に対して、当月どれだけのMRRが解約してしまったのか、という割合を示すための指標です。

更新期限は基本的に決まっているので、数ヶ月先の更新案件を自分で捉えながら、支援を注力する顧客を優先度付けて対応していました。

しかし、顧客から見ると顧客の担当者は私たち1人なので、日頃からの丁寧なコミュニケーションや状況把握が何よりも大切です。

個人的には、会える人たちには直接会いに行けるようにしていましたし、電話で話をした方が早そうだなって思った時には、直接電話をかけていました。

そうする事で、結局担当者同士に信頼感が生まれるので、結局はヒトとヒトの繋がりが一番大切なんだと実感した部分でもあります。

また、顧客のビジネスを深く理解するのも重要です。結局は、顧客と同じ視座で議論ができるか否かが顧客から頼られる存在になるためのポイントだと思います。

そのために、顧客の理想的な顧客(ペルソナ)カスタマージャーニー、時には事業計画まで共有してもらった上で、一緒にゴールを実現しようとしていました。(競合となり得る上場企業の決算書などを読み込むのもオススメです)

本当に顧客を成功に導いていくのであれば、顧客のビジネスに関する知識を徹底的にインプットしなければ、同じ方角を向きながら山を登れないんだろうな、とこの原体験から学ばせてもらえました。

私がカスタマーサクセスを実施する上で最も大切だと思うたった1つのコト

SaaSにおけるカスタマーサクセスとは、顧客に対して提供するプロダクトの一部だと思います。

特に、様々なサービスや製品がコモディティ化をしてきている現代において、価値の源泉がサービスよりもヒトにシフトしてきていると思います。

例えば、皆さんもどんなに料理の味が素晴らしいレストランで食事をしたとしても、店員さんの態度が最悪だったら、友達におすすめしようとは思わないんじゃないでしょうか?

逆に、ディズニーランドが長年愛され続ける理由は、キャストの対応が素晴らしいから、とみんなが口を揃えて言っています。

なので、カスタマーサクセスとは、サービス精神に溢れたディズニーランドのキャストのようになる事が理想的なのではないかなと個人的には信じたいところです。(少しメルヘンすぎな考え方かもしれませんが笑)

では、そのようなヒトを創り出すためには、どうすれば良いのか?

HubSpotは、その問いに対する答えがありました。それは、カルチャーです。

HubSpotでは、企業として「こうありたい」と願うカルチャーの理想像が言語化されています。

総数100ページ以上にもおよぶ、このカルチャーコードを社内だけではなく社外へも共有しているため、カルチャーにフィットした人材を数多く惹きつけています。

私自身も、当初はHubSpotのセールス担当として応募をしていたのですが、面接の途中で、カルチャー(=価値観)的に、カスタマーサクセスの方がフィットしているんじゃないかという事で、急遽採用プロセス途中にも関わらず、カスタマーサクセスの採用プロセスに切り替えて頂きました。

このように、自社のためではなく、その人のキャリアに沿って個人を大切をしてくれているんだなと、非常に感銘を受けた事を覚えています。

HubSpotの掲げるミッションは「Help Millions of Organization Grow Better」、このミッションは元々はカスタマーサクセスの組織内で作られていたミッションでしたが、最終的には全社としてのミッションになりました。

素晴らしいカルチャーが素晴らしいヒトを生み出し、そして「こうありたい」という想いが顧客にも伝染しているのだと思います。

皆さんも、単に教科書通りのカスタマーサクセス組織を立ち上げるのではなく、まずは組織として「どうありたいのか」を言語化し、それを実現するための価値観を全員で話し合ってみてはいかがでしょうか?

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