装具を付けている方の気持ちを、知りたいと思った時の話
脳卒中の影響で足に麻痺が残ってしまった時、装具の装着を強いられる場合があります。
金属製のものやプラスチック製のもの、素材は違えど装着している「違和感」を多くの方が感じるようです。
特に、理学療法士として働いている僕は日常的に装具を使っている方と接するため、その「違和感」について相談される機会は多くあります。
「なるべく付けておいて下さいね」と、安全性を優先して言うのは簡単です。
ただもし、自分が同じ状況で相談した時には、この返答で納得できるのか。
そんな想いを持ち「半日でもいいから装具を付けて生活してみよう」と思ったのが、今回取り上げるお話のプロローグです。
結果は見えているようなものですが、自身の体を使って感じたことを綴っていきますので、気になる方はぜひ読んでみてください。
「装具はキツい」の気持ちを理解するために
僕の担当しているAさんは、プラスチック製の装具を使用しています。
装具を装着していればなんとか一人で歩けるレベルです。日頃のリハビリとして、家の中は歩いてもらいたいと考えていました。
しかしAさんは、自宅の中を車いすで移動しているんです。リハビリ担当者としては気になるところ。
ただ「歩いて欲しい」という自身の主張を伝える前に、「なぜ歩いて移動しないんですか?」とAさんに聞いてみました。
すると、Aさんから『装具をずっと着けてるのはキツい…』と言われたんです。
「歩くタイミングだけ付ければいいのに…」と言うのは簡単でしょう。でも、一つの用事を終えるたびに装具を脱ぎ履きするなんて、自分でも嫌だなと思いました。
特に夜間のトイレなどは急に行きたくなるものです。寝起きで急に装具を付るなど、健康な身体を持っている人でも難しいかもしれませんね。
僕だったら、装具の装着を面倒くさがって3回に1回は転ぶ自信があります。
そんな想像をしてしまった手前、僕の口からは「ずっと付けててください」と言えなくなってしまったんです。
「どうしたらAさんに合ったアドバイスができるだろう?」と頭を捻らせた結果、『装具を付けているのはキツい』を理解するために、半日付けて生活してみようと思ったんです。
半日装具を着けてみた結果…痛いし、気になる
思い立ったが吉日と思い、さっそく職場にある装具を借りて半日生活をしてみました。
結論から申し上げますと、合わない装具を着けていると…「痛い」(笑)
ぼくの足に合わせて作った装具ではないため、当然の結果といえばそうなんです。
けれど、自分が担当している方に同じことが起きていたとしたら…
考えただけで急に怖くなってきました。
Aさんには写真のような傷はありませんし、できないように気をつけて観察しています。けれど、これだけ皮フと接するものですから、1日中着けていれば『ツラい』というのも納得です。
また、会う人から必ず「どうしたの?足の怪我でもしたの?」と言われました。付けている側もそうですが、付けているのを見た側も、装具は「気になる」対象のようです。
半日のみの装具生活でしたが、「キツい」という気持ちが十分にわかる、検証結果を得られました。
相手の想いをわかったからこそ、納得して次に進める
「装具をずっと付けているのはキツい」という結果を受けて、Aさんの移動手段は現状維持の車いすとなりました。
本人の意思尊重だけでなく、安全性や生活の質など、様々な観点から判断した結果です。
とはいえ、歩く可能性を捨てたわけではなく、「徐々にステップアップしていきましょう!」とポジティブな話しもできています。
それは「Aさんの気持ちを理解しよう」と自身から歩み寄り、行動した結果得られた結論だったのかもしれません。今回の体験は僕にとっても大きな気づきを与えてくれるものでした。
Aさんの課題は何一つ解決できていませんが、今後も工夫して、時には体も張って、考え抜いていこうと思います。
今回のオチ
Aさんに「半日装具生活」の話をしたら、お腹を抱えて笑われました(笑)
傷のついた足を写真で見せた際には「毛が気になってそれどころじゃないw」とさらに笑われ、話のネタになったのはいい思い出。
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