ATP500)バルセロナ
男子テニスのバルセロナ・オープン。
シングルス決勝の対戦カードは第1シードのアルカラス対第2シードのチチパス。
去年のこの大会でも、確か準々決勝でこの二人は対戦している(チチパスが苦し紛れにネットに出たアルカラスにボールをぶつけようとした試合)のですが、もうこの二人の実力差がはっきりと出た試合だったと思います。
スコアは6-3、6-4でアルカラスが勝利しましたが、ポイント差以上に実力差を感じた内容でした。
◆ ◇ ◆
去年まではチチパスの多彩なコースの打ち分けと、ネットプレイを織り交ぜた攻撃力の前にアルカラスも押されるシーンが度々ありました。それでも大事なポイントで思い切った強打を決めたアルカラスが勝利したような印象でしたが、今年の試合はそれとはまるで違う展開。
はっきり言ってレベルが違う。
ビック4とそれ以下でレベル差があった時代のように、アルカラスとチチパスの間にははっきりとした差が出てしまっているのです。
ストロークの平均スピードはアルカラスのつなぎのボールがチチパスのエース狙いの強打と同レベルかそれを上回り、アルカラスがしっかりハードヒットしたボールをもうチチパスは満足に弾き返す事ができないような感じ。チチパスが良いサーブをコーナーギリギリに打って、帰ってきたボールを逆サイドにオンライン近くに打ち込んでも、追い込まれた状況からアルカラスはしっかり力のこもったボールで逆襲できてしまう。
ストロークのラリーだけではアルカラスの方に分があるのはチチパスも感じているだろうから、ネットプレイで対抗したい。でも安直なサーブ&ボレーやアプローチからのネットダッシュではもう抜かれ放題になるのは目に見えているから、なんとか左右に揺さぶって追い込んでからネットに出る必要があるのですが…その組立が現実問題としてほぼ不可能なんですよ。
どんなに揺さぶってもアルカラスは素晴らしいフットワークと鍛え上げた筋力、バランス感覚で逆にチチパスのコートに空きができるのを冷静に狙っている。そして少しでもボールが甘くなればしっかり足を止めてハードヒットを打ち込む。それが一発入り始めるとチチパスはいっぱいいっぱいになり、主導権はもうアルカラスから動かない。
そしてそのものすごい強打を警戒してポジションを下げた瞬間、それを読んだアルカラスの絶妙すぎるドロップショットが来るのですからたまらない。
おそらくこの試合で10本以上のドロップショットでエースを奪っているはず。面白いほどよく決まっていました。
そのドロップショットを拾うためには常にベースライン上でアルカラスのハードヒットをさばき続けることが求められますが、チチパスはライジングのストロークをそれほど得意とはしていない(ハードコートで成績が今一つなのはここに原因があると僕は思っています)為に、それができない。
ポジションを下げてもダメ。前に立てば返球しきれない。分かっていてもアルカラスにどう対抗していいのか、戦術を立てることができなかった。この事実にチチパスは衝撃を受けたんじゃないかなぁ。
2021年の全米でチチパスが負け、その後アルカラスは世界で注目されるようになりました。それから確かアルカラスには3連敗ぐらいしているはず。でも今までは負けながらもアルカラスの無理なハードヒットから来るミスに助けられたり、もう少しセカンドサーブに対して攻撃を仕掛けて自分のペースで試合をできていた感じだったのに、今日のアルカラスには自分は何をやっても通じない…そんな感触があったはず。
ライブでこの試合はずっと通して観戦しましたが、今やアルカラスの大ファンの僕から見て、今日の彼は全力を出してないですよ。もちろん手を抜いた試合をするはずなんてありませんが、でもシナーと度々ものすごい接戦を繰り広げて、勝ったり負けたりしてるレベルと比較すると、この大会での彼は「普通にプレイしているだけ」のような印象を受けました。まだ2段階ぐらいギアを上げられる余力を残しながらATP500で優勝してしまうのですから…もうこの2年ほどで恐ろしいほどの成長を遂げているのですよ。
デビュー当時のアルカラスはフットワークと粘りの印象が強い選手だったのが、徐々にフォアのハードヒットとドロップショットやネットプレイの巧みさが際立ちはじめ、でも自分が色々な事ができるようになった為に、無理をしすぎたり、使い所を間違ったりするような時が、去年まではまだありました。
でも今の彼はそういう危うさがない。
もう間違いない。アルカラスは歴史に残るチャンピオンとして名を残すでしょう。
今までの男子テニスとは、彼一人が違う段階に到達しつつあるように思えます。
そして次はマドリッド。
去年は確かナダルとジョコビッチを連続して倒して優勝した大会ですが、その二人は今年のマドリッド大会には出場しないと発表がありました。
アルカラスは怪我だけに気をつけて今のプレイを積み重ねていけば、全仏の優勝も見えてくる。
まだこれで19歳なんですから…もう信じられませんよ!
何なんだ一体!
(=゚ω゚)ノ