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【ショートショート】空を飛ぶ船
その船が完成したとき、世間は歓声と疑念の入り混じった騒ぎに包まれた。
「空を飛ぶ船だと? 馬鹿げた話だ!」
「いや、本当に空を飛ぶらしいぞ!」
どちらにせよ、人々の興味を引きつけるには十分だった。
造船会社の社長、徳永は胸を張って言った。
「これは新時代の幕開けだ。これからは空の旅が日常になる!」
その背後で、技術者たちが神妙な顔で機械の調整を続けていた。試験飛行はまだ成功していない。しかし、メディアが待ち構える中、失敗の可能性など考えたくもなかった。
その船は「シリウス号」と名付けられた。全長は80メートル、外観はまるで海を行く豪華客船のようだ。だが、船体の底部には巨大なプロペラとジェットエンジンが備え付けられている。その斬新なデザインに、人々は驚嘆の声を上げた。
ついに、初飛行の日がやってきた。
空港に集まった群衆の中には、期待に胸を膨らませる者もいれば、眉をひそめる者もいた。シリウス号に搭乗したのは、徳永社長をはじめとする数名のVIPと、厳選されたパイロットたちだった。
プロペラが回り始め、エンジンが低い唸り声をあげる。シリウス号はゆっくりと滑走路を進み、ついに地上を離れた。観衆の歓声が空に響く。
「本当に飛んだ!」
その瞬間、徳永は胸をなでおろした。だが、同時に背筋を冷たい汗が流れる。技術者から何度も聞かされていた言葉が頭をよぎる。
「もし空中でバランスを崩せば、一瞬で墜落します」
シリウス号は順調に高度を上げ、青空を滑るように進んでいく。客室では乗客たちがシャンパンを片手に笑顔を浮かべていた。だが、突然、警報音が響いた。
「エンジンの出力が低下しています!」
パイロットの声が緊迫感を帯びる。操縦室のモニターに映るデータは、まさに最悪の事態を示していた。
「すぐに緊急着陸を!」徳永が叫んだ。だが、近くに適当な着陸地点はない。
そのとき、一人の技術者が慌てて操縦室に駆け込んできた。彼は小型のタブレットを操作しながら言った。
「まだ実験段階ですが、新しい推進システムを試すしかありません!」
「新しい推進システム?」
「はい。エネルギー効率を最適化した補助エンジンです。ただし、出力が不安定で……」
徳永は迷う間もなく叫んだ。
「それしかない!やってくれ!」
技術者がタブレットを操作すると、船体の底部から新しいエンジンが作動する音が響いた。船体が激しく揺れるが、少しずつ高度が安定し始めた。乗客たちは恐怖で顔を青ざめているが、どうにか無事に飛行を続けられそうだ。
そのとき、一人の乗客が窓の外を指さした。
「見て!あれはなんだ?」
空に浮かぶ一隻の船影が見えた。それはシリウス号とは全く異なる、優雅なデザインの船だった。帆が風を受け、太陽の光を反射して輝いている。まるで空の中に迷い込んだ幻のようだった。
「他にも空を飛ぶ船があったのか……?」徳永は呆然とつぶやいた。
すると、謎の船はシリウス号に近づき、まるで挨拶をするかのように一瞬だけその姿を見せた後、雲の中へと消えていった。
その後、シリウス号は無事に地上に着陸した。大惨事を免れたことに安堵する一方で、徳永の心にはある疑念が浮かんでいた。
「あの船はなんだったのか……?」
メディアや科学者たちが謎の船について議論を重ねたが、何の手がかりも得られなかった。
ただ一つだけ確かなことがあった。シリウス号の冒険が、人々に空の可能性を信じさせたように、あの船もまた新たな夢と希望を運ぶ存在だったのかもしれない。
そして、その日以降、空を飛ぶ船に憧れる人々の夢は広がり続けた。空を飛ぶ船は、もはやただの技術ではなく、人類の未来を象徴するものとなったのだ。