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ゲストハウス経営と「場を作りたい」若者たちの話

こんばんは。
倉敷の美観地区で『株式会社行雲』という会社をやっている犬養といいます。

先日、うちの会社のゲストハウスを閉業する理由をnoteで書きました。

その流れで、noteでいくつかゲストハウス経営に関する話でもしようと思います。

今回は「場を作りたい」と言う若者たちの話です。

「場やコミュニティを作りたい」という若者はとても多い

うちの会社の社員/アルバイト、すべての採用を僕が見ているんですが、「場(コミュニティ)を作りたい」という若者はとても増えているなと感じます。

もちろんうちがゲストハウスや地域に根ざした宿・ショップをやっているので、そういう子が集まりやすい、というのはあると思います。

そういう「場を作りたい」若者がなぜ増えているのかという社会学的な推論は、本題から逸れるのでここでは割愛しますが、僕はこれまでそういう子を採用したことはほとんどないんですよね。

その理由を、ゲストハウスを経営してきて感じることと絡めながら書こうと思います。

「場を作る」ことをただ善として持ち上げすぎ

「場を作る」っていう言葉自体が、ちょっとクセ者なんですよね。

この10年ぐらいだいぶ流行り言葉になっていて、その言葉を持ち出されるとその気持ちは認めなきゃいけない、「それは大事だよね」っていう話にならざるを得ない感じがあるので。

その背景には、ファクトや実績に拠ることなく雰囲気でそれを持ち上げているローカル系のメディア・ライターさんの影響があるように思います。

日本の町づくりを紹介する記事などで、よく「地域の場としても活用されている」みたいな表現があるじゃないですか。
僕はああいう物言いは、ほとんど信用していないんですよね。

あるメディアでそうして紹介されていたカフェ、宿、施設が数年後にはもう閉鎖されているっていう例、多すぎないでしょうか。

一度訪れたぐらいでは本当にその地域で場を作れているのかどうかは分からないのではと思うのですが、それでも「地域の場として活用」というのがなんとなく耳障りがいいので、そっちに流れていくんじゃないかなと思っています。

そしてそういう言説や雰囲気を受け取って、「自分も場を作りたい」と思う人も増えているんじゃないかとは思っています。

「場を作る」だけではお金は生めない

ただ、「場を作る」だけだとお金は生めないということはしっかり言わないといけないし、「場を作りたい」という若者にはまずそれを分かってもらわないといけないと思っています。

分かりやすい例が、公園などの公共の施設・設備です。

公園は、人が集まる場で、間違いなく社会にとって必要なものです。
でもお金を出してそれを作り、維持しているのは国や自治体ですよね。

そのように「場を作る」というのは、限りなく公共福祉的な概念なんですよね。

もう一つ分かりやすい例として、検索エンジンを作ったGoogleも挙げられるかもしれません。

Googleは有用なアルゴリズムを作って、Googleで検索をする人を増やしました。
でも上記の公園の例と異なるのは、Google検索という人がたくさん集まる場を作ってから、その後に広告というマネタイズの手法があるという点ですよね。

なので、ただ「場を作る」というだけではお金は生まれず、それでも社会には必要なので公共福祉的となる、ということです。

「行政に行った方がいいのでは」

この4〜5年で増えている「場を作りたいんです」という若い人のうち、多くがその「場を作ること」自体が目的のように見受けられます。

その動機はとても純粋で、心から「人のため、社会のため」と思って、そう志向していることはよく分かります。

ただ、うちのような地方を拠点にしたベンチャーでそれが事業として成り立つかというと、それはほぼ成り立たない(もしくはすごく厳しい)と予想されるんですよね。

そういう志望の話を聞くと、僕としては「それは行政か、もしくはUR都市開発みたいな独立行政法人、公益社団法人に行った方がいいのでは」と思うのが率直なところなんです。

ゲストハウスのジレンマ

宿泊業の中で、ゲストハウスという業態の最大の特徴は、交流です。

うちの『ゲストハウス有鄰庵』も、特にそこに振り切ってやってきました。

具体的には、18:30にゲストさんとスタッフ全員で自己紹介をするチェックインタイムを設けてから、22:00の就寝まで(日によってはそれ以降の時間も)ほぼずっと、スタッフはゲストさんに触れて交わるスタイル。

それはもちろん倉敷を訪れてくれたゲストさんにとって大きな価値になると思っているからやってきたことですが、ビジネス的にはとても厳しい形であるのも確かです。

そのことは、一昨日に書いたこのnoteでも触れました。

ゲストさんとコミュニケーションをとる時間が長くなると、それだけ儲かりにくくなるというジレンマがあります。
(『ゲストハウス有鄰庵』の場合は、それを承知でそこに振り切ってやることを特徴にしていましたが)
また、上で書いた「社会人としての考え方やスキル」の面でいうと、ゲストさんとたくさん話すことでそれらが多く身についていくかというと、もちろん貴重な経験ではあるんですが、身につくものの幅がやや狭いんですよね。
余談ですが、これがキャバクラなどのように「コミュニケーションがそのままお金になって反映される」という構造だと、「社会人としての考え方やスキル」はもっと身につきやすいかもとは思っています。
No.1キャバ嬢のコミュニケーションスキルとか、どんな会社に行っても通用しますよね。
ただ残念ながらゲストハウスでのコミュニケーション訓練は、構造的にそこまでには至らないかな…と思っています。

18:30から22:00までの3時間30分をゲストさんとのコミュニケーションに充てると、一日の所定労働時間のほぼ半分がそれになります。

それはもちろん、その日のゲストさんたちが部屋に閉じこもるよりも、共有スペースで知らない人と交流をできる「場」を作りたいと思ってのことです。

ただ、やはりその日のスタッフが3時間30分の時間を割いても、その「場」自体がお金を生むものではないんですよね。

とても皮肉なことを言うと、その3時間30分を使って通販サイトでの物販に力を入れた方が、売上にはなるかもしれません。

ゲストハウスの経営って、こういう「場を作ること」の意義と不足点を踏まえながら自分たちのスタイルを決め、やっていける着地点をどこに取るかというせめぎ合いとバランス感覚によるものだと思っています。

そして「場を作りたい」というピュア思いをもった志望者に、そこを分かってもらって働いてもらうのって、けっこう難しいことだなと思うんですよね。

「場を作りたい」人へのささやかなアドバイス

そういうわけで、弊社は「場を作りたいんです」もしくは「人と接するのが好きなんです」というだけの方は、ほぼ採用をしてきていません(特に社員としては)。

もしこれを読んでいる方の中で「将来的に場を作りたい」と思っている方がいたら、まず以下の二点から考えてみることをおすすめします。

・どういう会社・組織でやるのが最適なのか
・どこでどう売上を立てる、もしくは資金を調達するのか

その気持ち、個人的にはとても応援したいので、日本全国に誰かにとって必要な「場」が増えることは、心から願っています。

ゲストハウスを経営してきた学びシリーズ、まだ書けることがありそうなので、近いうちに他の話も書こうと思います。

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