珍海已講の思想

平安時代の三論宗僧侶・珍海已講の思想はどのようなものか。
奥野光賢先生の「禅那院珍海の研究 (序説)」に解説があるので、それを見てみたい

1.典型的な如来蔵思想家、本学思想家
2.「菩提心」の強調
3.すべての善が浄土往生の因となる

以上の3点が挙げられている

1.については「珍海は、道理として一切衆生には本来覚性(=本覚)があり、この性(覚性=本覚)によって必ず解脱を得るのであるが、現実にはこの本覚のみで仏道を成ずるわけではなく、「値善友」「聞法」「発心」などの縁が作用して決定を得、はじめて浄土に往生できる」とされている。

これに関しては奥野先生は『大乗起信論』の影響を指摘されている。
また、最新の研究によると、日本三論宗では『起信論』思想を取り入れた慧遠『大乗義章』が研究された事がわかっている。したがって、珍海だけでなく、当時の三論宗共通の理解かもしれない。

2.の菩提心も、東大寺では前代の永観も往生の正因として重視しているし、のちの明恵もそうなので、共通の理解と思われる。さらに、浄土教という観点では源信からのつながりかもしれない。いずれにしても、珍海も「菩提心」が往生の正因と考えている。

さらに奥野先生は「珍海は『菩提心』とは菩提心を縁として念仏すること、すなわち菩提心を念ずること、あるいはただ仏を念ずることといっているがこれは吉蔵にはない珍海独自の見解と言えよう」と指摘されている。

これは私見だけれども。
仏を念ずる事が菩提心になるというのは、非常に重要。
画家でもある珍海はその仏を念ずる際のイメージが非常に緻密で、一ページ以上指定の文章が続くのである。彼には仏様の姿を観想することには他人より大きな意味があったのではないか。
ここに、画僧珍海の独自性があると思っている。

3.については、例えば善行を積んだり、親孝行をしたり、そういった日常的な良い事も宗教的な原因となると言っている。ここは「有所得は無所得の初門」という吉蔵思想の影響が指摘されている。

概略このような感じでした。
ご興味があれば、ぜひ下記リンクから奥野先生の論文に目を通していただければと思います

奥野光賢「禅那院珍海の研究 (序説)」
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050282813213320960

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