【2-2】 ハンコはなくせるのか?(意思の確認編)
結論:社会がデジタル化のデメリットを許容する場合、撤廃することが可能!しかし一方で・・・
第一章のハンコ文化とサイン文化の比較はあくまでもアナログ文化の比較でした。
これは一長一短があり、優劣をつけるのは困難でした。
ではデジタルとの比較ではどうでしょうか?
ここでは、アナログ文化を用いた認証の仕組みと、デジタル技術を用いた認証の仕組みを簡単に比較してみたいと思います。
これまで出てきた以下の2つのハンコの使い道の内、ここでは「②意思の確認」について、電子化が可能かどうか考えてみようと思います。
①本人認証:実印(印鑑証明)
【重要な取引等】本人が本人で間違いない事を証明
②意思の確認:認印(銀行印)
【簡易な意思表示】本人が内容を認めているかどうかの意思確認
意思の確認という利用シーンで代表的な4つの観点で考えてみることにしましょう。
【個人利用シーン】
a.書留郵便、回覧板 など
(郵便の受け取りなどの個人として合意、承認した証)
b.役所への届け出、企業への〇〇申込書 など
(申請書、申込書、〇〇届など対組織への個人の意思表示」
【会社視点での利用シーン】
c. 納品書、請求書 など
(企業が発行する〇〇書などに対して、その会社が発行したという信用の証)
d. 稟議書、有休申請書 など
(管理職などが押す承認印)
いずれも印鑑証明書までは必要のない、簡易な取引に使用されるものに限られます。
では、これらを電子化することを具体例を出して想像してみましょう。
※なお、ここでいうアナログは「ハンコ」「サイン」いずれも指します。
a.書留郵便、回覧板 など
「郵便の受け取りなどの個人として合意、承認した証」
受領印やサインをデジタル的に考えると、本人が事前に登録した状態(ログイン)で「受取」というボタンを押すようなイメージが分かりやすいかと思います。
要するに本人である事を簡易的(ログイン)に証明した上で、本人の意思で受け取ったという行為を行うという事です。
回覧などは特定のグループに属してそこのグループに情報を流し、そこにログインしたユーザーが「読んだ」ボタンを押すなどいうことで代替が簡単です。これは比較的に容易に出来そうですね。
一見、簡単そうにみえて、完全に電子化するのが難しいのが「郵便の受け取り」です。
直接受取るという行為が「物質(アナログ)」だからこそ、代替が難しいのだと思います。
現在、amazonなどでは「置き配」の普及に努めようとしています。事実アメリカなどでは「置き配」は恒常的に行われています。しかし、当然、「盗難」というリスクが常につきまといます。
※2017年の米国での調査では、Amazonで注文された商品のうち、約31%が過去に置き配盗難の被害に遭っています。(2017 Sorr Pachkage Theft Survey, N = 1000)
スマホと連動した宅配BOXの一般化など、ハード面での整備の進捗に応じて、少しづつ置き配が一般化していくと思われますが、時間がかかるというのも事実だと思います。
「店舗受取」などもありますが、、ん~逆に利便性が下がっていないでしょうか?「ラストワンマイル」は自分で輸送という事ですからね。軽いものならまだしも、重いものなどは。。。
この点の難しさの1つに、効率化の本丸である「不在時の宅配業者のコスト」を宅配BOXを整備する側(客)が費用を負担する構造にあると思われるため、ここの発想を逆転させることが必要になると思います。
(例えば指定の宅配BOXが使われている場合、宅配業者が次回発送時の発送料金を安くするとかマイレージが溜まるとかですかね?)
要するに意思を示す対象が、
「物質(アナログ)」か「サービス(デジタル)」かで大きく分かれるため、「デジタル」に移行できるものは容易に移行できるが、「物質(アナログ)」の場合には、「物質的なハード面(宅配BOX等)」のIOT化とセットで考える事で電子化は可能という事になります。
ただし、既存設備が前提の場合、無理矢理に電子化しなくても良いものは、分けて考える等、現実的かつ柔軟な対応も大切かもしれませんね。
b.役所への届け出、企業への〇〇申込書 など
(申請書、申込書、〇〇届など対組織への個人の意思表示)
これらは組織側のルールの変更で電子化することが可能だと思われます。
ただし、組織側での変更点は結構大きいと思いますし、それに伴う一定の投資も必要になってきます。
ポイントは不必要な意思確認ルールを大胆に削除し、かつそれに伴う規約等の見直しを通常の業務を実施しながらどこまでやり切れるかという点にあるのではないでしょうか。
要するにどこまで組織側が本気でやるかだと思います。
方法としては、メールと電話番号の二段階認証をはじめ、事前に免許証などで本人確認を済ませるなど一定のセキュリティルールをクリアすればその後は同意やログイン履歴などによって「意思の確認ができたもの」とするという事を組織側で決めればOKだと思います。意図的な攻撃に対するリスク管理は紙運用時よりも増やす必要があるでしょう。
一方で、行政手続きについては、少し目線をズラして注意する側面もあります。それは「利用者の便益」が階層構造になっている場合です。
具体例を出して考えてみましょう。
行政への提出資料があった場合、会社の経営者が従業員さんに印を貰って提出していた書類があったとします。(例:年末調整など)
この印が不要になった場合、従業員さんへの説明はどのように変化するでしょうか?
おそらく「印」を貰う際には、この書類の内容について詳しく説明をしていたと思います。しかしこれが記名(PC入力を含む)だけで良くなった場合、この説明が希薄にはならないでしょうか。ましてや紙に打ち出す必要もなく、画面上だけとなった場合は尚更です。
はっきり言いますが、経営者側は楽です。ですがこれで本当に良いのでしょうか?
印を押す、サインをするという行為にはこうした「一旦停止」の意味もあり、その多くは弱者側の権利を守ります。
このように『利用者』が「経営者」と「従業員」のごとく階層構造になっていた場合、電子化が必ずしも「利用者の便益」にはならない事もある点もあります。
行政の方は、大変な作業かと思いますが、多角的な視点での取捨選別を宜しくお願い致します。これは「はんこ屋」五代目ではなく、いち日本国民としての意見です。
c. 納品書、請求書 など
(企業が発行する〇〇書などに対して、その会社が発行したという信用の証)
これもbと似ており、どこまで本気で組織側がやる気があるかという点に尽きるかと思います。
この信用の証を電子化するというは、これまでの商慣習を一気に変更するという事を意味します。ここで大事なのはトップの決断力です。なぜなら、相手のある話ですから、(一部のTOP企業を除き)一時的にはアナログとデジタルとを併用する期間がどうしても必要になるからです。
そしてこれは早くやればやるほど、その期間が長くなります。契約書というものを考えると分かりやすく、あくまでも相手も同様に電子化をしている必要があります。電子化していない企業との取引には、既存のルールを踏襲する必要があるのです。
要するに後乗りの方が少し有利なのです。
一方でメリットも大きく、「印刷→押印→郵送」の手間と「収入印紙代」はその代表例ではないでしょうか。金額としては、これからの作業や管理に掛けていた人件費の圧縮という点が一番大きいでしょう。
これらの「効果(削減メリット)」は契約書などを製作する「回数」と連動しますので、これらをより享受できる業種、業界、組織規模に応じて、導入のスピード感が変わってくるかと思います。
しかし一旦「費用 < 効果」が出ていく事が分かった時には、加速度的に導入が進んでいく事でしょう。
d. 稟議書、有休申請書 など
(管理職などが押す承認印)
これもbと似ていていますが、社内で完結する分、比較的容易に手を付けられるのではないでしょうか。
テレワークの拡大ともあいまって、社内規約の見直しなど対策は自社で完結できるため、今回の4つの中では最も容易に電子化が進みそうです。
上司のはんこに向かって、お辞儀をしているように少し傾けてハンコを押すという文化などは早晩なくなっていきそうですね。
・チェック機能は紙が上?
ただし、チェックという観点では、「デジタル」<「アナログ」だと後者が有利です。これは論理的には分からなくても感覚的には分かるかと思います。事実私もIT企業で働いていましたが、大事なチェック作業は最もコンピューターリテラシーの高いSEさんも最後は意図的に紙でチェックをしていました。実際紙の方がエラー検出率が高いんです。
bの時と同様に紙に出さないデメリットの側面もきちんと選別して導入する事が経営者には求められるかと思います。
とはいえ、上記からもわかる通り、法人利用のハンコについては、コストメリットさえ出ると判ればいずれも一気に普及していく事が考えられます。
まとめ
冒頭でも記載しましたが、社会が大きな変化の潮流に乗る際に、一定のデメリットを許容するのであれば、この②の分野でのデジタル化はどんどんと進めていけると思います。
私も明らかに非効率な部分は無くしていくべきだと思います。
一方でIT化が万能な訳でもない事を上記でもしつこいように書きました。これは時代の流れに反する事ではありますが、事実は事実として知っておくべき事でもあります。
では次は「①の本人認証」の電子化について考えてみましょう。