【序章】ハンコは必要か否か?
今回のパンデミックにより自宅勤務を余儀なくされた方も多かったかと思います。その中で巻き起こった「ハンコ不要論(脱ハンコ)」。
勇気を出して、結論から申し上げます。
私は「ハンコは不要」だと思います。
業界人として、かなり思い切った発言ですので、当然のように反発があることを予想しています。
それでも今回の不要論について、いち「ハンコ屋」としての意見を正面からぶつけることは、現代を生きる人々にとって有意義なことではないかと考えて今回の記事を書くことに決めました。
この結論に至った真意は後述しますが、今回の「ハンコ不要論」、これまでの不要論と同じ軌跡をなぞる可能性は低いように感じています。
この事を我々側(印章業界)も強く意識をし、業界の行く末を新たに創造していくことが今求められているのではないでしょうか。
私は大学卒業後、IT企業に就職し、国の認証に係る仕事をはじめ、7年に渡りIT畑を経験。その後、家業であるハンコ屋に華麗なる転身を図り10年になります。
「電子的なデジタル認証」と「物質的なアナログ認証」の両方、それぞれ相当年以上実務経験した人間はおそらく私以外にはいないのでは。。。
だからこそ、語れることがあるのではないかと考え、記事を書くことにしました。
・「ハンコは不要」と発言するに至った理由
・「そもそもなぜハンコを日本社会が選択し使ってきたのか?」
・「電子的な認証は現在の社会システムのどの範囲まで代替可能か?」
・「デジタル社会におけるアナログの役割」
などについて、私見を数回に分けて記していきます。
また、この記事は「今後なくなる仕事」と呼ばれている業界の方にも、急ピッチで廃業化が進んでいる業界にいる私が、現状をどのように捉え、そして生き残っていこうとしているかという内容についても記載しようと考えております。
つたない文章ですが、お目通しいただければ幸いです。
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田丸印房 五代目
京都府出身
経歴:大手IT企業に7年従事し、その後家業である「ハンコ屋」に承継
現在三児の父親
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コロナが引き起こした業界への激震
2020年2月コロナウィルスが少しニュースで騒がれ出していたころ、観光客の変化はまだそれほど大きなものではありませんでした。
それが3月中旬頃の目に見えて減少し、4月の自粛要請からは京都からほぼ全ての観光客がいなくなってしまいました。
当店もこの月は前年比9割減となり、先の見えない闇に埋もれていく事になりました。
この観光客の減少と反比例して増加していったのが、
「ハンコ不要論」でした。
そのキッカケとなったニュースが、コロナ序盤期に足早に出社する人に「自粛要請の中、何のために出社するのか?」と質問したところ、「ハンコを押すために出社しなければならない」と答えたインタビューでした。
ここから一気に「ハンコ不要論」がSNSを中心に巻き起こり、コロナで自粛を強いられたことに対する捌け口の一端を担っている様相だったように思います。
そして9月に安部内閣から菅内閣へと変わり、河野大臣の「脱ハンコ」宣言によりハンコ排斥のスピードはさらに増す事になりました。
出社しないといけないのはハンコの責任?
当店では約40年前から、来るべき「脱ハンコ」社会を一定程度想定し、ハンコをデザインから仕上げまで全て手で作り上げられる「中核技術」は残しつつも、徐々に商品の主軸を移してまいりました。
今では売り上げの7割以上は印鑑以外の部分によるものになったいます。
そんな当店でも今回の「ハンコ不要論」はいささか論理の飛躍があるのではないかと感じました。
今の状況は「なぜ我々はハンコを使い続けなければならない仕組みになっているのか?」という論点をすっとばし、とにかくコロナで外に出たくないのに、出ないといけない!その原因はハンコという存在があるからだ!!
と思考を停止させ、何か「犯人捜し」をしているように見えました。
最近では少しハンコ業界を擁護する意見なども見るようになりましたが、当初メディアやSNSで流れる声は凄いものがありました。
しかし、日本のIT化の遅れについて「ハンコ業界」が既得権益を守るためにやっているんだ!という事にはならないと思うのです。
ハンコ文化について
繰り返しますが、私は「ハンコは不要」だという意見を持っています。
詳しくは後述しますが、もちろん「ハンコ文化」が不要という訳ではなく、あくまでも実務上の印鑑(特に認印)はもう時代にそぐわないという考えです。
一方でここまで一国の制度を長きに渡り支えてきた文化である事も事実です。
デメリットだけではなくメリットサイドがあるから先人達はハンコを採用したのだと思います。
ですので、この機会に一度、「ハンコ」というものが我が国において
・どういった経緯経て使われるようになり、
・どのような役割を果たしていたか?
ということを学んでみませんか?
こうした混乱した今だからこそ、個々人が冷静になり、歴史的な経緯を学んだ上で、それをどのように今後の日本の社会システムに活かしていくかを建設的に議論する必要があるのではないでしょうか。
本記事はこうした趣旨で出来るだけフランクに学べるように書き進めていこうと思います。