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いくぜATMOS(立志編)

「空間オーディオ」というものには基本懐疑的だったのだけれど、というかそのとってつけたようなネーミングが嫌いだったのだけれど、

オブジェクトオーディオ

はまさに高校時代から師匠冨田勲が提案していていくつか実験的コンサートもやっていた記憶。つまり、24トラックとかのマルチトラックテープレコーダーに楽器ひとつひとつにつき1トラックで録音し、ホールなどで「楽器の数だけ」ステージ上にスピーカーを用意して、楽器のトラックをそれぞれのスピーカーで鳴らす、という。

で、DOLBY ATMOS は、基本は映画の音響として5.1/7.1のサラウンドから発展させたものだと思っているけれど、その進化の途中で、まさに音を「オブジェクト」から発したものとして、再生環境に合わせてレンダリングする、というコンセプトを実現したもの。

つまり、上記のフルアナログなw 解決法で、「ホール」に当たるところがこのATMOSの「レンダラー」だと考えるとわかりやすい、かな?もちろん、制作の段階でそれぞれの楽器とか音がでる「オブジェクト」の空間的位置情報を付加して「エンコード」することもその重要な基幹技術の一つだ。と思う。当然24トラックそのままデータにして持ち運ぶのは大変なので、圧縮も伴うと。

まあいいや。とにかくw、オブジェクトオーディオを実現する手法のひとつとしての DOLBY ATMOS を使った音楽、いや「音の作品」を作る環境を整備してみようと思ったわけです。

きっかけ

そもそもやってみたかったんですよね、高校時代から。ん-と、たぶん40年近くは前かな。ただ当時24トラックのテープレコーダーは、たぶん数百万円しましたねー。デジタルが出始めてて、SONY PCM3324とか出てきて、音楽制作で本格的に使われ始めたのがちょうどCDがでたぐらい - 1982年。まさに高校生の頃でした。女の子とデートする暇を惜しんでw オーディオ屋に入り浸ったり、出たばかりのCDプレーヤを試聴させてもらったり。思えば、充実した青春だった(か?w)。

で、いったんは「無理だろこれは」とあきらめて、どちらかというと2chステレオの「質」を追求することで空間を出そうとしてきたのがここ40年くらい。最初はずっと趣味だったけれど、ここ10年近くはそれを仕事にしている。AD/DAコンバーターの製作とか、パワーアンプの製作とか、ハイレゾでのピアノ演奏会収録とか、全部「空間を再現する」というコンセプトだったんです実は。いやほんとにw

ところが最近、ちょっと今まで聴いたことがなかったタイプのアーティストと出会い、いろいろ直接話したり、リマスタリングを任せてもらったり、直近ではそのアーティストの制作環境からステムをもらってミックスして、マスタリングして完パケにしたり、しているうちに、

ああ、ステレオでは足らん

と思うように。つまり、そのアーティストは、ステージがあってそこで弾いて楽しませるだけじゃなくて、音や音楽で満たされた「空間」を用意しようとしていることが分かったのです(本人が気づいてるかどうかは知らないけど、少なくとも自分はそう解釈した)。であると、2ch ステレオじゃ全然足りない。

で、そういえば #SyncController プロジェクトで協力していただいている木村さんが最近DIYでATMOS対応制作環境を構築してたな、と。じゃあ、ちょっとこれはやってみないと。まあ彼のとても貴重で膨大な資料がないときっと始める前にくじけてた、かもw (ほんとにありがとうございますです)

まず嫁、ちがった読めw

てことで、まず読み込むべきはこのシリーズ

Ryo KimuraのDolby Atmos奮闘シリーズ (すみません勝手に名前付けました..)

ですー。かなり網羅されてて、これ全部読むと何をしなきゃいけないかがほぼ理解できます。これ以外に読むなら、Dolby社の公式コンテンツをいくつか読めば、まあ何とかなりますね。そんなにフクザツでもない。

ドルビーアトモスオーディオ技術 (dolby.com)
ドルビーアトモスとコンテンツクリエイター (dolby.com)

環境構築 - 音のなるほうへ

どっかで聞いたようなタイトルだけれどw、特に音楽における DOLBY ATMOS の「主な」再生環境は、きっと圧倒的にヘッドフォン・イヤフォンだと思う。大嫌いなw Apple AirPods とやらがそれをサポートしているらしい、のと、昔からあるバイノーラルにもレンダリングできるらしいと。

ただ、「音がなるオブジェクトを空間的に配置して、『再生環境に合わせて』レンダリングする」以上、最終的な出力は再生環境に依存する。そして、再生環境の「位置」再生能力が高い場合は、3次元的にきちんと配置されていないと、きっと意図したとおりに再生してもらえないだろう。

ということで、できるだけ「正確な」3次元位置を指定しながら制作できる環境を整えたい。Dolby社の推奨環境を参照して、こういうスピーカー配置を考えてみた。

推奨環境はこちら - 7.1.4 Overhead Speaker Setup - Dolby

基本は円周上に設置した 7ch (L - C - R - Ls - Rs -Lb - Rb) に加え、低域再生用サブウーファー、(.1)、そして上からの音響的位置を付加する天井の4つのスピーカー(.4)が基本となる。で、 7.1.4 つまり合計12チャンネルとなります。

ホームシアターそのほかの再生環境では、必ずしもこの角度通りにはおけないので、再生時にAVアンプなどが補正して、あるいは測定した値をもとにATMOSレンダリングして再生するわけだが、制作時はできるだけ推奨環境に近づけたい。
うちのスタジオ(エストニアのタリンというところにあります)では、縦4m横2.4mの長方形の部屋なのだが、そこに適合するようにスピーカーを配置する図面を書いてみた。真ん中がデスクで、椅子の大きさは40cm x 40cmていう感じ。

Dolby Atmos 7.4.1 Speaker Layout


側面図


内側の円半径は115cm 。まあこのくらいであれば、Near Field モニターで「近すぎず、遠すぎず」になるのではないかと。

円周上の7chのスピーカー(緑)はスタンドを使うとして、天井の4つのスピーカー(青)の固定方法が問題だ…。きっと位置調整をしたくなるので、レールか何かをまず天井か壁に固定するか…。単管ていう手もあるけど、このへんでそんなもん買えたっけか?近いものが見つかればいいな。ただ日本でのスタジオ構築と違って、なんといってもこの国は

地震がない!

ので、まあ落っこちてきて自分が痛い思いをしないようにしておけばいいのです。地震だと上下左右に「飛び回る」からねえ…。

で、天井が結構高い(2.65m)のだが、内側の円の半径が1.1mで、耳の高さが1.2mだから高さは2.3mがベスト。

スピーカーの選定はまだこれからです。パワードだと楽だけれど、全部にACコード引っ張るのもちょっと大変かなあ。でも今までのサラウンドと違って、横や後ろのスピーカーもある程度「本気で鳴らす」ので、できるだけサウンドキャラクターが近いものにしたい。まあお金はかかりますけどね…。

(音の)出口戦略

さて、音の出口となるオーディオインターフェースをどうするか。

Dolby Atmos制作環境には、上の7.1.4の個別再生環境のほかに、

  • 7.1.4 (12ch)に個別の出力(スピーカーなのでアナログですね)

  • 12chのほかに、オブジェクトの数だけレンダリングするための出力(デジタルでもアナログでも、同じPC内なら「仮想」チャンネルでも)

が必要。つまり、最低でも12chを出力できる(プラス、ヘッドフォン用も欲しいので、14ch)オーディオインターフェースが必要。

いやあ、これがなかなかないんだわ。ほんとに。

DOLBY社はATMOS制作環境としてAVID Pro Tools Ultimateを指定しているので、当然それが動作するインターフェースが必要になるわけです。まあ今時の制作用のインターフェースなら大抵動く用ですが。

ホストPCはいまのところThunderboltがないので、純正の割にお手軽なAvid Pro Tools HD Nativeが使えないなー、と思っていたけれど、ひっそりディスコンになったHD NativeのPCIe版がある、中古もある、ということでそれをまず念頭に考えてみるかなと。
[追記: ホストPCが少し非力なので、Thunderbolt 4がついたPCの導入を検討] 

もちろんHDX PCIeという選択肢もあるのだが、ちょっとお値段がねえ…w こいつはPCIeカード上のDSP(FPGA?)で処理を肩代わりしてくれるので、ホストPCの負荷が酷いようなら考えるけれど。

で、さらにアナログ(7+1+4=)12ch以上、デジタル(できれば)32ch以上の出力(まあ入力はなくてもなんとかなる)のPro Tools HD/HDX互換コンバーターが必要。Pro Tools純正のHD I/O 16x16アナログまたはデジタルの中古に、それぞれデジタル(AES/ADAT)かアナログのカードを内部増設する、でそれを2セット(デジタル32ch)、というのがおそらく一番安くつくのだが、うーん、最悪日本との間で持ち運ぶ必要があることを考えると、できれば1U x 1 or 2にしたい。となると選択肢がかなり減る。

やっぱり純正MRTX Studioかなあ。でも5,000ユーロかあ。と思っていたら、他にもいくつか似たようなものがある

現行機種では、まず Antelope Audio のこれ。
Galaxy 32 Synergy Core | Dante, HDX Interface (antelopeaudio.com)
まあお値段はすごい。でもこいつの中にDSP持ってて、重たいエフェクトもハードウェア処理してくれる。Antelope だし、クロックは奇麗そう(印象)。インターフェースの癖にアクティベーションがいるのがアレだけど(中古品を買いづらい)…。

そして、もうひとつが Focusrite Proの
Red 16Line | Focusrite Audio Engineering Ltd.
MRTX Studio よりはだいぶこなれた値段だし機能はとてもよく似ている。Focusriteは老舗マイクプリメーカーでもあるので、その辺はAVID(旧Digidesign) より期待できるかもしれない。またホストPC用インターフェースとして、Pro Tools HDXリンクだけではなくThunderbolt 3も持っているのはかなりお得感がある(単体で使える)。

このへんの中から選ぶ感じになるのかなあ。いずれにしろ、そこそこ高いものではあるので慎重にならざるを得ないw。かつ、ここ数年の半導体不足(音響系は旭化成の工場が燃えた影響をいまだに引きずってる)、ロジスティックの混乱などを受けて、なかなかどこにも在庫が無かったりして、結局選択肢が相当狭まる。日本と違って在庫はあまりない - EU以外からだと輸入に時間とお金がかかるのよね…。

なかなか悩ましいのです。でもくじけないぞ!w

「風雲編」につづく…(きっと)

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