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成功した戦術にこだわり続け、自分の墓穴を掘る

※この記事は2022年4月3日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。


過去に成功したやり方をそのまま貫いて消滅した組織は多い。
テスト勉強、人間関係、ビジネス、基礎研究、なんでもいいが、同じようなことをして失敗した人も恐らくいるはずだ。

過去の成功は、実績もありノウハウもあるから続けたくなるのも無理はない。ただ、「環境は常に変化する」ということを見落としていると、あっという間にそのやり方は通用しなくなっていく。

戦争の歴史を一つ例に取ろう。
「ズールー族」と言う民族を聞いたことがあるだろうか?19世紀初頭に南アフリカで形成された民族でありながら、新しい武器を使った戦い方に適応できず、1世紀も経たないうちに滅んだ民族として知られている。

ズールー族は、14世紀ごろに南東アフリカに移住してきた先祖部族の中に属する小さい部族で、元々は温和な性格の持ち主として知られていた。お互いに姿を見かけたら必ず挨拶する、見知らぬ人にも優しい、法に従うなどの特徴を持っていて、仲間内で争いが起きたときも首長のもとに案件が持ち込まれ、そこで下された意思決定には一切の不服を申し立てることなく従っていたという。遊牧地をめぐって争うこともあったが、そのやり方は殺戮ではなく、テリトリーを必要に応じて移動させて決着をつけていた。負傷者が出るとすぐに戦闘は終わったので、戦闘自体も儀式的なものが多かったのだ。

ところが、19世紀になるとこの戦闘様式は一変する。
当時、ズールー族の首長だったシャカという人物は、訓練の行き届いた獰猛な軍団の指揮官として絶滅戦を行った。
その結果、ズールー族は南アフリカ全土を支配し、そこにズールー族のための王国を築き上げ、シャカはその王として君臨する。

具体的に行った制度改革は大きく2つ。1つは軍団の創設、もう1つは新しい武器の導入だ。

軍団を創設することで、戦闘に特化した集団を作り上げて戦いを有利に進めることを目的とし、さらに刺し殺すための槍を新たに考案して配下の戦士たちに訓練させ、全体の戦闘力を底上げしようとした。ズールー族はこれによって周辺部族を蹴散らしていき、領土の拡大を次々と押し進めていったのだ。「温和な部族」の面影は一切なくなり、周辺国からは武力で勢力を広げる獰猛な民族としてのイメージが定着した。

ところがシャカの死後、ズールー族は一気に衰退していく。連戦連勝を重ねていたことで、自分たちの戦争のやり方に陶酔しきっていた彼らは、19世紀に登場する新しい武器を全く取り入れようとはしなかったのだ。
周辺国が銃や大砲を次々と軍隊に組み込んでいく中、ズールー族は相変わらず槍で戦うことを頑なに続けた。そうして新兵器に適応し損なった彼らは、火力の差で一気に崩れていき、崩壊していく。

ズールー族衰退の原因は十中八九、過去の成功に対する盲信だ。シャカが行った軍事があまりに上り調子だったことで、配下の戦士たちは誰もシャカの戦闘スタイルを疑おうとしなかった。
ところが、技術の進歩は間違いなく続く。それに上手く適応できないと、築き上げた影響力もあっという間に消え失せるのだ。
シャカが作り上げだ戦士の価値観は経済の保護とも結びつけられていたので、部族社会のメンバーのエネルギーは全て軍事の中に閉じ込ていた。結果的に、彼らは周囲の世界と歩調を合わせて発展する機会を自ら否定していたのだ。

こういう、過去の成功にこだわって失敗した事例は現代でもよく起こる。例えば、ブロックバスターとNetflixの違いだ。
ブロックバスターはそれまで、アメリカのレンタルビデオショップとして大きなシェアを握っていたが、その成功にこだわり続けてインターネットの進化を完全に見逃していた。結果、ブロックバスターは経営が悪化し倒産する。
一方Netflixは、インターネットがもたらす利便性に確信を持っていたことで、ネットを介したビデオの貸し借り、その後、月額課金で作品見放題のサブスクリプションサービスを導入したことでシェアを一気に広げていった。今では巨額の資金で作り上げたNetflixオリジナル、AIを利用したレコメンド機能を取り入れて、世界中に1億人以上のユーザーを抱える巨大企業に成長している。

こんな感じで、過去の成功は実績として素晴らしいものの、その影響で新しい技術に目を向けなくなり消滅する組織は、今の昔も変わらず存在している。
人間は、単体では他の動物に太刀打ちできないが、多くの人間と協力し、武器や防衛といった「技術を作り上げる能力」に長けていたから、今日まで生き残ることができている。それを放棄すれば、人間としての最も大きな長所を自ら捨ててることになるので、それで衰退するのはある意味自然とも言えるだろう。

日進月歩で進化する技術を、見逃さず常に観察して取り入れることは、組織を存続させるためにもやはり不可欠ということだ。

参考文献: 戦略の歴史(上) (中公文庫)

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