付廻し侍(ストーカー侍)
劇団そとばこまちの付廻し侍の舞台監督をさせて頂きました。元々大好きな忠臣蔵の新しい展開にぐっと惹き込まれました。
浅野内匠頭の辞世の句
「風さそう 花よりもなお 我はまた 春の名残りをいかにとやせん」
風に吹かれて散り、春を終える花よりも私はもっとこの春が名残り惜しい。どうすればいいのだろう
という意味です。
そとばこまちさんの舞監をさせて頂くのは今回で二回目で、前回より少しは劇団の方々との距離感も掴めてきたかなぁと思っています(*^^*)
さて、普段のお笑いではないお仕事ですが、やはりところ変わればなんちゃらで、進め方が全然違うんです。
一番の違いは座長を始め、演者さんがみんなで舞台設営するんです。
吉本の場合はタレントと裏方は完全分業制なのでそういうことはまずないのですが、そとばこまちを始めとする劇団の大半がこんな風にセットは大道具さん数人と大勢の劇団で組み上げます。
衣装や小道具も全て役者さんが管理しています。
自分たちが命を預けるセットを作るのでより舞台に対して愛着もわくし、何より仕組みが判ります。
吉本関連には多くの作家が居ますが、演出家と呼べる人は殆どいません。今回の付廻し侍は舞台に出はけ口9箇所、客席6箇所、合計15箇所から人が縦横無尽に出入りを繰り返します。
こういう基本的な仕組みが解るから想像力も上がるしスケールの大きい華々しい舞台を演出出来るんだと思います。
そして近鉄アート館は三面舞台なのですごく立体的な演劇になります。しかしこれがまた裏方泣かせと言いますか、大変な事が激増します。
横の席から舞台袖が丸見えになるのを何とかして隠さないといけない。そのせいで出演者の出入りが難しくなったり小道具の出し入れにリスクが出てきます。
刀やなぎなた、梯子など引っ掛かりそうなモノが山ほどある作品でした。
しかし面白いこともいっぱいあると思います。
例えば音響。
張り出した舞台の角にスピーカーが吊られています。舞台を牢屋に見立てる時は、鍵を開ける音や扉の開閉音はその場所に一番近いスピーカーからしか鳴らしません。
これによって立体的な音響が出来て、より臨場感が増します。
やれることが多い反面、音響さん照明さんの労力は半端ない劇場です。僕が頑張ったことと言えば開場前、開場中に幕やカーペットに霧吹していたくらいです。
幕を濡らしていると、開演して照明が入ると温度が上がり蒸発が始まるので、湿度があがります。なので腰より低い位置を重点的に湿らせておきます。
自分でもこれは過剰か?と思うくらいに霧吹したのですが、リハの後に綱吉役の森澤さんから
「舞台がかなり乾燥してました」
って言われた時は白目になりました(゜ロ゜)
次回から公演は梅雨にやってくれ!
と思ってしまいました(笑)
舞台の上下に加湿器置いたり対処はしましたが演者さんにとっては過酷な環境だったかもしれません。
公演中は雪を降らせておりました。
演出家の要望に寄り添いながら、降らせる量は情景に合うように考えました。それが正しかったのか、自分で正面から見れなかったのが残念です。
「舞台は生物」とはよく言うのですが、殺陣やダンスのシーンでは舞台袖に立っていると床が鼓動のようにズンズン揺れて、演者だけでなく、パネルや布が躍動、乱舞する姿を見ていると「舞台は生き物」だなぁとも思いました。
色々至らない点もあったかとは思いますが、僕は携われて本当に良かったです。
我もまた 芝居の名残りを いかにとやせん。