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『予後予測本』の取り扱い説明書

1. 予後予測本の題名『5年目まで』の意味

 この度、「臨床5年目までに知っておきたい予後予測の考え方という本を出版することができました。多くの方が協力いただき、皆様にお届けすることができたと思っています。本当に心から感謝申し上げたいと思っています。

 さて、今回「臨床5年目までに知っておきたい」と名打った理由は、特に入門書としての意味合いというよりは、「5年目までに知っておいたら臨床介入を考える上で必要な予後予測に関する考え方(思考方法)を獲得しよう」という名目で使っています。

 さて、どうして、そういった思考法が必要なのか?ということですが、この点については、本書籍の序文の中の文章を引用して説明したい(以下のURLにて序文を記載)。

経験が浅い臨床5年目前後の療法士にとって,眼前の対象者の疾患や障害の改善の程度を正確に予測することは難しい.したがって,多くの療法士は,自分よりも経験を重ねているベテラン療法士の意見を仰ぐことになる.ところが,ベテラン療法士の意見も感覚に依るところが大きく,記憶違いや印象の上書きなどもあり,正確とは言いがたい.

本書序文より

 そう。まずは、「経験に依存していた」予後予測に関する考え方を「知識ベース、臨床研究ベースで理解する」ことにより、経験の中に存在する過去の対象者の方々の個人的特徴に左右されない予後予測に対する考え方(思考)を取得することが重要となります。

 さて、予後予測において、そういった科学的思考をつけていく中で、まず最初にぶつかる壁が、なかなか言い切ってくれない、どっちつかずの文章…いわゆる、「まどろっこしい文章」です。

本書を読まれる中で、まどろっこしい文章に遭遇し、「これ、何が言いたいのだろう?」、「白か黒、はっきりしないな…」、「文章を読んだ後スッキリしない…モヤモヤする…」、「何回も読まないと解りにくい」と言った感想を抱く方もおられると思います。

ごもっともだと思います。確かに筆者の私でも「まどろっこしい」と感じる書き方が多々あるな…と編集中に思いましたし、それを書籍のページ数をこれ以上増やさないため短文にまとめることに、多くのエネルギーと時間を費やしました(あの内容でも、できるだけシンプルにする努力はしたんですけれども…)。

ただし、まどろっこしい書き方をしなければならない理由が、予後予測に関連する文章にはあるということを少しここから説明していきたいと思います。

2. 予後予測関連の文章がまどろっこしくなる理由

 こちらは、本書の内容を少し読んでいただけるとその理由がわかるかと思います。例えば、以下のURLに記載されている本書籍の「序文」をもう一度参考に一緒に考えていきたいと思います。

これまでの予後予測研究の多くは,過去のデータを通した未来の可能性を示すにとどまっている.対象者の予後を正確に指し示すこともあれば,一方で大きく外れることもある.自分の予測結果を上回ろうが下回ろうが,予測が外れた原因を考えることで,自身の介入の長所や短所に気づくこともあり,予後予測を行うことで自身のスキルの向上へとつなげることができる.また,たとえ予後不良といった結果が出たときでも,その時点で諦めるのは早計である.予後予測の対象となった疾患や障害の問題を細かく追究し,過去の研究では行われてこなかったような工夫を施してみることで,予想を大きく超える回復曲線を描くといったようなイノベーションを起こせることもあるのではないだろうか.

本書序文より

 まさに、予後予測とは、この文章が示しているように、先の研究の結果を超えるかも、下回るかも確実にはわからない、ということなのです。予後予測における本質とは、『過去の研究で対象となった人達が、どんな予後をたどったのか?という「確率」を、全く別人である目の前の患者さんに、どれぐらいの割合で当てはめることができるのかを考える事』ができるかどうかだと思うのです。(この文章が既にまどろっこしい…ただ、この事実が、予後予測に関する文章を作成する中で、結論を言い切れない、まどろっこしい表現を使わざるを得ない最大の理由です)。

 予後予測研究を実施した際に対象となった方々の「医療環境、疾患や障害の重症度、発症からの時期、精神的な状況、家族や家屋、地域の医療施策を含む環境的要因等」といった要因が少しでも違ってくれば、皆さんの目の前にいらっしゃる対象者の方に、研究結果をそのまま適応できる確率は低下していきます。

 
皆さんの臨床現場において、目の前にいらっしゃる対象者の方は、先行研究の中で示された方々と近い特徴をもった方かもしれないし、かなり異なる方かもしれない。その特徴に関する情報が、論文内に示されているから判断できるかもしれないし、示されていないから判断すらできないかもしれない。予後予測とは、こういった不確実さの中、実施していくものだと感じています。

*「超有名難関大学に進学したこどもさんへの教育方針や方法は、参考にはなりますが、それらをやったから必ず、全ての方が同じ超有名難関大学に通ることができるのか問題」と言えばわかりやすいかもしれません。ただ単に、その教育を受けた子供さんが勉強ができる子、好きな子だっただけで、教育方針や方法は関係ない、ということは度々議論になると思います。

 したがって、予後予測研究とは「確率を示す知見であり、見通しを考える上で、参考となる指標」といえると思います。しかしながら、あくまでも確率を示すものですから、絶対的かつ確実な予後予測研究は世の中にほぼ存在しないとも思っています(研究の中には比較的高確率で予測できるモデルを示すものもたくさんありますが、でも100%の確率を示すものはほぼ見当たりません)。

 これが、「まどろっこしい表現」をハギレ悪く本書の中で使う最大の理由です。

 そして、上記の考えの元、予後予測に関する文章においては「言い切ってしまうこと」は誤解を招く上に、良くも悪くも眼前の対象者の方の可能性を閉ざすリスクであるとすら思っています(ご理解ください。こういった理由から、この書籍でも、ここだけは譲れず、絶対に言い切らないと決めていました。頑固でごめんなさい)。

3. 本書籍を使って学習を進めるための今後の展望(あくまで予定)

  さて、予後予測本にて「発症から○日の方が○日後には(確実に)こうなります。」と言った言い切る文章は使わない理由を説明しました。そして、言い切らない代わりに、本書においては、確率(比)に関わる多くの研究用語をたくさん使って説明をしています(これについては、本書内でもわかりやすく解説しています。ご安心ください)。

 それらに関する説明も踏まえつつ、その確率をどのように自身の眼前の対象者の方に反映するのか、と言った『多彩かつ柔軟な思考』を5年目までに育てることが非常に重要になると思っています。具体的にいうならば、一つの予後予測法に執着せず、複数の特徴を持つ予後予測研究を目の前の対象者の方に多角的に組み合わせることで、より精度の高い予後予測を導き出すための思考方法です。

 したがって、この本の本当の目的は、『(5年目までに必要な)予後予測に関する知識を得る』と言うよりも『予後予測に関する複数の知見を多角的に使って、(5年目までに求められる)より精度の高い予後予測について、考える力、思考力をつけていただくこと』と言えるかもしれません。

 ただし、この点については、臨床において、「どのようにこの本を使っていくか」と言った例を示すことも含めて、皆さんと一緒に今後考えていきたいなとも思っています。

 例えば、TwitterのSpace等を使って、仮想症例を示した上で、皆さんには携帯電話の前でこの本を開いてもらいながら、『この本をどのように使うのか…』と言ったことを購入された方で学ぶ、『全国SNS上合同勉強会』なんかもやっていけたらなと思っていたりします。

 確かに、初見の際には、この本は少し難しいとかもしれない。でも、「難しい」から諦めないこと。こういう意思は大切だと感じます。スラムダンクの安西先生も「あきらめたら、そこで試合終了です」とおっしゃってました。

確かに、僕自身も新人の頃難解な文章にうんざりしました。でも、それらを血肉とすることで、少しずつ成長してきた気がします

また、上記に示したような経験だけに頼らない、科学的思考を育てることで、療法士としての臨床だけでなく、他分野でも有効に使える知識は増えていくと思います。是非、この本をたくさん使い倒してください。その支援も微力ですがさせていただきたいなと思っていたりします。

これからもよろしくお願いします、

(*なお、医学書院様のご厚意で以下のリンクのように今後書籍の内容をお試しで一般公開されるそうです。是非、見てみてください)

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