見出し画像

寿司と愛⑦~会いたい~

孤立してもいいと腹を決めて自分を貫いていけば、

いつかはみんなによろこばれる人間になれる。



これは生きてた時にオヤジが口をすっぱくして言っていた言葉


魚を見定め、寿司を仕込み、握ってお客さんに提供する


これは完全に職人仕事


特に寿司屋というのは


多くの寿司屋が店の名前に自分の名前を命名するように


自分が看板であり


替えは絶対に効かない生業だ

全国に存在する寿司屋の店名には、「寿司」「鮨」「鮓」の3つの漢字が使われている。これらの漢字は使われている地域に特徴がある。

「鮓」の漢字が多く使われるのは大阪である。もともと「鮓」という漢字は発酵した魚を指す字で、8世紀ごろ大阪に伝わった「なれずし」を指して使われた事が由来とされている。

「鮨」の漢字が多く使われるのは東京である。江戸時代になれずしとは違う、江戸で生まれた江戸前の「握りずし」を指して使われた事が由来とされている。握りずしは1829年(文政12年)が文献的初出である。

「寿司」の漢字が多く使われるのは京都である。かつて京都ではスシを献上品として朝廷に納めており、「めでたい」という事でこの当て字が使われたとされている。「ことぶきをつかさどる」と書く寿司は縁起がよいもの、祝いの席で食べるものという意味がある。

これら3つの漢字以外にも「すし」と平仮名で表記する事もある。この平仮名はかつて使わざるを得ない状況があり、苦肉の策で生まれた。それは寿司店組合の名称に使われる「スシ」の漢字が都道府県によってバラバラだった事である。

自分を絶対に曲げない


俺は寿司で生きると決めたその瞬間から


俺は誰よりもその信念を貫こうとしていた


ただ、その信念が脆く崩れそうになる


早朝から深夜までの掃除や雑用


そして、ほとんどの先輩職人から数々の暴力を受け


一切の言葉を聞いてくれなくなった


全ては俺が久十兵衛の親方に気に入られて


入社後、一か月足らずで


寿司を握るチャンスを掴んだからである



妬み、僻み、恨みが


俺を日々襲った


さすがの俺も心身ともにボロボロで


このままぶっ倒れるんじゃないかと強く思ったが


時は流れ


親方と約束した


久十兵衛オークラ店


親方との決戦の前日となったが


その前日に


悲劇が起こる




俺は明日の勝負のために


親父から受け継いだ包丁


名刀 玄海正国を研いでいた


その時


急に頭を何かで殴られたような衝撃が走った


「てめぇみたいな下っ端がなに柳なんて研いでんだこの野郎!!!」


そういって


その男はバカラ製の招き猫を掴み


俺の頭を殴った


厨房の床はあっという間に血だらけになった




『よく漫画やドラマで頭を何かで殴られて大量の流血で地面が血の海になるという描写があるが、あれは全然嘘やフィクションなんかではない。
頭は無数の血管が張りめぐられており、たった一本、何かの衝撃で切れただけで血は吹きだしなかなか止まらない。
筆者もストリートファイトをしていた頃は何回血の海を見たかわからない。決して「血の海」という比喩は大袈裟ではないのだ。』





殴ってきた男は

自分より入社が1年程上の先輩


及川光男(39)


1年前に他の寿司屋から入ってきて


俺が入社した初日から


訳の分からない文句や


理不尽な暴力を振るってきた男だ


俺が他の新人よりはるかに仕事が出来て


上から気に入られているのが納得いかなかったのだろう


「てめえやりやがったな!この野郎!!!」


そういって


及川をぶん殴ろうと拳を振りかぶったが


もう、過去の自分のように


寿司職人として



目の前の相手を殴ることは出来なかった


俺は振りかぶった手を引っ込めた


寿司職人として生きていくなら


この道しかないと思っていたからだ


「てめえ先輩にどんな態度ってんだこの野郎!」


そういってなんと


俺の柳刃包丁


を手に取り振り上げた


「や・・やめろ」


振り上げられた包丁は


俺の目の前で止まったが


今までで喧嘩ばかりして


獲物(ナイフ)を持った相手とばかり戦っていたため


俺はその包丁を癖で掴みにかかってしまった


俺の右手は


今までみたこともないような血を吹き出した


「うわあ・・手が‥手が‥」


滝のように流れる血液



「お・・おい・・お前・・自分のせいだからな・・じゃあな!態度、気を付けろよ」


そういって焦って出ていく及川


こんな流血を見る事になるとは思ってもいなかっただろう


俺は、明日の決戦を前に


膝をつき、倒れた


右手は動かず


頭はカチ割れ


意識は朦朧(もうろう)としている


運命の明日に向け


人生で最も強烈な絶望に襲われた


今まで、何千、何万巻も握ってきた右手が動かず


オークラの親方に勝てるわけがない


クソ・・クソ・・

歯を食いしばり


立ち上がろうとしたが


膝から崩れ落ち


意識を失った



<同じ月日を過ごした
すこしの英語と、 バスケット そして
私はあなたと恋を覚えた
卒業しても私を 子供扱いしたよね
「遠くへ行くなよ」と
半分笑って、半分真顔で
抱き寄せた
低い雲を広げた冬の夜
あなた夢のように 死んでしまったの
今年も海へ行くって いっぱい映画も観るって
約束したじゃない あなた 約束したじゃない
会いたい・・・>



締め作業をするときにかけるラジオからは


全く聞いたことはないが


何故か、聞き入ってしまう



昔流行ったであろう曲が流れていた



『波打ち際すすんでは 不意にあきらめて戻る
海辺をただ独り
怒りたいのか、泣きたいのか
わからずに 歩いてる』


(つづく)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?