見出し画像

寿司と愛①~伝説の始まり~

「この拳の怪我を見ると落ち着くんだよな」

そう言って立ち入り禁止の校舎の屋上で寝そべり


拳を太陽にかざす


俺は高校2年生


名前は佐伯田優星(さえきだゆうせい)


渋谷区神山町生まれ神山町育ち


ガキの頃からこの猥雑な街にいるからか


見たくもない事ばかり見てきた


家にも帰らず、友達の家を転々とし


学校にも行かず、年上の正体不明の組織から頼まれたブツを運んだりとか

人に言えない悪さもしてきた

【神山町の悪魔】

人はそう俺の事を呼んだ


ただ、そんな言葉が俺にとって心地よかった

「また今日もやっちまった」


寝っ転がって太陽に拳をかかげると


ポタポタと血が頬に雫のように落ちる


今朝殴ったあいつの返り血はシャツにスプレー缶で放出されたかのように吹きかかり、拳は血だらけ


先公から何を言われるかもわからない。


だから授業をふけて、屋上でさぼっていた

「優星!!こらやっぱりここでさぼってる!また喧嘩したの!?」


しばらくすると甲高い声で叫び声を上げ迫ってくる女がいた


担任の柿沼 恵子だ


40歳を超えてるのだが見た目は若くスタイルもいい


生徒からの人気も高い


ただ俺はこいつが嫌いだった


何故なら


「喧嘩ばっかりして!!もうまたお父さんに言いつけるからね!」


そういって俺の頭にゲンコツをした


「お‥おい‥やめてくれ‥親父にだけはいわないでくれ」


そう


親父は俺にとって唯一怖い存在であり


歯向かう事の出来ない人間だった


親父と対面すると体が凍り付き、目も合わせる事も出来ない


だから親父とはなるべく顔をあわせないよういつも生活していた


「先生、ごめん、教室に行くよ。親父にはマジで言わないでくれ」


そう言って、
俺は、俺は先公と一緒に教室にむかった。


どうして俺がそんなに親父の事に恐怖を感じたか


それは、ガキの頃からの徹底した教育が原因だ


これは学校のダチにも言ったことがないのだが


親父は銀座にあるミシュラン3つ星の寿司屋


鮨 さえき田


の親方であり日本1と称される寿司職人だった


そんな、寿司職人の元に生まれた俺は


保育園の時から酢飯しか食べさせてもらえず


毎日、ゲロを吐くまで様々な魚を食わせられ


そして、何十匹、何百匹もの魚を包丁で捌かせられた


その切り付けが少しでも汚いと飯台(酢飯を作る木製の桶)でぶん殴られ頭をカチ割られたり、1日、修行をサボっただけで柳刃包丁で太ももを刺され、救急車で運ばれたこともある


親父の存在を考えただけで冷や汗が止まらなくなるのだ


料理界の宝と呼ばれるオヤジの修行に耐え切れなくなった俺は


「寿司なんてまずいもん食いたくねぇ!!俺は寿司職人なんてならねえ!!裏社会で生きてってやるよ!」


そうツバを吐き、親父からもらった包丁 玄海正国を叩き折り

※玄海正国
九州北西部 玄界灘にある加部島の「向刃物製作所」で作られている名刀
名人と名高い包丁職人・向米雄さんと、その息子である俊征さん二人で制作されている。

逃げ出すように寿司屋を飛び出したのだ


それ以来、オヤジとはほとんど口を聞いていない

(つづく)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?