寿司と愛⑥~下積み~
飯炊き3年握り8年
一人前につけ場に立ち
寿司をにぎれるようになるには10年以上かかる
伝統芸能に近いと言われている寿司屋は
今までそう言われてきた
そして、
確かな店で、確かな修行をしたものだけが
生き残れる厳しい世界
それが「寿司屋」である
現在の寿司ブームにおいて
30代前半や
20代、そして今では20代前半で独立する店も多い
これに関しては賛否両論ではあるが
筆者である私から見ると
『可哀そう』
と感じる事も多い
確かな店で、確かな努力を積み重ね
様々な多種多様なお客さんと出会い
河岸に足を運び
人と繋がり
食材だけでなく、多くの智慧や知識を仕入れ
一生涯、技術を追求する
その覚悟と力がなければ
いくら高級寿司ブームだとはいっても
店を継続することは難しいからである
そして、昨今店主と店を所持する金主が別のケースが非常に多い
もちろん、お互いの実現したい事を叶える近道であれば
その形態でもいいが
オーナーと店主の職人がぶつかりあったり
嚙み合わないというケースも非常に多く見てきた
今は一人前、4万円、5万円払うのが普通の寿司屋であるが
この寿司ブームが終わった時
一体、どこの寿司屋が残るだろうか
「おい、ガキてめえ何ぼおっとしてんだ!」
「使えねぇな!どこに目ついてんだ!!」
厨房ではそんな罵声が飛び交う
久十兵衛に入って最初にやらされたのが掃除と皿洗い
朝から晩まで
掃除と皿洗いばかり
俺はこの修行に苛立ちを覚えていた
父親を超えようと修行に来たものの
一体いつになったら寿司を握らせてくれるのだ
いつ仕込みや、お客さんへの接客を教えてくれるのか
全く先が見えない状況だからである
日が暮れるまで雑用の日々
「こんなこそみてぇな事したくねえ!!もう辞めてやる!!」
我慢の限界を迎えた入店して14日後
俺は銀座店本店の親方に直談判をするために足を運んだ
総料理長
今田 清次郎(56)
創業者 今田壽治から継いだ男
久十兵衛は現在
銀座に本店、新館
ホテルオークラ、ニューオータニ、京王プラザ等
全部で7つの店を持っているが
その7つの店の中でも
本店のトップというのは別格であり
代々、神格化されている
その中でも
2代目 総料理長
今田清次郎は
現在の寿司業界のドンであり
今盛隆しているお店の多くは
この男の指導の元生まれてきた
『左利きの名匠』と呼ばれた
すきやばし次郎の小野 二郎氏になぞらえ
「アルティメットサウスポーアニマル」と国内外から言われている奇人だ
さすがに俺も
この今田清次郎と会うのは緊張するが
オヤジがいない今
一刻も早く
自分が店を再興しなければならいという気持ちが強かった
「親方!!少し話をさせて頂けませんか!!」
営業後、そういって
厨房に1人たたずむ今田清次郎に声をかけた
今田清次郎は振り向いた
スキンヘッドに
小柄な体
昔のおれだったら一瞬でかかと落としをして体を真っ二つにしてるだろう
だがその男は違った
目が合った瞬間
俺の膝小僧がブルブルと震えだした
男は
全てを見透かす、本物の目をしていた
キンタマは委縮し
針を刺した風船にようにくしゃくしゃになり
ペニスはウサギの首のようにダルダルに縮こまった
「おう、ガキ、佐伯田って言ったな」
「は!はい!!寿司さえき田の2代目です!」
「惜しい奴を亡くしたな、あの坊主はおれんとこ出だぞ」
「え!そうだったんですか?オヤジも親方からのところにいたんですか?」
「ああ、たった2年半だったけどな、お前の親父は他の小僧たちとは別格だった」
「そうなんですね・・」
「しかもよお、今のお前みたいによぉ、目ん玉ギラギラさせてよお、俺に食いかかってきたんだよ、
早く握らせろとか言ってな
周りからぶん殴られても
包丁突きつけられても
あいつは腐らず、だれよりも努力してた天才だったよ
おもしれえよな、やっぱ血は争えねぇなあ小僧、がっはっはっは」
「そんなことあるんですか‥」
「おめぇ、寿司握りてぇのか?」
「握りたいです!俺は保育園の時から寿司に触れて、ずっとシャリだまを握らされ続けてきたんです!年は下だけど、誰よりも寿司を握ってきた自信はあります!」
「そうか、わかったおもしれぇ、お前、1週間後の営業後、空けとけ。
今久十兵衛で一番若けぇ握ってる奴をここに連れてきてやる
そいつに勝ったら、お前、この本店でつけ場に立たせてやるよ」
※つけ場
寿司屋の調理場のことを指します。
寿司を握ることを「つける」と呼んでいたことが由来
また、昔は寿司の魚を醤油や酢に漬け込む仕事が多かったため、このような呼び名が付いたという説も
「よっしゃあ!親方ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
俺は天高くこぶしを上げガッツポーズをした
一週間後、
久十兵衛オークラ店の親方と佐伯田優星とが交わる。
この話は、すぐに久十兵衛の中で広まった
(つづく)
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