寿司と愛⑬~運命の一貫~
最後の玉(ぎょく)を置いた瞬間
俺は膝から崩れ落ちた
体全身が脈打つようジンジンとして
意識がだんだんとフェードアウトしてくるのを感じる
周りのざわつきがどんどんと
どんどんと
耳が聞こえなくなる
コースの寿司が出る順番について
以前は
味の濃い大ネタ(大トロ・うに・いくら・煮穴子等)の次に
淡い味わいが持ち味の白身の寿司では、味わいが霞んでしまうことを恐れ、味の薄いネタから食べ始め中盤に酢締めをもって行き、
終盤に大ネタで閉めるという流れが基礎としてあったが
今では各店によって
どのような流れでつまみ・握りを出すかのメニュー構成は、
親方の意図・哲学により決定されてる場合が多い
(特に一流店程その傾向が)
何故、寿司を出す順番が哲学か
筆者が最も好きな寿司屋の一つである
北海道札幌にある「鮨 一幸」を例に挙げる。
鮨一幸の親方
工藤順也氏は39歳でミシュラン二つ星のオーナーシェフ
父親が始めた店を立て直し、
ただの街寿司から一切予約のとれない店に再構築した。
知られざる事実ではあるが
工藤氏の握る一巻目はこの7年間変わらず、
必ず「春子鯛」が握られる
そこには彼の哲学が反映されている。
彼は述べる
『握りとは何かぼくには7年間毎日
最初に握るネタがあるそれは 僕等に握りとは何かを説いてるように感じるからだ。
そのお魚は稚魚でありながら江戸時代から握られている歴史がある。
仕込みを現代風に変え お魚の粘り滑り湿度をシャリの粘り滑り湿度と合わせる事により刺身で食す味を超え、旨味が波打つようにやってくる。
まさに握られて初めて主役になれるのだ。
握る意味がそこにあるとぼくは考えている』
今の時代、店によって一巻目に出す寿司は全く異なる。
そのコースの構成から、その店の意図・哲学まで読み取ることが出来るのだ。
『俺は負けたんだ、ちきしょう、ちきしょう』
そう心の中で叫んだか
実際に声が出ていたのかわからないが
頬には悔し涙がつたった
「惜しかったのー!!佐伯田 優星!!かっかっかっか!!」
今田 清次郎からの声が聞こえた
そして、初めて
名前で呼ばれた
そのことはとても嬉しかったが
だが負けは負け
チャンスは二度と回ってこない
もう、九十兵衛を辞めて
別の店で働くしかないのか
ちくしょう‥
そして俺は完全に意識を失い
また朝いた病院に緊急搬送された
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それから2週間後
俺は初めて
日本最高峰であり
高級寿司の代名詞
九十兵衛で
2番手として
お客さんに鮨を握る事となる
「やばいやつがいる、銀座さきき田の2代目がとんでもない」
「17、18のやつが九十兵衛で握ってる本当か?」
「佐伯田って、あのなくなった親方の息子か?」
俺が
2番手として握るようになってから
その噂は
豊洲市場中にすぐに広まった
(つづく)
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