イイ顔を映してくれる鏡の話

鏡を、貰った。曰わく、映った人物を美しく見せるらしい。しがないサラリーマンの私には用のない物であるが、家に鏡が無かったので、貰った。

美しく見えるはずなのだが、今朝ヒゲ剃りに使ったときにはやつれた顔が映っているだけだった。「ホラ話だよな」

評論を始めた。小説に興味のあった、私だったが小説を書く才能は無かった。他人の小説を読んだ感想を書き連ねるのは、好きだった。

ネットに投稿してみた。同好の士を見つけることを期待して。予想外の反響が、あった。幾つも投稿してみた。仕事と並列で投稿する日々は、忙しかった。疲れた顔を、見せないように、身嗜みには気を使った。鏡に映る、私は、どことなく生気に溢れていた。

仕事を、やめた。

人と会わなくなって、ヒゲも剃らなくなった。

ある日、久し振りにヒゲを剃ろうとした。

鏡には、何も、映らなかった。


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