部屋のくらがりがキーパーグローブを嵌めて(偽日記23)
なんか小説の賞とった、友達のLINEでいうと、じゃあドンキと万代いくか、とかえってきて、いくいくとなって乗り込む。全体が灰皿みたいな車。ぐるぐるだ、とおもう。景色。書く気にもならない景色。口笛がきこえる。友達は口笛がうまい。とてもうまいので不快にならない。「WTAPSの秋服が欲しい、スウェット」といわれる。へえ、という。私は馬鹿なので、スウェットにロゴだけ入っている数万の服の意味がよくわからない。よくわからないので、なんか手のこんでそうなそうな服ばかり買ってしまう。百虎が次出たら絶対買うわ、という。原盤みたいなのがあって、それを彫るひとがそろそろ歳でやばいらしいのだ。「データとかじゃねえんだ?」データでプリントできない柄もあんだって複雑すぎて。「へえ」そう。私は小説の賞をとって偉いので友達が不味い中華を奢ってくれる。ほんとうにどうやったらこんなに不味くなるのか、いまだわからないのだそこの店に関しては。
元恋人から「おめでとう!」といわれる。へへへ私天才というと、病気になったといわれる。またか、とおもう。なに?「●●●●」といわれる。危ないことをするからだ、という。病気じゃなくて、もし変なのにあたって怪我とかしたらどうする気なのか。「やめて欲しい?」といわれる。やめては欲しいが、そんな権利はない。私がたとえば100万円を背後のなにもない空間から取り出せる能力とかあったらとめられるのであって、そうでないのならとめる権利なんてないのだ。「そうだよね」そうだ。だから、じゃあラーメンをこんど食いにいこう、という。海にもいこうよ。
働いていないのでとても健康。夜、散歩する。他人の庭の花を眺めて、実はこの世のものはぜんぶじぶんのものなんじゃないか、とおもう。私のものが、けっして私のものでないように。音楽をかける。歌詞が鬱陶だから。リズムのことしかわからないな、とおもう。電柱をみる。電柱のリズムを考える。呼吸を考える。私は呼吸をあわせる。すると、それは走る呼吸だから、走らなければならないということになり、スニーカーの頭をぐにっとやって空気をからだでかき分けていく運動。空気。ねっとりした夏の空気。おまえ存在感あんな、というと空気が「まあな」という。冬はとげとげになんのは体質?「そんなところ」ふうん。それから私たちは公園にいって、ベンチで力水を乾杯する。けっこう苦労しているんだな、とおもう。「さあね」
ラーメンを食べる。地元の。久々。田舎にあるけど人気だから結構並ぶ。子供のころから食っているので、私の右手くらいはこのラーメンでできているかもしれない。そうおもうと、右手はなんだか丼に帰りたそうにしている気がする。帰りたいの?というが、なにもいわない。だんまりだ。思春期の息子か娘のように、鼻を鳴らしてスマホゲーだのSNSだのインターネットで銃撃戦するゲームだのをやりだしたので、飯食っているときくらい飯に集中しろ!と叫んだ。なるほどその通りだ、と右手は反省したようで、大人しくラーメンを啜った。わりとききわけがいいじゃないかとおもう。そんな世迷言はどうでもよく、TwitterのDMがきてびっくりして水を吹き出し、対面にいた元恋人にぶっかけてしまいキレた元恋人がコップの水を私に投げつけた。コップの水位がすごくてごぶぶぶぶとなって、水面から顔をだすともう夕暮れで、海の水ちょー不味いなとおもう。備え付けのシャワー室で塩気を流して、タオルでからだを拭いた。地元は7つ浜辺があって、ここはほんとうに誰もこないところだから、誰もいないのだった今日も。元恋人が私を撮ってくれた。カメラのときの目ってどんなの?とおもった。カメラのときの、カメラで撮っているときのひとの目ってなに? カメラでのぞいているときの自己ってなに? 誰になる? 自分のままか? それともカメラと融合しているから、カメラの言葉で風景が語れるのか? カメラとしての笑顔があって、カメラとしての悲しみがあって、カメラとしてのあらゆる運動が個人の運動といっしょにあるのか? じゃあカメラをもっているときあなたはあなたじゃなくてサイボーグなのか? 元恋人が踊った。よく踊るひとなのだ。スマートフォンが砂浜に刺さった。エコバックが虫の巣のうえに飛来した。手を大きくひろげて、太陽が焼きつけながら祝福する逆光で、影の伸縮を両手でふりまわして、その支点として踊った。私はカメラになった。カメラとしてみたとき、時間がなかった。時間が。時間だ。ありとあらゆるエピソード記憶を置き去りにして、まとまりのない白い肌の回転、踊りをみていた。
帰りの車のなかで「これからどうするの?」といわれた。
美味しい料理を覚える、といった。おれの舌のための。
部屋に帰り、友達とグループ会話した。どこまでもいけるし、どこまでもいってしまうので、もしかしたら歯止めが効かないのかもしれないので、結果尖り切った鉛筆みたいになってしまうのかもしれないが、そうなってもいい。
また夜。陽はさいきんアルバイトを増やしたのか、確実に回転速度をあげているので業務改善の成功例として学ぶべきことがたくさんあるとおもう。間接照明を切る。寝る。寝れない。間接照明を入れる。ヒガンテのお面がめちゃくちゃに壊されるシーンだけ読む。また、無名が大人になって手袋を嵌めた闇に脳ごと引き摺り込まれるところだけを読む。寝る。簡単に影響を受ける。俺の、俺だけの部屋の暗がりが手袋を嵌める。けど俺を引き摺り込んでくれない。よくみると、手袋ではなくキーパーグローブだ。俺はボールを探した。なかったので、心臓をくり抜いてキャプ翼みたいに蹴ってみる。心臓が空気を纏っていく。右心房がいい形をしているなとおもった。キャッチされて、心臓が親指から転がっていって、小指とその続きでつくられた受け皿で回転をとめる。ハンターハンターのキルアって全然英才教育うけてなくね?とおもったら朝。
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