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「60点で合格」の根拠を考察する

※この記事は2023年8月に執筆した記事の再加筆記事となります。


先日、放送大学に入って2度目の単位認定試験を受けました。
一応手応え的には悪くなかったのですが、やはりキチンと単位が取得できているかは心配です。
成績発表までは折に触れソワソワするような気持ちが続くことでしょう。

テストが終わった後は色々不安が巡ります

放送大学は2学期制となっており、おおよそ3ヶ月授業 → 3ヶ月自主学習期間(休み)のスケジュールで1学期が構成されています。
現在は自主学習期間に差し掛かったので、授業がないうちにと資格試験の勉強を進めています。

さてこの資格試験ですが、8割の正答率が試験合格のラインであると思いこみ勉強を進めていました。
何度か過去問を解いて、7割しか取れず困っていましたが、改めて調べると合格ラインは8割ではなく6割であるとわかりました。

なんだもう合格点取れてるじゃん!と思ったと同時に、
「4割間違えてもいいもんなの…?」
と疑問に思いました。

野球だったら打率3.7割でイチロークラスです、4割って大きいのでは…?

すでに7割正解できているとはいえ、採点をしていると結構間違いが多いと感じたり、理解できてない範囲が多いなと不安を覚えたりします。
そもそも4割の間違いといえば3分の1は間違えても良いということ、果たして3分の1理解できていなくていいんだろうか?と思います。

大学の単位認定に関しても多くの大学は60点(6割)をボーダーとしています。
60点を取れば合格、59点以下は不合格となり単位が認められません。
この60点(6割)の根拠、一体なんなのでしょう?


60点(6割)でOKという基準の広まり


世の中の資格試験において、多くの試験が60点(6割)を基準に合格点の設定をされています。
先に挙げた大学の単位認定に関しては、各大学や授業によって基準は異なりますが多くが60点を単位を認める基準としています。

海外の大学についても60点を一つの基準として定めているケースが多い様です。

またGPAの計算においても点数を基準に計算する場合は60点(から-5した値)を基準として、
GPA = (点数 - 55) / 10
という計算を行うことがあります。
(この場合最低のGPAは0.5で最高のGPAは4.5、A〜Cなどの成績評価をもとに計算する場合は数値が変わります)

GPAの計算は海外の大学でも同様の計算を行うので、日本だけでなく世界的に60点を基準とすることがある種のスタンダードとなっていることがわかります。

また"フラジャイル"という医療漫画の中では病理診断専門医の認定試験が6割で合格であると描かれていました。

病理医師は組織診断、細胞診、病理解剖などを行うお医者さんです

病理診断専門医の認定試験は実際に診断された病理検体を用いて診断を行なっていく方式で行われます。
仮に6割の正解率で合格した場合は4割の症例を誤診していることになります。
(制限時間があるなど限られた条件はあるので、必ずしも実際の診断と同じとは言い難いですが)


60点(6割)の根拠


ここまで広まっている60点(6割)合格ラインの根拠ですが、調べてみた限りでは"ほぼ根拠はない"と言えそうです。

例として税理士国家資格では試験科目免除のための基準を満点の6割とすることという法律が定められていますが、その根拠までは書かれていません。

上記の法律を遵守するため、税理士国家試験は合格点が6割となるように試験終了後に問題の点数分配を行う運用をとっているそうです。
(そのため実質的には8割以上正答しないと合格できないとされており、受験者もそのことを熟知しています)

要するに制度の上では6割を基準としていますが、現実的には制度のままでは噛み合わないため運用でカバーしていると言えます。
そもそも60点(6割)が合格点ではない資格試験もあり、日商簿記は7割以上を合格ラインとしています。
また、試験によっては満点からの割合ではなく受験者の得点上位◯割が合格ラインと定めるものもあります。

入学試験のように定員が決まっている試験も、相対的に合格ラインが変動していきます

このように60点(6割)という基準は、厳密な調査や分析によって定められた訳ではなく、基準として不十分な場合もあることがわかります。
とはいえ、根拠ではなく理屈の上では60点という基準は妥当と言えるのも事実です。

2013年の学術記事「医学教育における学習者の評価(1) 総論」では、テストにおいて信頼性のおける点数の範囲を、
52.98 点≦ T ≦ 67.02 点
と提示しています。
(参考元:https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/44/5/44_345/_pdf)

また、標準偏差から考えるとおおよそ50〜60点が平均(偏差値50)に収まるテストの設計・試験の設定が難しすぎず易しすぎないもの、と考えられる様です。
この点に関しては調べてみましたがあまりキチンと理解はできなかったので、目安としてそういうものなんだなとしてください。

あくまで計算の定義上妥当性が高いとは言えますが「医学教育における学習者の評価(1) 総論」にも述べられているように、60点(6割)という基準が絶対至高のマジックナンバーである、ということを示すものではありません。

どのような試験問題であっても60点を合格点とする根拠はない.
これまで多くの合否判定方法が開発されてきたが,gold standard と呼ばれる方法はなく,重要なのはどの方法を用いるかでは無く評価の目的や状況を加味して適切に運用することである.

医学教育における学習者の評価(1) 総論:https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/44/5/44_345/_pdf

60点(6割)をどう受け止めるか


理想を言うのであれば、100点(10割)の正解を答えられれば文句なく単位であろうが資格試験であろうが基準を満たしていると考えられます。
しかし実際にそのような人間はおらず、東大の試験に挑戦しているAI(東大ロボくん)ですら100点どころか合格ラインすらとっていません。
100点(10割)を基準にした場合は、一握りの超天才しか基準を満たすことはできないでしょう。

古代中国の役人を選抜する試験(科挙)では倍率が2000倍になったこともあったそうです
(合格率 0.0005%)

逆に言えば"60点(6割)分かってれば良い"というのは意欲を失わずに臨めるちょうど良い範囲とも言えます。

昨年放送大学で情報数理の授業を受けましたが、最初は内容が難しすぎて絶対に単位が取れないと思っていました。
logを用いた計算やハフマン符号、情報のエントロピーなど意味不明な内容ばかりで、やもすれば諦めて単位自体捨てようかとも思っていました。

そんな折、とある大学の先生が「まずは60点を目指せば良い、100点をとっても未来には正しいことが変わってくる可能性がある」と述べていました。
簡単に考えれば、そもそも内容を10割理解する必要はなく、ひとまず単位習得だけを考えれば6割を理解すればいいわけです。

そう思えば、理解できないことばかりに目を向けず「まずは半分程度理解して、あとは得意な部分が全体の1割あれば良いな〜」と思って勉強を進めていくことにしました。
幸い半分+1割程度のハードルであれば意欲を失わずに進められたので、最終的にその授業の単位は落とさずに済みました。

点数も大事ですが、心理的なハードルの設定や捉え方が重要なのかもしれません

少なくともその時の自分にとって、大切なのは「60点というハードルの根拠」ではなく「自分の中で60点とはどの様なハードルか」を認識することだったのかもしれません。
根拠や理論の上でいかに60点(6割)の基準が優れているかということより、そのハードルに自分がどう立ち向かうのか、という考え方・計画の立て方を身につけることが、勉強をする上で重要だったように思います。

あくまで持論ですが、何事も気持ちが萎えてしまいそうな時は「まずは6割(半分とちょっと)」を目指すのが大事なのかもしれませんね。

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