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ショートショート「世界を賭けた5秒間」
突如、異星人の巨大母艦が地球上空に現れた。世界中が恐怖に包まれる中、異星人の代表が通信回線を通じて宣言する。
「地球の運命は、たった5秒で決める」
政府首脳たちはパニックに陥った。彼らの要求は不明。ただ、目の前の円卓にはひとつのボタンが置かれ、カウントダウンが始まる。
「5… 4…」
各国のリーダーが顔を見合わせる。押すべきか、押さざるべきか? だが、誰も結論を出せない。
「3… 2…」
そのとき——
カチッ!
場違いな軽快な音が響いた。
会議室の端にいた少年が、無邪気にボタンを押していた。
「え、だってカウントダウンしてたから……」
——沈黙。
政府高官たちの顔から血の気が引き、警備隊は少年を確保しようとする。しかし、次の瞬間、通信が再びつながった。
異星人は数秒間、静かに分析した後、こう告げた。
「判断が早い。地球は合格だ」
「……は?」
「宇宙の文明が進歩するために最も重要なのは、"決断力" である。遅れた文明は滅びる。我々は数千の惑星を審査してきたが、大半は逡巡し、時間切れで消滅した。だが、地球には決断を下せる者がいた。」
異星人の艦隊はゆっくりと移動を始めた。
「では、さらばだ。地球は存続を許可する」
彼らが去った後、会議室には呆然とした沈黙だけが残る。
少年は無邪気に笑って言った。
「ねぇ、他のボタンも押していい?」
——世界のリーダーたちは、慌ててボタンを撤去した。
(了)