『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』を読んで
愛読しているdancyu連載「東京で十年。」そのライター井川直子さん渾身の一冊
『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』を読みました。
この本には、正にコロナ禍「何が正しいのかわからない」中での錚々たる面々のシェフたちの闘いや、苦しみながらの気づきがあり、新しい挑戦があります。
でも共通して言えるのは一流の人は多様性を認めるということです。それが認められるか否かは重要な問題だと私は思っています。
何が正しいかわからない中で、何とか正しくありたいと模索しながらの在り方は、同じ飲食店でも店によって全く違うので一刀両断に片づけられないのです。
この本は、その多様性を示唆しています。
コロナ禍どんな飲食店も様々な選択を迫られました。
振り返れば昨年は自粛警察なるものが騒がれて、営業していることが罪人のようになりました。しかし今年は、あまりに延長が重なり人の心理が変わってきました。
今度は逆に、休業していることが怠けているような文脈に出会い、何とも言えない違和感を感じました。自分が休業しているからというよりも、そのように語られること自体が悲しい気持ちになりました。
この本からは、そんな悲しい分断を生まないようにという情を感じました。
著者は34人のシェフを選んだ理由として「背景が違えば、抱える問題も違います。飲食関係の読者がより自分に近い背景を探せるように、と考えたのが一つ。もう一つは、「違い」そのものを書きたかったのです。
コロナ禍では、世のなかが分断されました。たとえば営業を続ける店は「みんなが自粛しているのに」と非難され、自主休業を選ぶ店は「余裕があっていいよね」と皮肉られ。
人が人を傷つける元凶は、多くが「知らない」ことにある気がします。相手の背景を知らないから、自分の拙い想像だけで決めつける。でも、もしそれぞれの事情や店主の真意を知ることができたなら、見方は大きく変わるかもしれません。分断を防ぐことが、少しでもできるんじゃないかと、取材を重ねながら考えていました。」
シェフたちが、それぞれの立場から出口が見えない中を、その都度できる事を探し必死で答えを見出しながら模索する姿が書かれていて、本当に勇気づけられます。
シェフたちは各々の場で、それまで見えなかった事を発見し、今までにない形を目指し始めています。医療現場に無償でお弁当を提供する運動に火をつけたシンシアの石井シェフの言葉が心に沁みました。
「レストランは嗜好品で、「生活に必要」なものではありません。でも心豊かな生活を営むうえでは必要な存在です。料理文化が淘汰されては大変なことになる。そのことを国にも、社会にも認めてもらいたいと思います。」
規模は違えど当店も飲食店として何度も判断を迫られました。時短営業でも新しいお酒を開栓しないわけにもいかず、品質管理の上から無理と判断し、2021年1月の初頭から休業に入りました。その時は、まさかお酒が出せない日が来るなんて夢にも思っていませんでした。4月に少し開けましたが、すぐに酒類が提供できなくなり、barスタイルの店はお手上げで、またしても休業になり今に至ります。5月の連休には松花堂弁当のテイクアウトにも挑戦してみて、いろいろな気づきもありました。
今後こそ、お酒の提供ができれば時短でも再開しますが、自分が社会にとって必要な仕事をしているのだという自負を持とうと思います。いろいろ模索を続けながらも、新しいことにも挑戦して進化することを諦めず、なんとか踏ん張りたいと思えてきました。