請求人が韓国の銀行を被告とする訴訟で請求していた金銭債権が、国外財産調書に記載すべき「国外財産」であるかが争われた事案の裁決です。
メインの争点は別にあって、上記の争点は、税額への影響も限定的な付随的な争点に過ぎないのですが、審判所の判断に疑問があったので取り上げさせて頂きました。
事案の概要は、以下のとおりです。
そして、本件加算特例の適用について、請求人は、民事訴訟において本件銀行に対する預金返還請求権の存否が争われており、平成25年12月31日時点では確定していなかったのであるから、当該預金返還請求権は国外財産調書に記載すべき「国外財産」に該当せず、したがって、本件加算特例は適用することはできないと主張したのですが、審判所は、以下のように本件加算特例を適用すべきであると判断をしました。
うーん、「いまだ明確な権利とはいえない財産法上の法的地位」も「財産」に該当するという判断はよいとしても、「本件銀行に対する預金返還請求権又は損害賠償請求権」が「国外財産」であるという判断はマズいような気がします。
というのも、国送法上の財産の「国外財産」の所在については、以下のとおり、国送法施行令10条1項、2項及び7項、国送法施行規則12条2項及び3項並びに相続税法10条1項及び2項により判断することとされているのですが、請求人が有していた財産が「本件銀行に対する損害賠償請求権」であるとすると、その所在は、国送法施行令10条7項及び国送法施行規則12条3項6号によって「当該財産を有する者の住所」によって判断することになるため、「国外財産」に該当しないことになるはずだからです。
これは条文を見るよりも、「国外財産調書制度FAQ」の「財産の所在判定表」で見て頂いた方が分かりやすいかもしれませんね。
因みに、請求人が有していたのが本件銀行に対する預金返還請求権であるとすれば、国送法施行令10条1項及び相続税法10条1項4号によって「国外財産」に該当することになりそうなのですが、あえて権利の性質が特定できないことを前提として、請求人が有する権利が「本件銀行に対する預金返還請求権又は損害賠償請求権」であると認定した訳ですから、その権利が「国外財産」であると判断するためには、損害賠償請求権であっても「国外財産」に該当すると認められなければならないはずです。
請求人は、自らが有していた権利が「預金返還請求権」であることを前提とした主張をしていた訳ですし、本件第一審判決でも預金返還請求権に基づく主位的請求が認容されていた訳ですから、預金返還請求権であることを前提とした判断をすればよかったのではないかとも思うのですが、下手に事実認定を厳密にしようとした結果として、おかしな判断になってしまったように思えます。
さらに、この裁決では、本件加算特例の適用に関して、以下のように、「本件分配金」も「国外財産」に該当するという判断もしているのですが、平成26年12月31日時点において、「本件分配金」は、請求人の親族である個人に対する預け金債権であったはずですので、その所在は、国送法施行令10条7項及び国送法施行規則12条3項6号によって「当該財産を有する者の住所」によって判断されることになり、「国外財産」には該当しないことになるはずです。
あと、形式的なところですが、裁決に関係法令として国送法施行令10条1項、2項及び7項、国送法施行規則12条2項及び3項並びに相続税法10条1項及び2項が記載されていないのも気になりますね。
単に請求人が財産の所在を争っていた訳ではなかったからに過ぎないかもしれませんが、上記のような判断をしていることからすると、それらの条文を確認することを怠っていたのではないかとさえ思えてしまいます。