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非公表裁決/申告等で損金算入されていない欠損金が「所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの」に該当するか?

法人税の申告や更正といった税額の確定手続においては損金の額に算入されていなかった欠損金額が、法人税法57条1項括弧書きの「当該各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの」に該当し得るかが争われた事案の裁決です。

上記の説明では、どのような事案で何が問題となったのか分かりにくいと思うのですが、欠損金額を増減させる更正については、欠損金の繰越期間に合わせて更正の請求の期限と更正の除斥期間が伸長されている(通則法23条1項、同法70条2項)ため、例えば、以下のように、×1年3月期の欠損金額を増やす更正の請求をすることはできるけれども、×2年3月期の所得金額を減らす更正の請求をすることはできないという場合があって、そのような場合に更正の請求に基づき増額された×1年3月期の欠損金を、×2年3月期ではなく×3年3月期の損金の額に算入することができるのかが問題となったということです。

なお、この裁決の事案では、平成25年3月期が「×1年3月期」、平成26年3月期が「×2年3月期」、平成27年3月期が「×3年3月期」に相当することになります。

そして、この点について、審判所は、以下のように、「損金の額に算入されたもの」とは、申告や更正において損金の額に算入されたか否かにかかわらず、法人税法57条1項により損金の額に算入することとなる欠損金額をいうと判断しました。

(2) 法令解釈
イ 法人税法第57条第1項括弧書に規定する「この項の規定により当該各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの」の「損金の額に算入されたもの」とは、「この項の規定により」とあることから、同項本文の規定によって損金の額に算入されたものをいうと解される。そして、法人税法第57条第1項本文は、「内国法人の各事業年度開始の日前9年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額•••がある場合には、当該欠損金額に相当する金額は、当該各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」と規定しているのであるから、各事業年度前に欠損金額が生じ、当該各事業年度において所得金額が生じた場合には、当該欠損金額に相当する金額は、その所得金額が生じた事業年度において損金の額に算入することになると解される。
ロ また、法人税法第57条第1項には、「損金の額に算入されたもの」につき、法人税の申告や更正における所得の金額の計算上損金の額に算入された欠損金額に限定する規定はない。
ハ そうすると、法人税法第57条第1項括弧書に規定する「損金の額に算入されたもの」とは、法人税の申告や更正における所得の金額の計算において、欠損金額が損金の額に算入されたか否かにかかわらず、同項本文の規定により損金の額に算入することとなる欠損金額をいうものと解するのが相当である。
(3) 当てはめ
本件において、平成26年3月期の所得金額は、別表のとおり、■■■■■■であることから、本件欠損金額は、上記(2)のとおり、法人税法第57条第1項の規定により、平成26年3月期において、その全額が所得の金額の計算上、損金の額に算入される。そのため、本件欠損金額は平成27年3月期に繰り越されず、平成27年3月期における法人税の所得金額に変動は生じない。
したがって、平成27年3月期の法人税の確定申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該確定申告書の提出により納付すべき税額が過大であったとは認められないから、本件更正の請求は、通則法第23条第1項第1号による更正の請求をすることができる場合に該当しない。

うーん、これはなかなか悩ましいところですね。

まず、法人税法57条1項の「所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの」という文言からすると、申告や更正といった税額の確定手続において「所得の金額の計算上損金の額に算入された」ものであるという理解の方が自然である気はします。

法人税法57条1項は、繰り越された欠損金額を当然に当該事業年度の損金の額に算入すべきであるとしていますので、申告や更正といった税額の確定手続において「所得の金額の計算上損金の額に算入された」ものでなくても、理論的には「所得の金額の計算上損金の額に算入された」ものであるという理解も分からなくはないのですが、申告や更正といった税額の確定手続によって法人税の課税標準である「所得の金額」も確定することになる訳ですから、その確定した「所得の金額」の計算上損金の額に算入されていないにも関わらず、「所得の金額の計算上損金の額に算入された」ものであるというのは違和感が残ります。

あと、法人税法64条の7第1項2号ハ等では、「所得の金額の計算上損金の額に算入される金額」と規定していて、「所得の金額の計算上損金の額に算入された」と規定していないこととの関係も気になりますね。

これが書き分けられているのであるとすると、ますます、法人税法57条1項の「所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの」というのは、申告や更正といった税額の確定手続において「所得の金額の計算上損金の額に算入された」ものをいうという理解の方が自然となりそうです。

他方で、欠損金額を減額する更正処分がされた場合との関係でいうと、上記のような裁決の判断の方が、バランスがとれているようにも思えます。

というのも、「国税通則法精解(令和4年改訂)」・878~879頁において、以下のように記載されているとおり、課税庁が、ある事業年度(×1年3月期)の欠損金額を減額する更正処分をしたことによって、その翌事業年度(×2年3月期)の所得金額が増えることになる場合であっても、その翌事業年度(×2年3月期)の法定申告期限から5年(又は7年)が経過している場合には、その翌事業年度(×2年3月期)について更正処分をすることはできず、その限りにおいて、ある事業年度(×1年3月期)の欠損金額を減額する更正処分というのは意味を成さないものと解されているからです。

ここで、10年の除斥期間に服するのは、あくまで法人税の純損失等の金額で当該課税期間において生じたものについてする更正であり、その結果として、法人税の純損失等の繰戻しに係る還付金額が過大であったり、繰り越された年分又は事業年度分の納付すべき税額が過少であったときの増額更正は、第1項の5年又は第5項1号の7年の規定が適用されるのである。したがって、現実に意味のある納付すべき税額又は還付金額を正当な金額に是正する除斥期間は、第1項の5年又は第5項第1号の7年となるのであって、第2項の除斥期間は、あくまでその基礎となる法人税の純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを正当な金額に是正する除斥期間である。

「国税通則法精解(令和4年改訂)」・878~879頁

ただ、上記はあくまで通則法70条2項の解釈の問題に過ぎませので、法人税法57条1項の「所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの」の解釈において考慮しなければならないという訳でもないような気もしています。

ところで、争点からは少し離れるのですが、そもそも、この事案では、平成26年3月期について減額更正処分をすることはできたのではないかと思っています。

というのも、通則法71条1項1号で「更正の請求に基づく更正に伴って課税標準等又は税額等に異動を生ずべき国税・・・で当該・・・更正を受けた者に係るものについての更正決定等」については、「当該・・・更正があつた日から6月間」は更正をすることができることとされていて、この事案の平成26年3月期の法人税というのは、更正の請求に基づいて行われた平成25年3月期の法人税の更正に伴って異動を生ずるものであるからです。

因みに、「国税通則法精解(令和4年改訂)」・900~901頁でも、「争訟の結果、その年分の所得金額を超えて雑損失の額がある旨容認されたことに伴い、その翌年分の所得金額が異動する場合」が通則法71条1項1号に該当する典型例として挙げられているのですが、その「争訟の結果」及び「雑損失の金額」を「更正の請求に基づく更正の結果」及び「欠損金額」に変えると、この裁決の事案と全く同じ状況になります。

したがって、請求人としては、平成25年3月期について更正の請求をすると共に、平成26年3月期について更正の嘆願(※この場合には更正の請求はできません。)をすべきであったのではないかと思いますし、原処分庁としても、請求人からの更正の嘆願の有無に関わらず、平成26年3月期について減額更正処分をすべきであったのではないかなと。

という訳で、審判所の判断にも疑問はあるのですが、それ以前に原処分や請求人の対応に疑問がある事案なのではないかという気がしているところです。

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