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非公表裁決/相続を巡る訴訟の相手方が支配する会社の株式の譲渡が「著しく低い価額の対価による譲渡」に該当するか?

相続を巡る訴訟上の和解において、当該訴訟の相手方である請求人の弟が支配する(と思われる)会社の株式を、弟が指定する財団法人に譲渡したところ、その譲渡が「著しく低い価額の対価による譲渡」(所得税法59条1項2号)に該当するかが争われた事案の裁決です。

問題となったのは、以下のような株主構成の会社(本件各会社)の株式の譲渡です。白文字は開示された裁決書に記載されていたものではなくて、私が記載したものですが、おそらく間違ってはいないと思います。

株主構成①

株主構成②

株主構成③

すなわち、紛争の相手方である弟が本件各会社を支配していたため、請求人も、形式的には本件各会社の「中心的な同族株主」(評価通達188(2))であったということになります。

そして、請求人は、A社株式を@3,000円、B社株式を@4,381円、C社株式を@24,403円で弟が指定する財団法人に譲渡したようなのですが、これが、所得税基本通達59-6の定めによって算定した価額(通達評価額)の2分の1を下回っていたことから、原処分庁は、その譲渡が「著しく低い価額の対価による譲渡」に該当するものと判断し、通達評価額により譲渡したものとみなして課税処分をしたということです。

因みに、請求人は、本件各会社の株式を平成23年に相続によって取得しているのですが、その時の相続税評価額は、A社株式が@974円、B社株式が@4,381円、C社株式が@24,403円であったようですので、本件各社の株式の譲渡価額というのは、請求人が相続によって取得した時の相続税評価額以上の価額であったということになります。

請求人は、本件各会社の株式の譲渡価額は、弟とは雖も紛争の相手方との間で合意した価額であることから、利害の対立する第三者間で決定した価額であって、「著しく低い価額」ではないなどと主張したのですが、審判所は、以下のように請求の主張を排斥して、本件各会社の株式の譲渡価額は「著しく低い価額」であると判断しました。

B 本件各譲渡は、本件相続に係る遺産の帰属を争う訴訟をしていた請求人と■■■■(弟)と間での紛争解決の一環として行われたもので、当該訴訟の原審で敗訴した請求人が、本件控訴審において、訴外財産である自己所有の本件各株式の■■■■(弟)による買取を申し出たことにより本件各譲渡に至ったものである(上記1の(3)のイないしト)。
そして、本件各譲渡における本件各株式の買取価格は、飽くまで訴訟当事者間の和解で成立した価額であって、裁判所が算定・提示した価額ではない上、その決定過程において、特段の価格交渉が行われることもなく、■■■■(弟)からの一方的な提示価額(■■■■■(A社)株式の価額は1株当たり3,000円、■■■■■(B社)及■■■(C社)の各株式価額は本件相続に係る相続税の申告時の評価額と同額)をそのまま了承したものである(上記1の(3)のロ、ヌ、ル及びヲの(イ))。
C この点、請求人は、本件各会社の株主として、会社法第433条第1項及び同法第442条第3項の規定に基づく会計帳簿並びに貸借対照表及び損益計算替などの計算書類に係る閲覧・謄写の請求権を有しており、現に、本件各譲渡の主要部分を占める一の株式について、平成26年9月期の財務諸表に基づき試算した1株当たりの純資産価額(9,417円)及び類似業種比準価額(5,094円)の情報を保有していたにもかかわらず(上記1の(3)のチ及び上記(1)の口の(p)) 、■■■■(弟)からの提示価額に対し、上記財務内容に即した検証をした事実もうかがわれない(上記1の(3)のチないしヲ)。
D 以上のとおり、本件各譲渡における本件各株式の買取価格は、通常の取引とは異なる特殊な状況下において成立したものであり、それをもって、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額であるとは認め難いといわざるを得ないすなわち、本件各譲渡における本件各株式の買取価格は、本件各株式の客観的交換価値であるということはできず、所得税法第59条第1項に規定する「その時における価額」とは認められない。
そして、本件各株式の「その時における価額」を算定すると、後記(4)のハの(ニ)で述べるとおり■■■■■と認められるところ、本件価額は、その2分の1に満たない金額となる。

うーん、審判所が言わんとすることは分からなくもないのですが、特に紛争を扱っている弁護士の立場からすると、ちょっと納得しづらいですね。

請求人は、形式的には本件各会社の「中心的な同族株主」に該当するのでしょうが、本件各会社というのは、相続を巡る紛争の相手方となっている弟が支配している会社ですので、実質的には、支配株主と対立関係にある少数株主に過ぎません。

そして、支配株主と対立関係にある少数株主が保有する非上場会社の株式なんて、配当を貰える見込すらない訳ですから、殆ど価値はありません。それを、数年前に相続で取得した時の相続税評価額以上の価額で買い取ってくれるというのであれば、そんなありがたい話はないくらいですので、請求人が、その価額について「検証した事実もうかがわれない」というのも、税務上のリスクさえ考慮しなければ、当然のような気さえします。

「本件各譲渡における本件各株式の買取価格は、通常の取引とは異なる特殊な状況下において成立したものであ(る)」というのは、確かにその通りかもしれませんが、非上場株式について、「通常の取引」とか「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額」なんて、一種のフィクションに過ぎない訳ですから、利害の対立する当事者間の取引において決定された価額であり、かつ、その決定が経済的に合理的な判断によるものであるといえるのであれば、その価額を「その時における価額」と認めてしまっても良さそうな気がしますし、少なくとも、それが「著しく低い価額」であるという判断には違和感があります。

また、通達との関係でいえば、形式的には「同族株主以外の株主等」に該当する場合でも、実質的に会社を支配していると認められる場合には、当該株主が取得した株式について、配当還元方式ではなく、原則的評価方式で評価すべきと判断されることもある(東京地裁平成26年10月29日判決)訳ですから、逆に、形式的には「中心的な同族株主」に該当する場合でも、実質的には少数株主に過ぎないと認められる場合には、原則的評価方式によらずに評価することが許容されても良さそうな気もします(審判所でそこまで思い切った判断をするというのは難しいのかもしれませんが。)。

なお、請求人の代理人であった弁護士としては、弟が株式の譲渡先として財団法人を指定してきた時点で、「みなし譲渡」の可能性を考慮して慎重な対応をすべきであったのではないかなとも思います。

ただ、そもそも、弁護士には「みなし譲渡」のことを知らない人も少なくなさそうですし、知っていたとしても、弁護士の感覚からすると、本件各会社の株式の譲渡価額が「著しく低い価額」になるとは思えないでしょうから、そこで待ったをかけるのは難しかったのかもしれませんね。

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