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非公表裁決/青果卸売会社が農協等に支払った「集荷対策費」は寄附金に該当するか?

青果卸売会社である請求人が、仲卸業者等に対する委託販売において、実際の販売価格が委託者である農協等の希望価格を下回った場合に、その差額分を自ら負担して農協等に支払っていたところ、その差額分の支払いが寄附金に該当するかが争われた事案の裁決です。

事案の内容等から、少し前に報道された名古屋のセントライト青果に対する課税処分の事案だと思います。

委託販売ですので、請求人とすれば、法的には、農協等の希望価格に拘わらず、実際の販売価格から販売手数料を差し引いて農協等に支払えば足りるはずなのですが、農協等との力関係もあって、その差額を「集荷対策費」として負担していたということにようです。

請求人は、そのような「集荷対策費」を卸売業者が負担することは業界の慣行であり、請求人がそれを負担しなければ、農協等は他の卸売業者に販売を委託するようになり、請求人の販売委託数及び販売委託料は大幅に減少することになるから、「集荷対策費」の支出には、通常の経済的取引として是認できる合理的な理由があると主張したのですが、審判所は、以下のように、「集荷対策費」は寄附金に該当すると判断しました。

 上記イのとおり、ある支出が、資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に当たるものであっても、それが客観的にみて法人の収益を生み出すのに必要な費用又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用であって、その費用としての性質が明白であり明確に区別し得るものであれば、法人税法第37条第1項に規定する寄附金には該当しないと解されることから、以下では、①【集荷対策費】の支出が、資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に当たるか否か、②それが客観的にみて法人の収益を生み出すのに必要な費用又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用であって、その費用としての性質が明白であり明確に区別し得るか否かを検討する。
(イ)【集荷対策費】の支出が、資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に当たるか否かについて
 上記ロの(イ)、(ハ)及び(ニ)のとおり、本件各希望価格は、本件受託約款第17条が規定する委託物品に指値の条件を付したものではなく、飽くまでも本件各取引先における希望であって拘束力はなかったことに加え、請求人は、増仕切取引の実施や増仕切価格について、本件各希望価格等を踏まえて請求人の判断で決定していることや、増仕切取引を実施したこと等について、本件各取引先に伝えていないことなどからすれば、本件各取引先は、個別具体的な取引における請求人に【集荷対策費】の負担を認識していなかったものと認められる。
 そうすると、本件各取引先は、【集荷対策費】の支出の対価についても当然認識しておらず、請求人と本件各取引先との間で取り交わした本件受託約款及び本件各契約書にも、【集荷対策費】に係る記載はないことも併せ考慮すると、請求人と本件各取引先との間において、【集荷対策費】の支出の対価として、本件各取引先が何らかの義務を負う旨の合意があったと認めることはできず、その他、当審判所の調査及び審理の結果によっても、【集荷対策費】の支出の対価として、本件各取引先が何らかの義務を負うことをうかがわせる事情は認められない。
 なお、前記1の(3)のホのとおり、請求人は、増仕切取引を実施した場合、売買仕切書には実際の販売価格ではなく増仕切価格を記載して本件各取引先に送付していたことからすれば、外形上、請求人と本件各取引先との間には、増仕切価格を前提とした合意が観念し得る。しかしながら、前記1の(3)のロのとおり、請求人は、販売委託を受けた問屋として、委託者である本件各取引先に対し、実際の販売価格を前提とすればよく(商法第552条《問屋の権利義務》第2項及び民法第646条《受任者による受取物の引渡し等》第1項)、請求人の判断であえて発生させた過大な負担(【集荷対策費】の支出)については、実質的にみて対価がない負担であるというべきである。
以上によれば、請求人には、【集荷対策費】を支出する義務は認められず、本件各取引先においても、【集荷対策費】の支出に対応する役務提供の義務はなく、役務提供の事実も認められないから、【集荷対策費】の支出は対価的意義を有する反対給付を受けることなく、本件各取引先に一方的に経済的利益を与えるものであって、資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に当たるものと認めるのが相当である。
(ロ) 【集荷対策費】は、それが客観的にみて法人の収益を生み出すのに必要な費用又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用であって、その費用としての性質が明白であり明確に区別し得るか否かについて
 上記(イ)のとおり、本件各希望価格は、本件各取引先の希望にすぎず、拘束力はないことに加え、本件各取引先は、個別具体的な取引における請求人による【集荷対策費】の負担を認識していなかったと認められることからすれば、本件各取引先は実際に本件各希望価格で成立した取引と請求人が【集荷対策費】を負担した取引とを区別できないはずである。そのような負担と本件各取引先によるその後の販売委託先の選定との間に明確な因果の関係が存在するということは、通常考え難いことといわざるを得ない。
 また、上記のように、個別具体的な取引における請求人による【集荷対策費】の負担を本件各取引先が認識しない中で、具体的に増仕切取引をどの程度実施し、具体的に【集荷対策費】をどの程度負担すれば、その後も打ち切られることなく販売委託を受け続けることができるのかを、明確かつ客親的に定めることは、ほとんど不可能であるか、極めて困難なことと考えられる。そして、上記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり請求人は増仕切取引の実施や【集荷対策費】の額について、特に明確な基準を設けていたわけではないし、決裁の際、請求人が行った具体的な検討内容も必ずしも明らかではなく、その判断に、その後も打ち切られることなく販売委託を受け続けることができるだけの明確かつ客観的、合理的な根拠があったことをうかがわせる事情もない。
 実際に、上記ロの(ヘ)のとおり、本件各取引先の窓口担当者である従業員も、原処分庁の調査において、増仕切取引に係る【集荷対策費】の負担の有無が取引の停止に関係しているか否かは不明である旨述べている。
 以上のほか、当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人が【集荷対策費】を支出したために、その後も本件各取引先から打ち切られることなく販売委託を受け続けることができたという明確な因果の関係を裏付ける客観的かつ具体的な事情は認めることができない。
 そうすると、【集荷対策費】は、客観的にみて法人の収益を生み出すのに必要な費用又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用(費用としての性質が明白であり明確に区別し得るもの)に当たるとまでは認められないというべきである。

うーん、おかしな判断をしているとまでは思わないのですが、少し厳しすぎる気はしますね。

まず、取締役の善管注意義務違反が問題となった事案に関するものではあるのですが、過去の裁判例(名古屋地裁平成13年10月25日判決)において、請求人と同じ名古屋の果卸売会社が「集荷対策費」(出荷対策費と同義であると思われます)を支出したことについて、「青果卸売会社を経営するには必要不可欠であり、仮にこれを行わないとすると、補助参加人を経営し、収益を上げることは事実上不可能である」などと判断されていますので、一般的に農協からの委託販売を継続するために青果卸売会社が「集荷対策費」を支出することが必要であることは、おそらく間違いがないのだと思います。

 青果物の卸売市場における実態としては、青果卸売業者は、農協や各県の経済連などの出荷者側から強い価格指示及び価格要請を受けるようになっており、これに逆らうと、その後、営業を継続していくことが著しく困難になるおそれがあることから、出荷者側から指示された価格と卸売価格とに差が生じた場合には、卸売業者は、その差損処理を余儀なくされている。
そこで、補助参加人は、集荷対策費という費目の支出をしているところ、これは、市場内におけるせり売り等において、卸売価格(商品の等級又は階級毎の価格)が出荷者の意に添わない金額で決まったときに、卸売をした後で、出荷者の要請等により、出荷者との取引の継続若しくは取引量の増大を図り利益を獲得するために、出荷者に支出する費用のことをいう。
この集荷対策費は、補助参加人に限らず、各卸売業者においても、名称は様々であるが同一目的での費用は支出されており、各卸売業者間では、出荷者からより多くのより良い品質の商品を集荷するためにしのぎを削っているところである。
 ≪中略≫
 本件において、被告らが、その行為が同規定に違反するものであることを認識していたことを認める証拠はないことから、同認識を欠いたことにつき、被告らに過失があったかどうか検討するところ、前記認定の事実、証拠(丙8の1ないし4、証人西、証人斎藤、被告元吉本人)及び弁論の全趣旨によると、集荷対策費の支出は、青果卸売会社を経営するには必要不可欠であり、仮にこれを行わないとすると、補助参加人を経営し、収益を上げることは事実上不可能であること、補助参加人のみならず、各地の同業他社も、名称は異なることがあっても、同様の支出を行っていたこと、補助参加人は、1年に1度、名古屋市により検査を受けていたが、この際、名古屋市からは、集荷対策費を支出している事実について把握されていたにもかかわらず、「支出の適正化に努めること。」などの勧告を受けるにとどまっていたことが認められる。
 ≪中略≫
 また、前記認定のとおり、集荷対策費は、近時の青果物取引をめぐる社会情勢の中で、青果物卸会社としてやむを得ざる支出であること、仮に、この支出を停止するとしたら、その後の青果物の集荷に著しい支障を来すことが明白であって、そのようなことをすることは株主の利益にも反するものであるといわざるを得ないこと、同業他社においても同趣旨の支出が行われており、補助参加人のみがその支出を停止することは実際問題として不可能であったこと、毎年行われていた名古屋市による検査において、集荷対策費の支出は把握されていたにもかかわらず、名古屋市は、その支出について直ちにこれを止めるように等の指導・勧告等は行っていないことが認められる。

そして、一般的に農協等からの委託販売を継続するために青果卸売会社が「集荷対策費」を支出することが必要であると認められるのであるとすれば、請求人が「集荷対策費」を支出したことについても、農協等からの委託販売を継続するために必要なことであったという推認が働くはずですので、反証がない限り、「通常の経済取引として是認することができる合理的な理由がある」と認めることもできたのではないかという気もします。

因みに、審判所は、寄附金に該当しないためには、「費用としての性質が明白であり明確に区別し得る」ことが必要であるという解釈を示した上で、「集荷対策費」の支出と委託販売の継続の「明確な因果の関係を裏付ける客観的かつ具体的な事情」が認められないから寄附金に該当するという判断をしているのですが、「費用としての性質が明白であり明確に区別し得る」ことが必要であるという解釈は、東京地裁平成29年1月19日判決で示されているくらいで、あまり一般的ではなく、どちらかというと、請求人が主張しているように「通常の経済取引として是認することができる合理的な理由がある」ことが必要であるという解釈の方が一般的なのではないかと思います。

「集荷対策費」というのは、厳密には違法な支出のようですので、そのような支出を損金として認めるべきではないという価値判断が働いてしまう可能性はありますし、同業者や農協等の協力を得ることも難しそうですので、訴訟でもなかなか厳しそうではあるのですが、争ってみる価値はあるように思いました。

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