公表裁決/証券会社の国債購入キャンペーンによるキャッシュバックを受けたことによる所得は「役務の対価としての性質」を有するか?
https://www.kfs.go.jp/service/JP/113/07/index.html?
証券会社が実施した国債購入キャンペーンにより現金を受領したことによる所得が「役務の対価としての性質を有しないもの」(所得税法34条1項)として一時所得に該当するのか、それとも、「役務の対価としての性質」を有するものとして雑所得に該当するのかが問題となった事案の公表裁決例です。
一般的に法人からの贈与は一時所得に該当すると理解されていて(所基通34‐1)、国債購入キャンペーンによるキャッシュバックも贈与の一種ですので、それを受けたことによる所得は一時所得に該当しそうにも思えるのですが、審判所は、以下のように雑所得に該当すると判断しました。
イ 法令解釈
一時所得は、一時的、偶発的な所得であり、類型的に担税力が低いと考えられることから、一時所得の金額の計算に当たっては、一時所得の特別控除額が控除され(所得税法第34条第2項)、総所得金額の計算に当たっては、所得金額の2分の1に相当する金額のみが総所得金額に算入される(同法第22条《課税標準》第2項第2号)という担税力に見合った特別な取扱いがされている。
所得税法が所得区分を設けて税額計算に差異を認めるのは、応能負担の原則を建前とするという同法の性格に由来するものと考えられる。そして、一時所得の特色が臨時的又は偶発的に発生する利得であるため、一般的には担税力が低いと考えられるというものであることからすれば、同法第34条第1項にいう労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質とは、給付が具体的又は特定的な役務行為に対応する等価の関係にある場合に限られるものではなく、広く給付が抽象的又は一般的な役務行為に密接に関連してされる場合を含むものと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
本件キャンペーンは、本件証券会社が個人向け国債の10年債あるいは5年債を購入した者に対して、その購入額の多寡に応じて、一定の要件を満たす者に現金をプレゼントするというもの(上記1の(3)のイの(イ))であるから、本件収入は、偶発的に発生したものではなく、請求人が、一定の期間に個人向け国債を購入し、本件キャンペーンの景品として交付される金員が入金されるまで本件証券会社に開設した口座を維持することなど、本件キャンペーンが適用される要件を満たした結果、交付されたものである。
そうすると、本件収入と上記の行為は密接に関連していると認めるのが相当であり、本件収入は、役務の対価としての性質を有するものと認められる。
したがって、本件収入に係る所得は、所得税法第34条第1項に規定する「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」には該当しないから、本件収入に係る所得は一時所得に該当せず、また、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得のいずれにも該当しないから雑所得に該当する。
この問題については、平成21年に東京国税局が証券会社からの事前照会に対して「雑所得に該当する」という回答を出していましたので、上記の判断というのは、その回答を追認したものに過ぎないのですが、個人的には疑問があるところです。
「本件収入と上記の行為は密接に関連している」というのはその通りなのでしょうが、「上記の行為」というのは国債の購入のことですので、それが請求人から証券会社に対する「役務」の提供に該当すると言えなければ、本件収入が「役務の対価としての性質を有する」という結論にはならないはずです。
そして、一般的には、証券会社から国債を購入する行為が、証券会社に対する役務の提供とは理解できないですよね。
少し事案は異なりますが、通信回線販売取次業者である請求人が、インターネットサービスの利用申込みをした顧客に対してキャッシュバックとして支払った金員を課税仕入れに係る支払対価の額に含めることができるかどうかが争われた事案に関する以下の裁決では、請求人が顧客から役務の提供を受けているとは認められないと判断されています。
所得税法34条1項の「役務」と消費税法2条1項8号の「役務」は違うということもあり得るのでしょうが、そうであるとしても、国債の購入が「役務」という理解に違和感は拭えません。
あと、「ふるさと納税」の返礼品を受けたことによる所得が一時所得とされていることとの整合性も気になるところです。
上記のような理屈で証券会社からキャッシュバックを受けたことによる所得が雑所得になるのであれば、「ふるさと納税」の返戻品を受けたことによる所得も、偶発的に発生したものではなく、一定の金額以上の寄付をするという行為と密接に関連して発生するものですので、雑所得になるのではないかと思われます。
両者を別異に解すべき合理的な理由があるとも思えません。
という訳で、あまり納得感のある裁決ではなくて、訴訟で争ってみても面白そうなのですが、金額的に訴訟にはなりにくそうなのが残念なところです。
(追記)
最近の裁判例(令和2年11月6日)では、「一時の所得」(所得税法34条1項)とは、一時的、偶発的に生じた所得をいい、偶発的に生じたものでない所得は、たとえ利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得で、営利を目的とする継続的行為から生じた所得ではなく、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであっても、一時所得に該当しないという判断が示されました。
そのような理解によれば、証券会社からキャッシュバックを受けたことによる所得は、役務の対価としての性質を有しないものであっても、一時所得には該当しないということになり、結論としては変わらないということになりますが、裁決(特に公表裁決)については、結論が変わらなければ良いという訳ではないのではないかという気はします。