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非公表裁決/会員の所有する家財に対する共済掛金の負担等は「特定の個人」に対する「特別の利益」か?

一般社団法人である請求人が法人税法2条9号の2の「非営利型法人」に該当するかが争われた裁決例をご紹介します。

更正処分については新聞で報道されていたようですし、裁決については今年の4月頃の税務通信でも紹介されていましたので、ご存じの方も多いかもしれませんね。

非営利型法人には、非営利徹底型(法人税法施行令3条1項)と共益型(同条2項)の2つの類型があり、共益型の非営利型法人に該当するためには、「特定の個人又は団体に剰余金の分配その他の方法(合併による資産の移転を含む。)により特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがないこと」が要件とされているのですが、請求人がこの要件に該当するのかが問題となりました。

具体的には、請求人が、a)会員等が所有する家財に対する共済掛金を負担したこと、b)会員等のうち70歳以上の者に対して敬老祝金を交付したこと、c)会員等に対して温泉旅館等の宿泊利用権を交付したことが、「特定の個人」に「特別の利益」を与えたことになるか否かということです。

この点について、審判所は、以下のように判断しました。

請求人は・・・一定の条件の下に①平成24年4月から平成26年3月までは、本件会員等が所有する家財に対する共済掛金(一人当たり約1,100円)を負担し、②平成26年4月から平成29年3月までは、請求人の社員である本件会員及びその家族が所有する家財に対する建物更生共済掛金並びに本件地区民が所有する家財に対する火災共済掛金(本件会員一人当たり約20,500円、本件地区民一人当たり約2,400円)を負担している。これらの請求人の負担は、請求人が特定した一定の条件に該当する本件会員等に対するものであるから、「特定の個人」に対するものと認められる。また、本件家財等共済掛金の負担は、本来であれば家財を所有する者等が負担すべき共済掛金を請求人が代わりに負担することによって経済的利益を供与するものと認められる。そして、このような経済的利益の供与の対象及び態様並びに供与される金額等に照らすと、本件家財等共済掛金の負担は、社会通念上相当なものとは認められず、「特別の利益」を与えるものと認められる。
請求人は・・・・本件敬老祝金として、「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」に掲げる条件に該当する①70歳以上の請求人の社員である本件会員及びその親族に対して毎年3万円並びに②70歳以上の一定の本件地区区民に対して毎年1万円を交付している。これらの請求人の金銭の交付は、請求人が設定した一定の条件に該当する本件会員等に対するものであるから、「特定の個人」に対するものと認められる。また、本件敬老祝金の交付は、毎年3万円又は1万円の金銭を直接交付するというもので、金銭その他の資産の交付をするものと認められる。そして、このような金銭その他の資産の交付の対象及び態様並びに交付される金額等に照らすと、本件敬老祝金の交付は、社会通念上相当なものとは認められず、「特別の利益」を与えるものと認められる。
請求人は・・・本件会員の各世帯及び「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」に掲げる一定の条件に該当する本件地区民の各世帯に対して本件利用券を交付しており、本件利用権が利用された場合、各温泉旅館等に対して本件利用権1枚当たり9,000円(年間最大45,000円)を負担している。これらの請求人の負担は、請求人の社員である本件会員及び請求人が設定した一定の条件に該当する本件地区民に対するものであるから、「特定の個人」に対するものであると認められる。また、本件利用権の利用に基づく負担は、本来であれば、各温泉旅館等を利用した者等が負担すべき利用料を請求人が代わりに負担することによって、経済的利益を供与するものと認められる。そして、このような経済的利益の供与の対象及び態様並びに供与される金額等に照らすと、本件利用券の利用に基づく負担は、社会通念上相当なものとは認められず、「特別の利益」を与えるものと認められる。

うーん、どうでしょう?

「本件会員等」が「特定の個人」であるという判断については、確かに、請求人の会員となるには、一定の地域に一定期間住戸を構えるなどの条件を満たすことが必要とされていて、誰でも会員になれる訳ではなかったようですので、不特定ではない個人=「特定の個人」という判断にも一理あるとは思うのですが、税法上の「特定の」というのはもう少し限定する意味で用いられているような気がするのですよね。

例えば、相続税法施行令2条は以下のように規定していますが、同条2号の「特定の者」というのは、単に不特定ではないという意味ではなくて、もう少し限定する意味のはずです(単に不特定でないという意味だとすると、社員総会の決議によって事業が運営されている場合でも「特定の者」の意思に従って事業の運営がなされていることになってしまいます。)。

法第12条第1項第三号に規定する宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者は、専ら社会福祉法第2条(定義)に規定する社会福祉事業、更生保護事業法第2条第1項(定義)に規定する更生保護事業、児童福祉法第6条の3第9項(定義)に規定する家庭的保育事業、同条第10項に規定する小規模保育事業又は同条第12項に規定する事業所内保育事業、学校教育法第1条(学校の範囲)に規定する学校又は就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律第2条第6項(定義)に規定する認定こども園を設置し、運営する事業その他の宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業で、その事業活動により文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するところが著しいと認められるものを行う者とする。ただし、その者が個人である場合には第1号に掲げる事実、その者が法第六十六条第一項に規定する人格のない社団又は財団(以下この条において「社団等」という。)である場合には第2号及び第3号に掲げる事実がない場合に限る。
一 その者若しくはその親族その他その者と法第64条第1項に規定する特別の関係(以下この条において「特別関係」という。)がある者又は当該財産の相続に係る被相続人若しくは当該財産の遺贈をした者若しくはこれらの者の親族その他これらの者と特別関係がある者に対してその事業に係る施設の利用、余裕金の運用、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給その他財産の運用及び事業の運営に関し特別の利益を与えること。
二 当該社団等の役員その他の機関の構成、その選任方法その他当該社団等の事業の運営の基礎となる重要事項について、その事業の運営が特定の者又はその親族その他その特定の者と特別関係がある者の意思に従つてなされていると認められる事実があること。
≪以下略≫

そして、平成20年度版の「税制改正のすべて」には、「特定の個人又は団体に剰余金の分配その他の方法(合併による資産の移転を含む。)により特別の利益を与えることを決定し、又は与えたことがないこと」という要件に関して、「特定の者に対する権利付与を制限するものであり、会員に対して共通する利益を受ける権利を与えることを制限する趣旨ではありません。」と記載されていますので、立法時においても、会員に対するものが「特定の個人」に対するものであるという理解はされていなかったのではないかと思います。

また、①会員等が所有する家財に対する共済掛金を負担したこと、②会員等のうち70歳以上の者に対して敬老祝金を交付したこと、③会員等に対して温泉旅館等の宿泊利用権を交付したことが、それぞれ「特別の利益」に該当するという判断にも違和感がありますね。

特に、一人当たり約1,100円の共済掛金の負担が社会通念上不相当なものであると判断している点については疑問を感じざるを得ません。

法令が単に「利益」と規定せずに「特別の利益」と規定したのは、一定程度の利益の許与については許容しようとした趣旨であったはずですから、僅かばかりの「利益」が与えられたことをもって「特別の利益」が与えられたということになるとは思えないのですよね。

訴訟が提起されていたら面白そうな気はするのですがどうでしょうか。

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