英国ケイマン諸島(ケイマン)の特例有限責任パートナーシップ(本件LPS)の無限責任パートナーであった請求人による本件LPSの資産の管理業務の提供(本件役務提供)が、「居住者」(消費税法施行令1条2項1号)に対する役務提供に該当するかが争われた事案の裁決です。
本件役務提供が国内で行われていたことに争いはありませんので、それが「居住者」に対するものであるとすると課税取引として消費税が課税されることになるのに対して、「非居住者」に対するものであるとすると免税取引として消費税が課されないことになるということです。
なお、消費税法施行令上の「居住者」が、外国為替及び外国貿易法(外為法)上の「居住者」をいうとされている点は留意が必要です。
この裁決については、昨年11月の森・浜田松本法律事務所の「TAX LAW NEWSLETTER」でも紹介されていましたので、ご存じの方も多いかもしれませんね。事案の概要もそちらに分かりやすく記載されていますのでここでは省略させて頂きます。
請求人は、本件役務提供は法律上の権利と権限を有する本件LPSに対して提供されたものであるから「非居住者」に対する役務提供に該当するなどと主張したのですが、審判所は、以下のように、本件役務提供は「居住者」に対する役務提供であると判断しました。
うーん、本件役務提供が本件有限責任パートナーに対するものであるという判断はその通りだと思うのですが、本件有限責任パートナーが「本邦内に住所又は居所を有する自然人」であることから、当然に本件役務提供が「居住者」に対するものであるという判断は、外為法上の「居住者」「非居住者」の特殊性を十分に考慮できていない気はしますね。
というのも、大阪高裁昭和37年3月20日判決では、以下のように、居住者である自然人の外国にある支店、出張所その他の事業所も、外為法上は「非居住者」とみなされると判断がされていて、その判断は、最高裁昭和37年11月1日決定でも正当であると是認されていますので、「本邦内に住所又は居所を有する自然人」に対する役務提供であったとしても、当然に「居住者」に対する役務提供になる訳ではなく、それが外国にある事業所に対する役務提供である場合には「非居住者」に対する役務提供になるはずだからです。
まぁ、実際には、ケイマンに本件LPSの事業所があるという訳ではないのでしょうが、そうであるとしても、その点の判断はすべきであったのではないかと思います。
また、審判所は「本件LPSは外為法上は法人等として非居住者に該当し、実際に外為法上の実務では、ケイマンで設立されたLPSが非居住者に該当することを前提とした法定の報告が行われている」という請求人の主張に対して、「本件LPSが外為法上の法人に含まれるか否かについて判断をするまでもなく、この点についての請求人の主張には理由がない」とあっさりと排斥しているのですが、これも少し乱暴な気がします。
なぜなら、ここでの請求人の主張の主眼は、本件LPSが外為法上の法人に含まれるかどうかではなく、本件LPSが外為法上の「非居住者」として取り扱われているということであって、それは海外で組成されたLPSが海外にある事業所と同じように外為法上の「非居住者」として取り扱われているという意味であるようにも思われるからです。
私自身は外為法に関する知見がないので何とも言えないのですが、もし、本当にそのような取扱いがなされているとすれば、結論が変わってもおかしくないのではないですかね。
という訳で、この裁決の判断には少し疑問をもっているのですが、それは兎も角として、消費税法上、同一人に対する役務提供が「居住者」に対する役務提供になることも「非居住者」に対する役務提供になることもあるということは覚えておいてよいのではないかと思います。