非公表裁決/国外の取引先に対する商品の引渡しがなされたのは商品の現実の引渡し時ではなく代金の支払時か?
国外の取引先に対する商品(腕時計)の販売が「輸出として行われる資産の譲渡」(消費税法7条1項1号)に該当するかが問題となった裁決例です。
具体的には、以下のような商品(腕時計)の販売取引が、取引先に商品(腕時計)が引き渡された後に取引先が当該商品を国外に送り出す取引であるのか、それとも、請求人が商品(腕時計)を本邦から国外に送り出した後に取引先に商品(腕時計)が引き渡される取引であるのかが問題となりました。後者であるとすれば「輸出として行われる資産の譲渡」(=免税取引)となるのに対して、前者であるとすると課税取引となるということですね。
①香港の各取引先の販売担当者(本件各販売担当者)が日本国内にある請求人の事務所(本件事務所)で請求人の代表者と商談する。
②本件各販売担当者が本件事務所で請求人の代表者に購入した商品(腕時計)の代金を支払う。
③請求人の代表者が販売した商品(腕時計)を空港まで運んで通関業者に預け、通関業者から預り証を受領する。
④請求人の代表者が輸出申告書を税関に提出して輸出の許可を受け、税関から受領した輸出許可証を通関業者に預ける。
⑤請求人の代表者が預り証を販売担当者に手渡す。
⑥販売担当者が税関出国カウンターで税関職員に預り証を提示して腕時計を受領する。
取引先が商品(腕時計)の現実の引渡しを受けるのは税関の出国カウンターであって、その前に請求人が輸出申告書を税関に提出して輸出の許可は受けていることからすると、「輸出として行われる資産の譲渡」に該当すると認められてもよさそうにも思えるのですが、審判所は、以下のように、「輸出として行われる資産の譲渡」には該当しないという判断しました。
本件各取引においては、本件各販売先、■■■■■及び請求人の三者間で、売買の目的物及びその売買代金額について、本件各商談前に交渉・調整が行われ、本件各商談の際に、■■■が本件各商品を持参し、本件各販売担当者がこれを検品した上で購入を決定しており、これにより本件各商談の際に本件各販売先に対する本件各商品の売買契約が成立していたものと認められる。
また、本件各商品の代金額は、上記イの(イ)のFのとおり、本件各販売担当者が購入を決定した場合、追加購入がない場合はその場で販売価額に相当する現金の受渡しが行われ、追加購入が決まった場合でも本件各商談後1週間以内に現金の授受が行われて代金の決済がされことも認められる。
さらに、請求人及び本件各販売先との間で、本件各商品の引渡しに関する特段の合意があるとは認められないことからすれば、本件各商品の売買契約において、売買代金の決済時に、本件各商品の本件各販売先への引渡しが完了していたものと認められる。
したがって、本件各取引は、本邦内で行われ、その引渡しがされた後に買主である本件各販売先担当者が本件各商品を本邦から国外に送り出していると認められることから、請求人が消費税法第7条第1項第1号に規定する「本邦からの輸出として行われる資産の譲渡」を行ったものではないと認められる。
うーん、この判断には疑問が残りますね。
商品が現実に引き渡されていないけれど、当事者間で商品の引渡しに関する特段の合意がないから、代金の支払時に商品の引渡しが完了していると認められるという判断をしている訳ですが、そのような認定をすることはできるのでしょうか?
代金の支払いが商品の引渡しに先行するということは特に珍しいことではありませんので、代金の支払いがなされていることだけで商品の引渡しが完了しているという認定はできないように思われます。
また、民法では、①現実の引渡し、②簡易の引渡し、③指図による占有移転、④占有改定の4つの引渡しの方法が定められているのですが、②や③は場面が異なりますし、①に該当しないことは明らかですので、④に該当すると認められなければならないはずなのですが、そのためには当事者間で商品の引渡しに関する特段の合意がなければならないようにも思われます。
つまり、商品が現実に引き渡されていなくて、当事者間で商品の引渡しに関する特段の合意がなかったのであれば、逆に、商品の引渡しは完了していないという認定になるのではないかということです。
因みに、ロシア人向けの中古自動車の販売取引について、現実の引渡しは船舶への船積みによって行われていたにもかかわらず、売買代金の支払時に引渡しがなされていたとものと認定して「輸出として行われる資産の譲渡」に該当しないという判断をした裁判例(東京地裁平成18年11月9日)もあって、この裁決もその裁判例の判断に倣ったということかもしれません。
ただ、この裁判例は、輸出の申告が買主であるロシア人名義でなされていたといった事情がありましたので、本件で同じような判断ができるとは限らない訳ですし、まして、そのような事情を考慮することなく、代金の支払いが完了しているから引渡しが完了しているという判断は、流石に乱暴に過ぎるような気がします。
あと、実務的には、“EXW(工場渡し)”であっても、引渡し後に当該商品が外国に輸出されることが確定しており、かつ、売主が輸出申告等を行っているような場合には、「輸出として行われる資産の譲渡等」と認められているようです(ニュースPRO・3579号)ので、そのような取扱いとの関係でも、本件について「輸出として行われる資産の譲渡等」と認めないというのはバランスを欠いているようにも思えます。
いずれにせよ、国外の取引先に対する販売が「輸出として行われる資産の譲渡」に該当するかどうかについては、微妙なケースもありますので注意が必要ですね。
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