非公表裁決/自社製品を原材料に使用する他社製品の開発を行うための費用が「試験研究費」に該当するか?
自社製品を原材料に使用した場合の他社製品の軽量化等の検討の費用が「試験研究費」(製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用)に該当するかどうかが争われた事案の裁決です。
なお、この裁決では、検査機器が「機械及び装置」と「器具及び備品」のいずれに該当するのかについても争われていて、それも面白そうだったのですが、ここでは「試験研究費」に該当するかどうかという争点についてだけ取り上げることにします。
請求人は、自社の樹脂製品を他社(本件企業)に販売するために、CAE技術(コンピュータ支援による工業解析技術)を活用して、「本件企業」の製品の原材料に自社の樹脂製品を使用した場合の解析モデルを作成し、製品設計、材料選定、金型設計及び生産条件のシミュレーションをすることによって、「本件企業」の製品の軽量化や強度の剛性の向上等の検討(本件事前検討)をしていたところ、そのような「本件事前検討」に要した費用(本件費用)が「試験研究費」に該当するかが問題となりました。
原処分庁は、本件事前検討は、請求人の既存の製品の利用提案のためのものに過ぎず、請求人の製品の開発に結び付くものではないから、「本件費用」は「試験研究費」には該当しないと判断したようです。
それに対して、請求人は、「本件費用」は「本件企業」の新たな製品開発とその製造技術を考案するための費用であるから「試験研究費」に該当すると主張したのですが、審判所は、以下のように「試験研究費」には該当しないという判断をしました。
(イ) 本件税額控除の適用対象となる費用は、上記1の(2)のハの(ハ)から(ヘ)までのとおり、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する原材料費、人件費、経股及び当該試験研究の委託のために受託者に支払う費用等である。これを本件についてみると、本件費用は、上記イの(イ)のとおり、本件事業を行うために要する人件費、経費及び受託者に支払う費用であることから、本件税額控除の適用対象となるためには、本件事業が、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究に該当する必要がある。
この点、本件事前検討の前提である本件樹脂製品は、上記1の(3)のハの(ハ)のとおり、新たに開発されたものではなく、請求人の既存の汎用品であること、また、本件事前検討は、上記イの(n)のとおり、他社である本件企業の製品につき、本件樹脂製品の使用を前提とした場合に軽量化等の品質向上が図れるかどうかをCAE技術により検討するものであることからすると、本件事前検討に基づき実施されている本件事業が、新たな製品開発や請求人自身の分析技術等の開発等に係る試験研究にどのように結びつくのかは、判然としない。そうすると、本件事業において、本件樹脂製品や本件企業の製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究がなされているとは直ちに認めることはできない。
(ロ) さらに、この点について検討を加えると、上記1の(3)のハの(イ)及び(ロ)のとおり、①■■■■は、本件企業からの依頼に某づいて本件事業を行っていること、②本件事業において、■■■■は本件樹脂製品の新しい用途の提案を本件企業に対して行っていること、③■■■■は、本件事前検討の結果についての報告書を提供するにもかかわらず、提供先の本件企業からその対価を受領せず無償で本件事業を行っていることに加え、上記イの(ハ)の請求人の従業員の申述を踏まえると、④本件事業における■■■■の活動によって、本件樹脂製品が本件企業の製品の原材料に採用されれば、本件樹脂製品の収益増加を見込むことができること等の事実が認められ、これらに鑑みれば、本件事業は、むしろ、本件企業が製造する製品に、本件樹脂製品が利用可能であることを提案することで、本件樹脂製品の販売を促進するためのサービス提供を行う事業と解するのが相当である。
(ハ)以上のとおり、本件費用は、本件樹脂製品の販売促進を目的として、請求人が無償で行うサービス提供を行うために要する費用にすぎないと考えられ、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用とは認められないから、本件費用は、本件規定に規定する試験研究費には該当しない。
うーん、あまり説得的な判断とは思えないですね。
まず、「本件事前検討に基づき実施されている本件事業が、新たな製品開発や請求人自身の分析技術等の開発等に係る試験研究にどのように結びつくのかは、判然としない。そうすると、本件事業において、本件樹脂製品や本件企業の製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究がなされているとは直ちに認めることはできない。」とか、「本件費用は、本件樹脂製品の販売促進を目的として、請求人が無償で行うサービス提供を行うために要する費用にすぎないと考えられ、製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用とは認められない」という判断をしていることからすると、この裁決は、「製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究」は、自社の製品開発や自社の技術(自社で使用する技術)開発に結びつくような企業活動に限定されるという解釈を前提としているように思われるのですが、そのように限定的な解釈をすることには疑問があります。
条文の文言上は、そのような限定は付されていませんし、研究開発税制の趣旨との関係でも、自社製品の販促活動の一環として、自社製品を使用した他社製品の開発を行うための費用を「試験研究費」から除外すべき積極的な理由はないように思えるからです。
また、そのような解釈を前提として判断をしているのであれば、それを「法令解釈」として示すべきであるはずなのですが、この裁決ではそれが示されていません。
形式的なことだと思われるかもしれませんが、あてはめの前提となる法令解釈が示されなければ、審判所の判断の過程を理解して検証をすることも難しくなってしまいますので、審査請求制度の趣旨にも反することになるのではないかと思います。
なお、審判所としては、「製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究」が、自社の製品開発や自社の技術(自社で使用する技術)開発に結びつくような企業活動に限定されるという解釈を前提としたつもりはなかった可能性もあるのですが、仮にそのような解釈を前提としないとすると、「本件事前検討に基づき実施されている本件事業が、新たな製品開発や請求人自身の分析技術等の開発等に係る試験研究にどのように結びつくのかは、判然としない。」という認定から、「本件事業において、本件樹脂製品や本件企業の製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究がなされているとは直ちに認めることはできない。」という判断には繋がらないはずですし、「本件費用は、本件樹脂製品の販売促進を目的として、請求人が無償で行うサービス提供を行うために要する費用にすぎない」としても、「製品の製造又は技術の改良、考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用とは認められない」と判断することはできないはずですので、寧ろ、論理的ではない判断をしていることになると思います。
いずれにせよ、「試験研究費」の範囲については殆ど裁判例もありませんので、是非とも訴訟で判断をしてもらいたい事案ですね。