非公表裁決/社会福祉法人が生産活動に従事する者に支払った工賃が課税仕入れに係る支払対価に該当するか?
社会福祉法人である請求人が障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)に基づく障害福祉サービスを利用して生産活動に従事する者に支払った工賃が、「課税仕入れ」(消費税法2条1項12号)に係る対価に該当するかが争われた事案の裁決です。
少し前に読売新聞の記事にもなっていましたので、ご存じの方も多いかもしれません。
具体的に争われたのは、社会福祉法人が生産活動に従事する者に支払った工賃が生産活動の従事の対価であるのか、福祉サービスの一環として利用者に分配されたものに過ぎないのかという点です。
工賃が生産活動の従事の対価であるとすれば、「給与等」に該当しない限り「課税仕入れ」に係る支払対価に該当することになるのに対して、福祉サービスの一環として利用者に分配されたものに過ぎないとすると、「課税仕入れ」に係る支払対価に該当する余地がなくなってしまうということですね。
この点について、審判所は、以下のように生産活動に従事する障害者に支払った工賃は、障害者に対する給付に過ぎないと判断しました。なお、裁決では、「生活介護」、「就労継続支援B型」、「就労移行支援」という障害福祉サービスの種類ごとに判断をしているのですが、基本的には同じような判断をしていますので、「就労移行支援」に関する判断だけを紹介します。
うーん、この判断だけを見ると、そういう判断もあり得るのかなという印象を受けるのですが、過去の裁判例で消費税法上の「対価」の意義が広く解釈されていることとの関係では違和感がありますね。
というのも、例えば、弁護士会が法律相談センターにおいて事件を受任するなどした弁護士から収受した受任事件負担金等が課税資産の譲渡等の対価に該当するかが争われた事案の裁判例(東京高裁平成26年6月25日判決等)では、以下のように、収受される経済的利益が資産の譲渡等の「対価」に該当するためには、具体的な役務提供があることを条件として、当該経済的利益が収受されるという関係(対応関係)があれば足りるという判断がされており、そのように経済的利益と具体的な役務提供の対応関係があれば足りるとすれば、本件においても、障害者に支払われる工賃は、障害者が生産活動に従事したことの対価であるということになりそうだからです。
審判所も、課税庁に都合のよい裁判例は殆ど無条件で受け入れるのに、都合の悪い裁判例は無視して判断する傾向がありますよね。
なお、この工賃が生産活動に従事したことの対価に該当するとしても「給与等」に該当してしまうので、結局、課税仕入れの対価には該当しないことになってしまうのではないかとも思ったのですが、課税実務上の取扱いとしては、社会福祉法人が生産活動に従事する者に支払った工賃は「給与所得」ではなく「雑所得」として取り扱われているようですので、そこは争点となりにくいのかもしれません。
上記の読売新聞の記事によると、課税処分の取消訴訟で、国側は第2回期日にも具体的な主張をしなかったということですが、これはかなり異例のことですので、国側も主張に苦労しているということではないかと思います。