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非公表裁決/社会福祉法人が生産活動に従事する者に支払った工賃が課税仕入れに係る支払対価に該当するか?

社会福祉法人である請求人が障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)に基づく障害福祉サービスを利用して生産活動に従事する者に支払った工賃が、「課税仕入れ」(消費税法2条1項12号)に係る対価に該当するかが争われた事案の裁決です。

少し前に読売新聞の記事にもなっていましたので、ご存じの方も多いかもしれません。

具体的に争われたのは、社会福祉法人が生産活動に従事する者に支払った工賃が生産活動の従事の対価であるのか、福祉サービスの一環として利用者に分配されたものに過ぎないのかという点です。

工賃が生産活動の従事の対価であるとすれば、「給与等」に該当しない限り「課税仕入れ」に係る支払対価に該当することになるのに対して、福祉サービスの一環として利用者に分配されたものに過ぎないとすると、「課税仕入れ」に係る支払対価に該当する余地がなくなってしまうということですね。

この点について、審判所は、以下のように生産活動に従事する障害者に支払った工賃は、障害者に対する給付に過ぎないと判断しました。なお、裁決では、「生活介護」、「就労継続支援B型」、「就労移行支援」という障害福祉サービスの種類ごとに判断をしているのですが、基本的には同じような判断をしていますので、「就労移行支援」に関する判断だけを紹介します。

ハ 本件就労移行支援の利用者に対するエ賃について上記イと同様に、本件就労移行支援に関しても、上記1の(3)のロないしニのとおり、請求人は、本件各事業所において、利用者に対する適切なサービスを提供することを目的として本件各運営規程を定めるとともに、利用者との間で本件各利用契約を締結して、本件各利用契約に基づき、生産活動の機会の提供を含む障害福祉サービスを利用者に提供し、本件各利用契約上、利用者は、生産活動の桟ピ会の提供を含む一連の障害福祉サービスに対して利用料を支払うこととされていた。また、上記1の(2)のロ、同(3)のイ及び別紙の3の(2)のとおり、本件就労移行支援の利用者は、企業等での就労を希望する65歳未満の障害者であって、通常の事業所に雇用されることが可能と見込まれる者である。しかし、別紙の3の(1)及び(2)のとおり、本件就労移行支援が、その利用者を通常の事業所での就労に移行させることを前提に、限られた期間に訓練や求職活動等の支援を行うものであって、上記(2)の口のとおり、生産活動に当たって雇用契約等の契約は締結されず、したがって、雇用契約等の締結に伴う労働時間等の縛りはなく、むしろ、別紙の4の(3)のとおり、指定就労移行支援事業を行う者である請求人には、法令上、生産活動に従事する利用者の作業時間や作業量に対する配慮義務が課されていた。さらに、上記イと同様に、上記1の(3)のロ及びハのとおり、本件各運営規程及び本件各利用契約上、本件就労移行支援の利用者で生産活動に従事した者に支払われる工賃は、飽くまで生産活動に係る事業の収入から事業に必要な経費を控除した額に相当する額とされていた上、上記(2)のイの(ロ)のとおり、生産活動に従事した本件就労移行支援の利用者に支払われる工賃の額は、作業時間や作業量に比例せず、基本的に一律定額であって、作業能力等による差異も設けられていなかったことが認められる。これらの事実関係に加え、上記1の(2)のロ、同(3)及び別紙の3の(2)のとおり、本件就労移行支援が、生産活動の機会の提供を通じて、就労に必要な知識や能力を向上させて就労につなげ、ひいては利用者が自立した日常生活又は社会生活を営むことを目的に行われる障害福祉サービスであることを併せて考えると、本件就労移行支援における生産活動の従事者への工賃の支払は、生産活動の機会の提供と併せて、上記の福祉目的を実現するために、請求人が本件就労移行支援という障害福祉サービスの一環として行ったものと認めるのが相当であるから、本件就労移行支援の利用者に対する工賃は、当該利用者が役務の提供を行ったことに対する反対給付(対価)であるとは認められない。

うーん、この判断だけを見ると、そういう判断もあり得るのかなという印象を受けるのですが、過去の裁判例で消費税法上の「対価」の意義が広く解釈されていることとの関係では違和感がありますね。

というのも、例えば、弁護士会が法律相談センターにおいて事件を受任するなどした弁護士から収受した受任事件負担金等が課税資産の譲渡等の対価に該当するかが争われた事案の裁判例(東京高裁平成26年6月25日判決等)では、以下のように、収受される経済的利益が資産の譲渡等の「対価」に該当するためには、具体的な役務提供があることを条件として、当該経済的利益が収受されるという関係(対応関係)があれば足りるという判断がされており、そのように経済的利益と具体的な役務提供の対応関係があれば足りるとすれば、本件においても、障害者に支払われる工賃は、障害者が生産活動に従事したことの対価であるということになりそうだからです。

消費税は広く薄く課税対象を設定し、最終的に消費者への転嫁が予定されている税である。このため、事業者が収受する経済的利益が消費税の課税要件としての資産の譲渡等における「対価」に該当するといえるためには、事業者が収受する経済的利益と事業者が行った当該個別具体的な役務提供との間に、少なくとも対応関係があることが必要である。換言すると、当該個別具体的な役務提供があることを条件として当該経済的利益が収受されるといい得る対応関係があることが必要であるが、それ以上の要件は要求されていないものと解するのが相当である。

審判所も、課税庁に都合のよい裁判例は殆ど無条件で受け入れるのに、都合の悪い裁判例は無視して判断する傾向がありますよね。

なお、この工賃が生産活動に従事したことの対価に該当するとしても「給与等」に該当してしまうので、結局、課税仕入れの対価には該当しないことになってしまうのではないかとも思ったのですが、課税実務上の取扱いとしては、社会福祉法人が生産活動に従事する者に支払った工賃は「給与所得」ではなく「雑所得」として取り扱われているようですので、そこは争点となりにくいのかもしれません。

上記の読売新聞の記事によると、課税処分の取消訴訟で、国側は第2回期日にも具体的な主張をしなかったということですが、これはかなり異例のことですので、国側も主張に苦労しているということではないかと思います。

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