会社役員である請求人が行っていた建築用の足場資材、クラシックカー及びLED照明の賃貸業務が事業所得を生ずべき「事業」に該当するか、雑所得を生ずべき「業務」に該当するかが争われた事案の裁決です。
令和4年の税制改正で、主要な業務でない貸付け用の資産については、少額減価償却資産や一括償却資産の対象にならないこととなりましたが、それ以前においては、建築用の足場資材やLED照明については、少額減価償却資産又は一括償却資産として減価償却が可能でしたし、クラシックカーについては、法定耐用年数が経過した中古の減価償却資産として、定率法であれば1年で償却が可能となりますので、請求人としては、それらの賃貸業務を行うことで利益の繰延べをしようとしたということですね。
ところが、それらの貸付業務が、事業所得を生ずべき「事業」ではなく、雑所得を生ずべき「業務」であるとすると、それらの貸付業務から生じた損失を他の所得(本件では会社役員としての給与所得)と通算することができなくなり、利益を繰り延べることができなくなってしまうことから、事業所得を生ずべき「事業」に該当するか、雑所得を生ずべき「業務」に該当するかが争われたということです。
わざわざ法改正をして対応をしたくらいですので、この手の「節税スキーム」は広く行われていたはずですが、あまり否認されたという話は聞いたことがなかったので、実務的に「事業」として取り扱われることも多かったのではないかと思うのですが、審判所は、建築用の足場資材の賃貸業務、クラシックカーの賃貸業務、LED照明の賃貸業務のいずれについても、事業所得を生ずべき「事業」ではなく、雑所得を生ずべき「業務」であると判断しました。
法令解釈はいつものやつですから省略をして、当てはめについても似たような判断をしていますので、LED照明の賃貸業務に関するものだけご紹介します。
まぁ、実質的にお金を出しているだけでしょということなのですかね。結論ありきで判断している感もありますが、この事案であれば、裁判所でも同じような判断がされるのではないかと思います。
なお、この裁決で面白かったのは、令和4年に改正された所得税基本通達35-2の注書きとの関係について、以下のように判断されているところです。通達の改正前の事案なのですが、改正が「雑所得の範囲について、明確化を図るため」のもので、確認的なものに過ぎないという位置づけなので、改正前の事案だから関係ないという訳にはいかなかったのでしょうね。
改正後の通達の解説で、以下のような図が示されたりしたこともあって、一部では、帳簿書類の保存がある場合には、その所得の収入金額が僅少である場合や、その所得を得る活動に営利性が認められない場合でない限り、事業所得になるという理解もされたようですが、そんなことはないということですね。
当然といえば当然のことだと思うのですが、そうであるとすれば、上記の通達の解説の「概ね事業所得」という記載は、誤解を与えるだけなのではないかという気はします。
という訳で、お金を出して後は業者にお任せといった類型の利益の繰延べスキームについては、所得税基本通達35-2の改正の前後に関わらず、「事業」と認められない可能性が高いということになりますので、改めて怪しげなコンサルの提案する節税スキームには注意が必要ということになるかと思います。