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非公表裁決/足場資材、車両及びLED照明の賃貸業務が「事業」に該当するか?

会社役員である請求人が行っていた建築用の足場資材、クラシックカー及びLED照明の賃貸業務が事業所得を生ずべき「事業」に該当するか、雑所得を生ずべき「業務」に該当するかが争われた事案の裁決です。

令和4年の税制改正で、主要な業務でない貸付け用の資産については、少額減価償却資産や一括償却資産の対象にならないこととなりましたが、それ以前においては、建築用の足場資材やLED照明については、少額減価償却資産又は一括償却資産として減価償却が可能でしたし、クラシックカーについては、法定耐用年数が経過した中古の減価償却資産として、定率法であれば1年で償却が可能となりますので、請求人としては、それらの賃貸業務を行うことで利益の繰延べをしようとしたということですね。

ところが、それらの貸付業務が、事業所得を生ずべき「事業」ではなく、雑所得を生ずべき「業務」であるとすると、それらの貸付業務から生じた損失を他の所得(本件では会社役員としての給与所得)と通算することができなくなり、利益を繰り延べることができなくなってしまうことから、事業所得を生ずべき「事業」に該当するか、雑所得を生ずべき「業務」に該当するかが争われたということです。

わざわざ法改正をして対応をしたくらいですので、この手の「節税スキーム」は広く行われていたはずですが、あまり否認されたという話は聞いたことがなかったので、実務的に「事業」として取り扱われることも多かったのではないかと思うのですが、審判所は、建築用の足場資材の賃貸業務、クラシックカーの賃貸業務、LED照明の賃貸業務のいずれについても、事業所得を生ずべき「事業」ではなく、雑所得を生ずべき「業務」であると判断しました。

法令解釈はいつものやつですから省略をして、当てはめについても似たような判断をしていますので、LED照明の賃貸業務に関するものだけご紹介します。

A 営利性及び有償性の有無について
 請求人は、上記ロ(ニ)A及びBのとおり、本件LED賃貸借各契約の契約期間である4年間で投下資金の■■が返ってくるというWS社の「LEDオーナー事業」に参加し、本件LED賃貸借各契約に基づき毎月一定額の賃貸料収入を得ており、上記4年間で請求人が得られる具体的な賃貸料の予定総額は、上記ロ(ニ)Gのとおり、初期投資額を上回るから、営利性及び有償性が認められる。
B 継続性、反復性の有無について
 請求人は、本件LED賃貸業務として、上記1(3)ロ(ハ)AからDまでのとおり、令和2年から令和3年にかけて本件LED賃貸借各契約に某づき本牛各LED照明管を賃貸しており、また、初期投資額の回収には本件LED賃貸借各契約の喫約期間である4年間にわたって本件各LED照明管の賃貸が不可欠であるから、継続性、反復性が認めらる。
C 自己の危険と計算による企画遂行性の有無について
 上記ロ(イ)Bのとおり、請求人は、スムーズな個人事業経営により得られる利益と期間を検討して本件LED賃貸業務を始めるに至ったといえる。
しかしながら、本件LED賃貸業務は、上記ロ(ニ)Aのとおり、WS社がLED照明管の賃貸先をHR社に固定して、LED照明管の購人対価を一括で全額損金処理することにより節税ができ、4 年間で投資額の■■を回収できるという「LEDオーナー事業」として考案したものであり、上記ロ(ニ)BからDまでのとおり、販売単価、販売単位、賃貸先、賃貸期間及び賃貸料総額といった本件LED賃貸業務の重要な事項はWS仕によって決められ、請求人は、より有利な条件を求めて交渉をすることもなく、WS社が考案して重要な点を決定した事業に自己の手持資金に見合う範囲で参加するという判断をしたにとどまり、上記重要な事項の決定に関与したものでもない。
 また、上記ロ(ニ)Eのとおり、本件各LED照明管の調達はWS社が行い、納入先であるSS社への運搬もWS社の指示で販売元の事業者が行っており、請求人は、総額約8,000万円もの高額な商品を仕入れる主体としての地位にありながら、本件各LED照明管の現物を確認せず、納品にも関与していない。加えて、上記ロ(ニ)Fのとおり、本件LED賃貸借各契約締結後においても、請求人は、本件各LED照明管の維持管理には特段関与せず、本件各LED照明管全てを一括賃貸して稼働リスクをHR社に転嫁し、その使用状況に関係なく、毎月定額の賃貸料収入を得ることができていた。
 さらに、上記1(3)ロ(ハ)F(F)のとおり、HR社は、契約期間満了に伴う本件LED賃貸借各契約の終了に当たり、諸求人に対し本件各LED照明管の買取りを請求できるところ、その価格は1本当たり1円と安価であること、上記1(3)ロ(ハ)F(A)のとおり、本件LED賃貸借各契約は更新が予定されていないことからすると、本件LED賃貸借各契約の契約期間が満了した場合、本件各LED照明管が再度の賃貸借の目的物となり得るだけの価値を有するとはいえないことからすれば、請求人には、本件LED賃貸借各契約終了後に次の賃貸先を探す必要性が生じるとも認められない。
 以上によれば、本件LED賃貸業務は、請求人が、上記1(3)ロ(ハ)F(E)のとおり、中途解約時における解約手数料支払のリスクや賃料回収に関するリスク、及び、本件LED賃貸借各契約の期間満了後にHR社が本件各LED照明管を買い取らなかった場合における保有リスクを負うとしても、企両及び遂行の大部分を他者に依存しており、自己の危険と計算により企両遂行したものとは認められな。
 このほか、請求人は、自己の危険と計算による企画遂行性に関し、上記(1)C(B)と同旨の主張をするが、本件LED賃貸業務についても、上記(イ)C(B)と同様の理由から、請求人の主張は採用できない。
D 精神的及び肉体的労力の程度について
 請求人は、上記Cのとおり、本件LED賃貸業務に係る業務内容の決定及び本件各LED照明管の維持管理にほとんど関与しておらず、請求人か費やした精神的及び肉体飴労力の程度は低いというべきである。
このほか、請求人は、その労力に関し、上記(イ)D(B)の①、②及び①と同旨の主張をするが、本件LED賃貸業務についても、上記(イ)D(B)と同様の理由から、請求人の主張は、いずれも採用できない。
E 人的及び物的設備の有無について
 請求人は、本件LED賃貸業務において、上記ロ(ニ)Hのとおり従業員を雇用していない上、請求人が主張するとおり本件LED賃貸業務の開始に当たって外部協力者からの協力を得ていたとしても、それはWS社の企画に応じるか否かの判断に際しての協力であって、業務遂行のための人的設備と評価することはできない。
 なお、請求人は、上記ロ(ニ)Hのとおり本件各LED照明管の保管場所の確保等をしておらず、また、上記1(3)ロ(ハ)Eのとおり請求人が本件各LED照明管を所有しているとしても、本件LED賃貸業務から生じた所得が事業所得であることを基礎付けるだけの物的設備が存在するとは認め難い。
これらのことから、請求人が特段の人的物的設備を有していたとは認められない。
F 当該経済的行為をなす資金の調達方法について
 請求人は、上記ロ(ニ)Bのとおり、本件各勤務先からの報酬の蓄積を原資として本件各LED照明管の購入代金を支出しており、特に借入れ等をせずに本件LED賃貸業務に要する資金を賄っているものと認められる。
G 職業、経歴及び社会的地位、生活状況について
 請求人は、上記ロ(ニ)Aのとおり、本件各年分において、本件各勤務先の役員を務め、本件各勤務先から■■■を超える報酬を得ていた。
 他方、本件LED賃貸業務について、4年間で見込まれる利益は初期投資額の■■である約■■■程度であり、1 年当たりでは約■■■程度と、初期投資額からすれば必ずしも高額とはいえない利益であること、上記(イ)G(A)のとおり、請求人の法人役員としての業務内容は重責を伴うと考えられること、及び、上記CからFまでの本件LED賃貸業務への従事の各態様も考慮すれば、請求人が、本件LED賃貸業務からの収入を、生計を支える重要な収入源として位置付けていたとは認め難いというべきである。
 このほか、本件各勤務先の事業承継等に関する請求人の主張及び他に得ている収入との比較と本件通達との整合性に関する請求人の主張がいずれも採用できないことは、上記(イ)Gのとおりである。
H 相当程度の期間安定した収益を得られる可能性について
 上記Aのとおり、本件LED 賃貸業務は、4年間で投下資金の■■が返ってくるものであり、請求人はそのような利益が生じることを前提とした賃貸料収人を毎月得ていたから、本件LED賃貸業務には、相当程度の期間安定した収益を得られる可能性があると認められる。
I 小括
 以上において検討したところによれば、本件LED賃貸業務は、営利性、有償性、継続性、反復性を有し、相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が認められるが、その他の考慮要素に関する上記各検討結果からすると、本件LED賃貸業務が社会通念上事業であるとは認め難く、本件LED賃貸業務から生した所得が事業所得に該当するとは認められない。

まぁ、実質的にお金を出しているだけでしょということなのですかね。結論ありきで判断している感もありますが、この事案であれば、裁判所でも同じような判断がされるのではないかと思います。

なお、この裁決で面白かったのは、令和4年に改正された所得税基本通達35-2の注書きとの関係について、以下のように判断されているところです。通達の改正前の事案なのですが、改正が「雑所得の範囲について、明確化を図るため」のもので、確認的なものに過ぎないという位置づけなので、改正前の事案だから関係ないという訳にはいかなかったのでしょうね。

 また、請求人は、他に得ている収入との比較は、個別判断時の例外的な考慮要素であって、そのような考慮要素による判断は、帳簿の作成及び保存の有無や事業規模で事業所得該当性を判断すべきことを原則とずる本件通達の定めと整合しない旨主張する。
 しかしながら、本件通達35-2の注書きは、当該所得に係る取引を記録した帳簿書類を保存している場合は、当該所得が事業所得に区分される場合が多いという一般論を踏まえたものであって、事業所得と雑所得の区別を社会通念に従って判断するという原則を変更するものではない。したがって、当該取引を記録した帳簿が保存されている事案に係る所得区分の判断において、当該取引に従事している者が他に得ている収入等も踏まえて社会通念に従った判断をすることが例外的な考慮要素とはいえないから、請求人の上記主張は、採用できない。

改正後の通達の解説で、以下のような図が示されたりしたこともあって、一部では、帳簿書類の保存がある場合には、その所得の収入金額が僅少である場合や、その所得を得る活動に営利性が認められない場合でない限り、事業所得になるという理解もされたようですが、そんなことはないということですね。

当然といえば当然のことだと思うのですが、そうであるとすれば、上記の通達の解説の「概ね事業所得」という記載は、誤解を与えるだけなのではないかという気はします。

という訳で、お金を出して後は業者にお任せといった類型の利益の繰延べスキームについては、所得税基本通達35-2の改正の前後に関わらず、「事業」と認められない可能性が高いということになりますので、改めて怪しげなコンサルの提案する節税スキームには注意が必要ということになるかと思います。

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