非公表裁決/考課係数を含む算定方法により算定される取締役報酬が損金に算入できる利益連動給与に該当するか?
利益に関する指標を基礎としつつも、最終的には取締役社長が決定する考課係数を乗じることによって算定される取締役報酬が、平成29年の改正前の法人税法34条1項3号の要件を充足する利益連動給与に該当するかが争われた事案の裁決例です。
具体的には、以下のような取締役報酬の算定方法が「客観的なもの」といえるかが問題となりました(裁決書では一部がマスキングされていますが、審査請求人と思われる会社の有価証券報告書から補足をしています。)。
A 本件利益連動給与の総額は、(連結経常利益-10億円)×5%とする(百万円未満切捨て)
B 連結経常利益が10億円未満の場合には、本件利益連動給与を支給しない。
C 本件利益連動給与の総額の上限は1億円とする。
D 各適用対象取締役の本件利益連動給与の額は、以下の算定方法によって計算する(1万円未満切捨て)。
利益連動給与の総額×各適用対象取締役の役位別係数(A)÷在任する適用対象取締役全ての役位別係数の合計×在任期間係数(B)×考課係数(C)
(A) 役位別係数
取締役会長 1.30
代表取締役社長 3.00
代表取締役(専務執行役員) 1.50
取締役(専務執行役員) 1.30
取締役(常務執行役員) 1.00
取締役(執行役員) 0.33
(B} 在任期間係数=年間在任月数÷12
(C) 考課係数
a 上限を1.0とする。
b マイナス考課により、考課係数を1.0未満とすることができる。
c マイナス考課については、取締役社長が決定する。
この点について、審判所は、以下のように、審査請求人の利益連動給与の算定方法は「客観的なもの」という要件を満たさないと判断しました。
このような平成18年度税制改正の経緯及び制度の趣旨に鑑みれば、法人税法第34条第1項第3号イの「算定方法が…客親的なもの」という要件を満たすというためには、その算定方法が、個々の業務執行役員の給与の支給時期・支給額の決定に恣意が働かないような算定方法、すなわち、当該算定方法に利益に関する指標等を当てはめさえすれば個々の業務執行役員に対して支払われるべき利益連動給与の額が自動的に算出される算定方法であることを要し、事前の定めとは別途の事後的な評価を加えて支給額が決まる算定方法などは上記要件を満たさないものと解するのが相当である。
そして、法人税法第34条第1項第3号イ(3)が、算定方法の内容が、報醒委員会の決定又は政令で定める手続の終了の日以後遅滞なく有価証券報告書に記載されていること等により開示されていることを要件として定めていることからすれば、当該開示を有価証券報告帯に記載する方法により行う場合には、上記の「算定方法が・・・客餓的なもの」という要件を満たすか否かは、有価証券報告書に記載されて開示された算定方法により判断すべきである。
≪中略≫
そうすると、本件算定方法における考課係数については、請求人は、マイナス考課の適用条件や具体的な算定方法について、本件開示で何ら開示しておらず、マイナス考課とするか否かも含めて、本件開示後に取締役社長が決定しているのであるから、当該考課係数の決定において恣意が排除されていると認めることはできず、本件算定方法が、利益に関する指標を当てはめさえすれば個々の業務執行役員に対する利益連動給与の額が自動的に算出されるものであるとは認められない。
よって、本件算定方法は、法人税法第34条第1項第3号イに規定する「算定方法が、・・客観的なもの」という要件を満たさない。
上限が1.0とされていますので恣意的に増額されることはないのですが、取締役社長が決定する考課係数によって各取締役に対する報酬額が変動し得ることからすると、そのような算定方法が「客観的なもの」であると認められないというのはやむを得ないですかね。
ただ、上記のような解釈を徹底すると、他にも利益連動給与(業績連動給与)を損金に算入することができないこととなる上場企業が少なからず出てくるような気がします。
例えば、日本航空の有価証券報告書には、「業績評価期間における中期経営計画で重視する経営指標等の業績の目標に対する達成度合い等の結果に基づき算定」される「業績評価係数」を乗じて、個人別交付株式数を算定する旨が記載されているのですが、そのような「有価証券報告書に記載されて開示された算定方法」は、厳密には「利益に関する指標等を当てはめさえすれば個々の業務執行役員に対して支払われるべき利益連動給与の額が自動的に算出される算定方法」には該当しないことになりそうです。
もともと損金に算入していないという可能性もありますが、そうでない場合の方が多いでしょうから、実務的な影響もありそうですね。