<令和4年10月から要注意>短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大
施行までまだ少し時間がありますが、経営者も労働者も事前に準備しておくにはこしたことがないので、ポイントをまとめておきます。
そこそこ大きな企業にお勤めの方は聞いたことがあったり、自分が適用対象になっていたりするかもしれませんが「特定適用事業所」という言葉はご存じでしょうか?今回の記事は、この「特定適用事業所」の対象範囲が令和4年10月から拡大されるので、該当しそうな企業及び労働者の皆さんは気を付けましょう!というものです。とかく聞きなれない言葉と漢字が多く難しくなりがちな内容ですので極力わかりやすくお伝えできれば、と思います。法律の細かい部分は割愛させていただきますのでご了承ください。
<「特定適用事業所」の該当条件は?>
まず、「特定適用事業所」とはなんぞや?ということですが、端的に言えば、健康保険&厚生年金=社会保険(社会保険の定義は色々ありますが、この記事では健康保険と厚生年金のみとします。)の被保険者総数(短時間労働者を除く)が常時501人以上在籍している法人のことを「特定適用事業所」といいます。かなり大きな企業ですね。今回の法改正は令和4年10月から、この「特定適用事業所」の該当条件が、社会保険の被保険者総数(短時間労働者を除く)常時101人以上の法人に変わりますよ。というものです。サラッと書きましたが、日本の総企業数約382万の内、中小企業の割合が99.7%であることを考えると、かなりインパクトのある法改正ではないかな?と私は考えます。では自社(勤務先)がこの「特定適用事業所」になるとどのように変わるのか?社会保険被保険者の適用条件と併せて簡単にご説明します。
<「特定適用事業所」になって変わること>
先ずはじめに社会保険加入の条件でありますが、ザクっと言ってしまえば、正規・パート問わずフルタイム勤務(その法人の正社員が労働契約上働くこととされている所定労働時間)であればほぼ加入対象です。プラス、パートタイムでもこのフルタイム勤務の4分の3以上の時間と日数働いていれば加入対象となります。(もう少し細かい条件はありますがこの記事のテーマではないので、ここでは割愛します。)ですので、正社員やフルタイム勤務者が1日8時間×5日で週40時間働いていたら、週30時間のパートタイムは加入対象。正社員やフルタイム勤務者が1日7時間×5日で週35時間であれば、週26時間15分以上は加入対象となります。これは強制加入ですので、経営者や本人の意思とは関係なく加入となります。「特定適用事業所」はこのパートタイムの加入条件が更に緩和される、というものです。(緩和という表現が正しいかわかりませんが…。)具体的な条件を羅列します。
・1週間の所定労働時間が20時間以上であること(学生以外)
・賃金の月額が88,000円以上であること(通勤手当等は含まず)
・継続して2ヶ月以上使用されることが見込まれること(今回改正)
「特定適用事業所」に勤めており上記の条件を満たしていれば、労働時間がフルタイム勤務の4分の3未満でも、強制加入の対象となります。いかがでしょうか?経営者側であれば、業種によって上記の条件を満たすパートやアルバイトが沢山いる!社会保険料の事業主負担分が一気に増える!というところもあると思いますし、労働者側であれば、今まで配偶者や家族(健康保険のみ)の社会保険の扶養の範囲内で働いていたけど、令和4年10月から強制加入になってしまう!手取りが減る!といったケースが沢山出てくると思います。ですので、法人の規模によっては経営者側・労働者側双方にとってインパクトの大きい法改正といえるのです。では、次に具体的なケースを想定し、実際に計算してみましょう。
<具体例による試算:影響額>
勤務地:大分県(最低賃金822円:令和3年10月6日現在)年齢:45歳
時給:850円 所定労働時間:1日5時間勤務 月平均21日間勤務
5時間×21日間=105時間 850円×105時間=89,250円
上記のケースでは、今まで社会保険の加入対象ではなかったものが、勤務先が令和4年10月から「特定適用事業所」に該当すれば、強制加入の対象となります。では次に、手取りへの影響額を計算してみます。
標準報酬月額:88,000円(令和3年3月分からの掛け率:大分県)
全国健康保険協会管掌健康保険料:5,324円 厚生年金保険料:8,052円 合計13,376円
今まで控除されていなかった13,376円が給与から引かれるようになります。いかがでしょうか?家計への影響は大きいのではないかと思います。人によっては、今まで国民健康保険と国民年金を自分で払っていたから、社会保険の加入対象になって嬉しいという方もいるかもしれませんし、厚生年金も期待できるという方もいるかもしれません。(将来の年金の給付率に関してはどうなるかわかりませんが…。)しかし、先程述べたような配偶者の扶養範囲内で働いている方等は、今までなかった支出が発生することになります。収入は増えていないけど、年間160,512円の支出が増えるのです。上記の具体例でいえば、収入の約15%の支出となります。一方経営者側はどうでしょうか。単純に上記の例で雇用契約を結んでいる従業員の数×13,376円が新たな経費として発生するようになります。最低賃金が比較的低い大分県で試算をしていますので、他県であればさらに影響額は大きいかと思われます。最低賃金は地域差があるのに、こういった制度の基準額は一律というのはどうなんだという議論や、賃上げ政策を推し進めているけど結局手取りは減るじゃないかという議論はありますが、そこに突っ込みだすとテンションが下がるのでいずれ…。どちらにしろ決まってしまっていることなので、令和4年10月までに検討しておいた方がよいことをまとめておきます。
<令和4年10月までにしておいた方がよいこと>
(経営者側)
自社の社会保険被保険者数を再度確認し101人以上であれば、令和4年10月から新たに対象となる短時間労働者をリストアップする。社会保険料事業主負担分への影響額を試算しつつ、個別ヒアリングをし、双方にとって不利益のないように労働条件の再交渉をするのがベストかなと思います。
(労働者側)
勤務先が令和4年10月から「特定適用事業所」になるのかを確認。該当するということであれば、自身が社会保険の加入対象になるか勤務先に確認したうえで、家計への影響を踏まえ労働条件の再交渉。家計や将来に対する考え方は千差万別ですので、じっくり検討した方がよいかなと思います。
<まとめ>
今回の法改正の影響が大きいことがおわかりいただけたでしょうか?更に付け加えるなら、令和6年10月からは、冒頭で述べた被保険者総数が51人以上に変更される予定です。(中規模法人は軒並み該当しますね…。)時代の趨勢的には、個人の価値観に沿った多様な働き方や生き方がよしとされている気がしますが、制度的にはガチガチに縛りたいといったところでしょうか。単純に社会保障費が枯渇しまかなえないから、対象者を増やしたいといった思惑なのか。人によっては喜ばしい法改正だとは思いますが、もう少し選択の自由があってもよいような気がします。
以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。