「教えて君」がエンジニアから嫌われる構造 ~勉強不足というフリーライダー~
はじめに
エーピーコミュニケーションズ上林です。SIerで経営兼エンジニア組織の責任者をやってます。
4月ですね。この時期、新卒が入社して組織にも新しい風が吹く爽やかな季節です。今回、そんな季節に必ず起こる、技術に対して「わからない」「教えて欲しい」「意を決して聞いた」「でも教えてもらえない」という状況の奥にある知識とスキルの構造について書かせて頂きました。なお、構造を書いているだけなので、この記事を読んでも「わからない」ことについては全く解決致しませんTT が、エンジニア組織の中で生きるための事前知識、心構えの一種としては参考になるかなと思います。
新卒と先輩だけでなく、「新卒同期同士」「チーム内の先輩と後輩」「(異動後や転職後などの)既存の人と新規の人」「技術のわかる部下と上司」など、知識やスキルレベルの差があるところで発生する問題の構造を理解するうえでも意義があるのかなと考えています。
完全に個人としての見解であり、会社としての見解ではありませんので、悪しからずご理解ください。
「教えてもらえない」の裏にある三つの理由
当社でも入社後に3か月間の研修があり、2か月近くは、システムや技術関係中心の研修になります。私自身は大学で情報系の学科を専攻していました。あの頃プログラミングの授業で配られたテキストの一ページ目を読んで感じた絶望感……同じような思いをしている新卒の方もいるのではないでしょうか。
「なにを言っているのかわからない……」
でも、出てくる用語がわからなすぎて、聞くにきけない。今だとGoogle先生がいますが、調べて出てきた単語がまたわからない。わからない単語が増えて、結局あらゆることが聞けない。また、その組織特有の言葉だと、調べても出てこなかったりして絶望の淵に落とされるわけです(大袈裟)。
「こんなことを知らないというと悪い評価になるのでは……」
というのもよくある間違いですが、初めて所属する組織の文化もわからないので、それを聞くことに対する評価も意識してしまったりもします。でも、学んで成長するのも仕事ですから、どこかでは同僚、講師、先輩に意を決して聞かないといけないわけです。
「思い切って聞こう!」
清水の舞台から飛び降りるつもりで出した渾身の質問に対して、優しい先輩は大抵教えてくれますが、
「自分で調べて」
と冷たく対応されるパターンがあります。さて、ここからが、ようやく本題で今回のテーマです。この拒否されるパターンの理由をひも解くと、
①単純に忙しい
②あなたの「聞くための事前準備」が不足しているため、あえて教えない(あなたのためだから)
③自分の蓄えてきた「知識やスキル」をメリットのない相手にそうやすやすと教えたくない
です。①と②の理由はわかりやすいですし、一般的にもよく言われると思うので、調べてみてもらえればと思います。②の裏側とも言える③番の構造の問題が今回のテーマです(前置きが長い……)。
「教えたくない」の構造
IT業界も一昔前は職人の世界みたいな部分もあって、こういう③のような人が多かった気がします(恥ずかしながらかつて私も職人気質でした)。ぱっと聞くと嫌な奴に聞こえるかもしれません。とはいえ、人としての良し悪しは置いておいて、前提には構造的に発生する問題があると考えています。なぜなら、知的資産であり、実際にお金に変えられる可能性のあるものだからです。
例えとして、同じ資産ということで不動産(土地と建物)で例えてみます。
不動産を仕事にしたいと考える人「カミバさん」がいます。
「カミバさん」はまず自分のお金で土地を購入します。お金になりそうということで、今後の職住接近を意識して購入したは都心の一等地でした。ただ、土地を持っているだけでは誰も使ってくれない(むしろ税金がかかってしまう!) ので、土地の有効活用のために、オシャレなマンションを建てることを計画します。詳細は端折ってオシャレなマンションが建ちました。次はマンションの入居者を募集して、家賃収入を得る。そして顧客を逃がさないように良い管理状態を保ち続ける。そうすると継続的に土地がお金を生む状況を作れます。
不動産オーナーもなかなか大変そうですね。
それでは、これをエンジニアの世界に置き換えてみます。
エンジニアを仕事にしたいと考える人「カミバさん」がいます。
「カミバさん」はまず自分の時間で知識を得ます。お金になりそうということで、今後の事業のスピードを意識して選んだのはパブリッククラウドの勉強でした。ただ、知識を持っているだけではなんの仕事もできない(むしろ年とともに忘れてしまう!) ので、知識の有効活用のために、流行りのクラウドSREの経験を積むことを計画します。詳細は端折ってイケてるSRE業務ができるようになりました。次はスキルを生かした仕事を獲得して、収入を得る。そして仕事を逃がさないように良い仕事を提供し続ける。そうすると継続的に知識がお金を生む状況を作れます。
エンジニアもなかなか大変そうですね。
さて、多少違和感はあるかもしれませんが、おおむね変換できたのではないでしょうか。主に変換されたのは、
「初期投資→時間」「土地→知識」「建物→スキル*」
です。もちろん知的資産というと「知財(特許など)」という権利に置き換えていく、アプリケーションを「ソフトウェア資産にする」などの会計上の資産にするパターンが一般的ですが、SIerなどが存在することからもわかる通り、知識やスキル、いわゆるノウハウが価値に変換され、お金に変わっていることも事実です。
*ここではスキルを「知識を生かして、なにかを実行する能力」と定義します。
不動産屋さんは、常に自分の「お金」を使って、持っている「土地」を広げ、「建物」を作ることで、世の中のニーズに応えています。
一方でエンジニアは、常に自分の「時間」を使って、「知識」を広げ、「スキル」を構築し、世の中のニーズに応えています。
これが「教えたくない」の知的資産の構造だと考えています
知識やスキルを教えないことは悪いことか?
この構造をもとに、先ほどの③の「教えたくない人」のことを考えてみるとどうでしょうか。「教えて」と気軽に聞くことを言い換えると、エンジニアに「(あなたの時間を使って獲得した)知識やスキルをただで教えてください」と同義になりそうです。
これを更に不動産屋さんで置き換えると「(あなたのお金を使って獲得した)土地や建物をただで貸してください」とも言い換えることが出来そうです。
不動産屋さんにこんなことを言う人は少ないと思いますが、エンジニアは気軽にこういうことを言われがちだと思います。もちろん土地と建物とちょっとした知識にレベル感の違いはあると思いますが、知識やスキルというのは「見えない資産」で、その社会や組織の文化の意識が低いと、価値が認められなかったり、軽視され易いものであるとも考えています。
例えば日本の著作物が海外で勝手に使われていたら、日本人は憤ると思います。それは日本人の著作権についての意識が高いからではないでしょうか(法律も整備されています)。知識やスキルを軽視するということは、レベルの差はあれど構造としては同じことをしているとも言えるのではないでしょうか。
ちなみに、知識やスキルを簡単に提供するなと言っている話ではありません。あくまで構造について考えている記事です。
長くなったので後編に続きます……。