のろわれしモノ
稀少な故に、勿体ながっていつ飲もうかと逡巡してしまい、開け時を逸して何年何年も手元に残り続けるビールたち。
ビール愛好者の多くは、そのような「飲めないビール」を大量に抱え、冷蔵庫を唸らせていることだろう。
「飲めないビール」はビール愛好者にとって呪いであり、ビール愛好者とは須く呪われし者なのだ。
幸い私はビール専用冷蔵庫を所有していない──つまり"まだ""ただ"のビール好きだ──ため、呪いの程度は軽い方だと言えよう。
ビールは主に、一年を通して比較的安定した温度を保っているであろう、床下スペースに保管している(冷蔵庫に入れると邪魔がられるので……)。
一年を通して比較的安定しているとはいえ、適切な空調や断熱を施していない床下スペースでは、酷暑の夏には20℃を超えることがあるだろうし、極寒の冬には5度を下ることもあろう。
つまり、完全には劣化を免れ得ぬのだ。
いやむしろ、劣化している可能性の方が高いと言える。
ビールとは、繊細でか弱いモノなのだ。
それでもビールの開けどきはしばしば逸され、温度管理に不安を抱えたまま、床下スペースへの保管は消極的に続けられることとなる。
これこそを呪いと呼ばずしてなんと呼ぶか。
床下に潜むモノたち
床下スペースに収納されているビールを、ヴィンテージの若いものから順に紹介する。
銘柄名に続く()内は公称のヴィンテージないし醸造年もしくはボトリング年。明確に記載がなく調べられなかったものは、購入年を記すこととする。
ロコビア 玖周年記念醸造 Belgium Imperial Stout (2021年)
千葉県は佐倉のブルワリー、ロコビアの9周年を記念して醸造された、ベルギー酵母を使ったインペリアルスタウト。
リリースされたのは2021年12月だが、ボトルコンディション(瓶内二次発酵)のため、飲み頃となる2022年3月まで寝かせ中。
酵母の活性が強く、温度が上がると栓が飛ぶ可能性があるとの説明を受けたので、3月以降の床下保管は危険と判断し、飲み頃になったら開けてしまおうと思っている。大変楽しみ。
Cluster × 富士フジノ × 反射炉ビア 泣周年インペリアルスタウト (2021年)
柏のビアバー(CAFE & BAR)、クラスターの9周年を記念して醸造された、ABV19%の特濃かつ超ハイアルなインペリアルスタウト。
購入直後に飲んだ感じでは、(いい意味で)クセのないどストレートなインペリアルスタウトという印象で、これがどう変化していくかを想像すると、ニヤニヤが止まらない。
まだ1本隠し持っていたのだ。
最低でもあと5年は寝かせて、可能なら10年以上寝かせて、クラスターの20周年記念に持参しようと思っている。
BrewDog MMXXX (2021年)
2030年1月1日が飲み頃として推奨されている、(購入者自らが)長期熟成(する)バーレイワイン。
まだ某リカーショップに店頭在庫があったので、いっそ買い占めてしまおうか。1本は味見にすぐ飲んで、もう1本は5年くらい、さらにもう1本は15年くらいで飲んで、香りと味わいの変化を追ってみたい。
Coedo × Stone × Garage Project × Coppola Winery 梅雨 (2020年)
コエド、ストーン、ガレージプロジェクト、コッポラワイナリーの4社コラボによる、豪壮な逸品。
シャルドネ樽でエイジングしたストロングな梅のセゾン。
何本か買ったうちの最後の1本だ。
梅は、梅そのものの漬け込みではなく、氷砂糖に漬け込んで作った梅シロップをビールにブレンドしたものらしい。
シャルドネ樽は、映画監督のフランシス・フォード・コッポラ氏所縁のワイナリーのもの。
いくら ABV8.5% とはいえ、繊細なセゾンを、賞味期限(2021年5月)を超えて保持し続けるのは、いささかの罪悪感を伴う。
BrewDog Paradox Grain 2020 (13% - Schrödinger's Stout) (2020年)
BrewDog が気まぐれに造る、インペリアルスタウト(今でも Rip Tide なのかな?)を様々なハードリカー樽でエイジングした、バレルエイジド・インペリアルスタウトのシリーズ。
これはカンなので冷蔵庫にいる。あと10年くらい置いといてもいい。
そのうちまた Paradox の新作が出るだろうから、その時まで残しておいて、いろいろ飲み比べてみたい。
Knox19% (2019年)
インドネシアの謎のビール。物騒なデザインのカン表面で不敵に笑う、この"大佐"っぽい人は何者だろうか。
インポーターの HP ではボックと紹介されているが、ただのボックが ABV10% を超えるとは考えにくいので、おそらくアイスボックだろう。アルコール添加の疑いも捨てきれないが。
稀少性ではなく、ABV19% もあるのに 450ml の缶という、大変扱いづらいシロモノのため、開けられないビールとなっている。おそらく、いつまでも放置し続けることだろう。AVB19% もあるので、余裕で耐えるに違いない。
Harviestoun Ola Dubh 12 (2017年) / 16 (2021年) / 18 (2020年)
Harviestoun の定番ポーター Old Engine Oil を Highland Park の樽でエイジングした、バレルエイジド・ポーターのシリーズ。数字はそれぞれ、エイジングに使われた樽の、Highland Park の酒齢である。
手元には12年、16年、18年の3種しかないが、シリーズにはほかに、8年、10年、14年、21年(!)、30年(!!)、40年(!!!)などがあり、さらに特別な樽を使った限定ものとかが多数。
40年は買うチャンスがあったにも関わらず、買いそびれてしまったのを、今でも激しく後悔している。
飲み比べのために、エイジングに使われた Highland Park のそれぞれの酒齢のものをそろえたいのだが、そんなことを言っていると一生飲めない気がする。
Brussels Beer Project Twillight Zone series Leviathan (2017年)
ベルギーは Brussels Beer Project によるバレルエイジング・ビアのシリーズ、Twillight Zone series。
Leviathan は、コニャック樽でエイジングした、ベルジャン・ダークストロングエール。
Twillight Zone series は全部で4銘柄あり、どれもモンスター級のエクストリームなバレルエイジド・ビアだ。
●Nue(鵺):京都醸造とコラボした、柚子と山椒を使ったセゾン Zenith Zest を、コニャック樽でエイジング。すでに手持ちをすべて飲み干してしまっており、1本も残っていない。
●Minautore:インペリアル・レッドエールをブルゴーニュ・ワインの樽でエイジング。日本に輸入されていない(はず)。
●Phénix:カモミールで香りつけしたアンバーエールをドルンフェルダー・ワインの樽でエイジング。これも輸入されていない(はず)。
シリーズ4銘柄が全部揃うまで、などと思っていたが、結局 Minautore と Phénix は輸入されず、NUE は誘惑に負けて飲んでしまった。
何本か買い置いた Leviathan だけは、何とか1本だけ残っている。
La Chimay Bleue (2016年)
みんな大好きシメイブルー。いわゆる修道院ビール(アビービール)だが、中でも特別なトラピストビールである。ビアスタイルでいうと、ベルジャン・クアッド。
特に垂直飲みなどをしたくて計画的に買っているわけではなく、単に残っていただけ。もう5年も経った。
どうせなので、他のヴィンテージも入手して飲み比べしよう。
Nøgne ø × Brewdog × Mikkeller Horizon Tokyo Black (2012年)
Nøgne ø Dark Horizon、BrewDog Tokyo*、Mikkeller 黑 (Black)、の3種のインペリアルスタウトをブレンドした、(当時)最強(と言われた)ブレンデッド・インペリアルスタウト。の、Nøgne ø 版。
ボトリングは2012/11/29で、賞味期限は2027/11/29とあるので、あと5年置くのはブルワーも想定の範囲のようだ。
BrewDog 版の Black Tokyo* Horizon は飲んだが、Mikkeller 版は稀少すぎて手に入らずじまい。(そもそも存在しないという噂も。)
ちなみにブレンドに用いられた、Nøgne ø の Dark Horizon も、BrewDog の Tokyo* も、Mikkeller 黑 (Black) も、もう作られていないっぽいので、完全に幻のビールになってしまった。果たして何本現存するやら。
BFM Abbaye de Saint Bon-Chien 2012 (2012年)
スイスのブルワリー、Brasserie des Franches-Montagnes の手がける、ABV11% のハイアルコールなサワーエール。ラベルにはビエール・ドゥ・ギャルドとある。
手元にある最古のビールで、なんと11年目に突入。もうどうしていいかわからぬ。
冷蔵庫保管ではないので、ほぼ間違いなく劣化していると思われるが、ハイアルコールかつサワーエールなので、まだ望みは捨てていない。
未来へ
リアル/オンラインを問わず、私の周りのビール愛好者諸氏におかれては、こんな程度では済まない質と量のビールを抱えておられることだろう。
ビールに限らず日本酒でもウイスキーでもワインでも、他のさまざまな醸造酒や蒸留酒でも、いや酒に限らず収集可能なあらゆるものについて、自らの意志で制御しうる範囲を超えて、モノは貯まり続けるのだ。
ではせめて、手に入れたものを無駄にすることなく、ありがたくいただこうと思う次第。
いつもどおり、最後の一文までテンションを維持しきれないことが明らかになったので、唐突に畳みます。
ああ疲れた。ビール飲もう。