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#17 インドのOla Electricが電動バイク発売を発表!二輪の電動シフトをもたらす引き金になるか?

現在インドで伸びている電動二輪車メーカーの「Ola Electric」が、新しくユニークなバイクを発売する。

今回はそれらのバイクを買いたいと考えている方にインタビューを行い、そこから得られた示唆をデータを参照しつつ書いていきたい。

【弊社紹介】
弊社(株式会社hoppin)はUXコンサルティング事業、および中国・インドのUXリサーチ事業を行う企業である。参考:会社サイト
後者について、具体的には、中国・インドの優れたUXを提供するサービスを、現地ユーザやサービス提供企業の役職者へのインタビュー調査を通して分析し、日本企業への示唆を出している。
また筆者の滝沢は上海に2回居住したことがあり、2023年現在はインドのバンガロールに居住している。参考:筆者執筆のYahoo!ニュース



サマリ

  • インドにおいて、電動二輪のシェアは依然として市場の6%程度である。

  • しかし燃油価格が高騰していること、少しずつ電動二輪(主にスクーター)が売れ始めていることとそれに伴いメンテナンスの簡便さや壊れにくいイメージが浸透してきていることなどから、近年は都市部を中心に、徐々に電動二輪が検討候補に入りやすくなっていると考えられる。

  • 電動二輪の中では、現在「電動スクーター」は大手を含めたメーカーが発売を行なっているが、大手で「電動バイク」を扱っているメーカーは今のところない

  • ただインドの二輪市場の多数派はスクーターではなくバイクであり、市場の6割以上がバイク乗りである。

  • 電動二輪業界をリードしており、Ola Cabsも運営していることで信頼感があるOla Elactricが電動バイクを出したことは、二輪業界に大きな電動シフトをもたらす引き金になるのだろうか

  • 今後エンジンバイク大手からも多くの電動バイクが発売され群雄割拠となるのか、それともOla Electricがひとり勝ちとなるのか、はたまた引き続きエンジンバイクが多数派のままなのか。今後も注目していきたい。




インドの電動二輪の現状とOla Electricについて


インドにおける電動二輪のシェアはまだまだ少ない。2023年第一四半期の電動二輪のシェアは二輪車カテゴリの6%にとどまる。(参考

ただ、シェアは小さい一方で、下のグラフをみていただくとわかるように伸び率は大きい。2020年からはシェア30倍、2022年からはシェア1.5倍だ
政府も電動二輪への補助金も出すなど、国からも普及の後押しがあり、今後の伸びが期待されている。

引用元:Tech Crunch


電動二輪カテゴリの中では、最近「Ola Electric」の人気が高まってきている。
「Ola Electric」は、インドでUberと並ぶ配車サービス「Ola Cabs」の親会社「ANI Technologies」の子会社として、2017年に設立された企業だ。

最初のスクーターを納車したのは2021年12月だったが、そこから半年足らずの2022年4月には、その月の登録台数1位に。
その後上下はあったが、2023年に入ってからは毎月の登録台数(記事執筆時点で統計が出ている1-7月まで)は常にトップ。期待の新興プレーヤーと言えるだろう。(参考:直近のデータ

個性的なデザインに加えて、カラーバリエーションが豊富にあることも人気の理由一つのようだ
(画像出典:公式サイト)


バンガロール在住でOla Electricのスクーターを購入している方に以前インタビューをした際には、以下のようなパターンでOla Electricを選ぶ方が多いように見受けられた。

  • 原油価格の高騰によるガソリン代の上昇で「電動」の二輪車が選択肢に入り、

  • Ola Cabで培ったブランド力に加えて、「珍しいデザイン」や「テック感(デジタルを活用した近未来感)」によるユニークさで、Ola Electricが選ばれる

詳細は以下の記事にまとめているので、興味のある方は参照されたい。




Ola Electricからユニークなバイクが新発売!


Ola Electricは、これまではスクーターのみの販売だったが、2024年末目処で4種類のバイク(Ola Cruiser、Ola Roadster、Ola Adventure、Ola DiamondHead)を発売することを8月に発表した。

画像出典:公式サイト

以下に写真を掲載するが、いずれもかなり個性的なフォルムとなっている。
現地の解説記事を参照に筆者がキャッチコピーをつけている


街乗り向きのOla Cruiser

画像出典:公式サイト

現地の解説記事には「街乗り向き」と書かれていたが、そうなのだろうか?結構重そうなのと、前傾姿勢になるような気もするが…。
推定価格は27万ルピー(48.1万円)。


モダンかつ実用的なOla Roadster

画像出典:公式サイト

この4つの中では比較的「普通」に見える。解説記事でも「実用的」と書かれていた。
推定価格15万ルピー(26.8万円)。


ハードな地形向きのOla Adventure

画像出典:公式サイト

「ハードな地形向き」とあるだけあり、確かに車高が高そうだし軽そうでもある。
推定価格30万ルピー(53.5万円)。


未来的なスポーツバイクのOla DiamondHead

画像出典:公式サイト

推定価格35万ルピー(62.4万円)。

新発売の4モデルの中では特にOla DiamondHeadが目を引く。
Ola DiamondHeadを前にしては、他の3つの個性が霞むような気もしてしまう。
これを見た友人は、「ポケモンのポリゴンみたい」と評していたが確かにそうかもしれない…。(メディアではテスラのサイバートラックのよう、などとも評されている)

「ポケモン ポリゴン」のGoogle検索結果


このモデルを買いたいという、現在はYamahaのFZ25に乗っているバンガロール在住でソフトウェアエンジニアのAさん(38歳男性)にお話を聞くことができた。彼曰く、

" 自分にとってバイクの見た目はかなり大事なので、Ola DiamondHeadが一番気になっています。次にOla Cruiserが気になります。"

とのこと。「乗りにくそうではないのか?」との質問に対しては、

"今画像などで出されているものは、あくまで「コンセプトモデル」のようなものだと思います。実際に来年発売される頃(※)には、もっと現実的で乗りやすい快適な形になっているのではないでしょうか。"
※2024年末までに販売開始予定で、現在は発売前

と、楽観的(?)な見立てをしているようだった。




「電動」へのニーズが高まる中、Olaにとっては美味しいタイミング?


「実用的」とされているOla Roadster以外は、比較的ユニークな形・用途のバイクが多いように思える。
「趣味のバイク」なのかとも感じたのだが、Ola Elactricのバイクを検討しているというバンガロール在住のインド人にお話をお伺いしてみたところ、

  • 「電動」にメリットを感じる。(趣味利用ではなく)現在の日常利用しているバイクを電動バイクに買い替えたい。

  • ただそもそも「電動バイク」が市場にまだ少なく、選択肢があまりない。

  • Ola Electricについては、元々のOlaブランド自体が有名であること、また電動二輪でもシェアトップの企業であること、またバンガロールには複数店舗がありメンテナンスのための来店もしやすいことなどから、安心だと感じるので、検討したい。

という状況が見えてきた。以下で詳しく解説していく。



高まる「電動」ニーズ

現在はYamahaのFZ25に乗っているという、先述のAさん(38歳男性)は、燃料費高騰に伴って電動バイクを検討し始めたという。彼は以下のように語る。

" ここ最近、燃油の価格が高くて毎月かなり燃料費がかかっています。自分のバイクと妻のスクーター、それに車も含めて月に1-1.5万ルピー(1.8-2.7万円)もかかっているので、それを減らしたいと思っています。だから次は電動バイクにする予定です。"

現在Bajaj AutoのPulser 150 ccに乗っているBさん(40歳・男性)も、燃料費高騰に伴って電動バイクを候補に入れた一人だ。

" 15年くらい今のバイクに乗っていてさすがに古くなったので、さすがに新しいものを買いたいと思っているのですが、次は電動バイクにしたいです。

なぜかというと、最近燃料代が高くなっているからです。
今は1日に50-80キロくらい走って、100ルピー(178円)くらいかかっていると思います。以前は半分くらいだったのですが。"


また現在TVS Motors Apache 200に乗っているという、バンガロール在住でクリエーターのCさん(32歳男性)は、メンテナンスの簡易さの観点から電動バイクのメリットを語っていた。

" 週末のちょっとした遠出用としてTVS Motorsはそのまま使いつつ、平日の通勤用に電動バイクを買おうと思っています。(中略)
電動バイクを検討しているのは、「メンテナンスの簡単さ」が大きな理由です。今のバイクは結構不具合が生じることがあり、その度に直すのが面倒だと感じていますが、電動バイクならそのようなことはないと思います。"

先述の通り、市場全体として見ると電動二輪はまだまだ一般的とはいえない(二輪車カテゴリの6%にとどまる)とはいえ、都市部を中心に徐々に市民権を得てきており、そのメリットを認識する人も増えてきているのかもしれない。



大手メーカーは「電動バイク」を販売していない

このように「電動」へのニーズは高まる一方で、売上ランキング上位に入るような大手メーカーは「電動バイク」を販売していない

インドのいくつかのバイクの口コミサイト等で調べたところ、現在電動バイクを扱っているメーカーは15社ほどであった。
しかし、それらのメーカーの二輪車全体、もしくは電動二輪車のみでのシェアおよび販売台数は、Ola Electric以外はいずれもふるわず、「よく売れている」「有名」とは言い難いメーカーであった。

【詳細】
・電動バイクを販売しているメーカーのうち、バイクもスクーターも含めたインドの「電動二輪」の2023年7月間ランキングで上位10位に入っているのは、Ola Electric以外は2つのメーカーのみ(8位PURE、9位Revolt)。
・8位のPUREでも、「電動二輪」カテゴリの中でのシェア1.1%(月間515台)と、シェア・絶対数ともにかなり少ない。
・ちなみにOla Electricは同月、「電動二輪」カテゴリの中でシェア41.9%(バイク未発売のためスクーターのみで達成)。先述の通り2023年中は毎月不動の1位である。(参考


そのため、「電動スクーター」ですでにシェアトップであり、安心感もあるという点でOla Electricが選ばれやすい状況のようだ。先述のAさんはこう語る。

" 電動かつバイク、というと、小さい企業が出しているものなら色々あると思うのですが、有名なブランドではOla Electricしか今はないと思います。自分は他は知りません。"

Cさんも近いことを語っている。

" バンガロールで電動二輪というと新興企業のRiver、Ather、Ola Electricくらいしか、選択肢がなのかなと思います(※本人の認識)。
その中で、スクーターではなくバイクとなるとOla Electric一択になると思います。"


Bさんは、Ola Electricが良い理由の一つとして、シェアが大きいゆえの店舗の多さ(バンガロールの場合)Olaブランドの安心感を挙げている。

" Ola Electric以外だと、RevoltやUltravioletteも電動バイクを出していると思います。ただ、Revoltは結構新しいメーカーなので将来どうなるかわからず少し心配なのと、店舗が少ないので何かあった時に直してもらいに行くのが大変だと思います。店舗の少なさという点では、Ultravioletteも同様です。"

”Olaは有名で店舗が多いですし、それに「Ola Cabs(配車サービス)」も運営している企業なので安心だと感じています。”

Olaブランドの安心感は、以前のOla Electricのスクーターに乗っている方へのインタビューでも語られていた。(参考

このように、Ola自体が配車サービスで有名であることに加え、現在はすでに電動スクーターでの地位を確立し電動二輪ブランドとしての安心感が醸成されており、店舗数もある程度増えている

インドの二輪市場の中で、バイク:スクーターの割合は、2:1程度とバイクが圧倒的に多い(参考)。このタイミングでの電動バイク発売は、とても良い戦略のように思える。




今後はどうなるのか?


電動二輪のトップランナーである、Ola Electricが電動バイクの発売を発表したことは、二輪業界に大きな電動シフトをもたらす引き金になるのだろうか

一般に一人当たりGDPが3,000ドルを超えると、二輪車から車へのシフトが進むと言われている。インドの一人当たりGDPは、まだ約2,300ドル。現時点では車(四輪車)ではなく二輪車に乗る人が圧倒的多数派である。
インドは伸びている国ではあるものの、もうしばらくは二輪車が好まれるステージが続くだろう。


それに際して、現在のエンジンバイク(電動ではない一般的なバイク)の大手はどう動くだろうか。

電動二輪しか生産していないOla Electricと比べると、エンジンバイクの大手は既存のサプライチェーンとのしがらみなどもある中で、思い切った電動化に踏み切りづらい可能性もある。

【参考】
日本企業においては、例えばホンダは2023年度中にインドで電動スクーターを発売することを発表しているが(参考)、電動バイクに関する話は出ていない。
※日本では電動バイクの販売メーカーは限定的。ホンダからの販売はなし

インドにおいては、今後どんどんエンジンバイク大手からも電動バイクが発売され群雄割拠となるのか、それともOla Electricがひとり勝ちとなるのか、はたまた電動バイク市場はそこまで盛り上がらない(インフラの問題等でエンジンバイクが好まれる状態が続く)のか。

変化が激しい時期にあるインドの電動二輪市場の動向に、今後も注目していきたい。



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