#12 日本が「真剣に参加を検討している」インドの決済システム「UPI」とは?参加の目論見は?
先日(2023/5/19)、デジタル担当大臣の河野太郎氏が「日本はインドのUPI(Unified Payments Interface = インドの銀行間即時送金決済システム)への参加を真剣に検討している」と発言したことがインドでニュースになっていた。
UPIはインドにおいて日常に広く浸透しており、インドで暮らす筆者も決済のほぼ全てはUPI支払いだ。
そのためこのニュースを見た瞬間は「日本に導入されたら便利になりそう」と直感的に思ったのだが、少し調べてみると、河野大臣のUPI参加発言の主眼は「国民の日常の支払い利便性の向上」にはなさそうに感じた。
※あくまで仮説である
この記事では「UPIとは何なのか」と、「河野大臣がUPI導入をしたいと考える意図(推定)」を簡単にまとめておく。
UPIとは何か?
「UPI(Unified Payments Interface)」とは、インド中央銀行の主導により2016年4月に導入された、インド決済公社(NPCI)が開発したリアルタイム決済システムだ。
「UPI」は統一したインターフェースで、スマホと銀行口座を直接繋げることで支払いができるシステムである。
…と書いてもわかりづらい。具体例を出そう。
例えば日本の場合、決済サービスの現状は以下のような形だ。
送金や決済をしたい場合、同一サービス同士でないとできない。
LINE Payのお金を楽天Payに送る、とか、LINE Payアプリで楽天PayのQRを読み取って決済、などはできない
また決済サービスに直接銀行口座を紐づけることは現時点ではできない。
銀行口座からウォレットにチャージをするか、クレジットカードを紐づけることが必要。
これがUPIが導入されているとこうなる。(インドは現状こうなっている)
各決済サービスと銀行口座が直接紐づいており、お金の出どころはいつも銀行口座。
UPIに対応しているサービス同士であれば、どのサービス間でも送金や支払いができる。送金されたお金は直接銀行口座に入るので、「サービスをまたいだ感」は特になく気持ちとしては「銀行送金した」という感じ。手数料は原則なし。
※各サービスには「ウォレット」もあり、(銀行口座ではなく)各サービスごとにお金をストックしておくことも可能
ちなみに、送金や支払いには、QRコードをスキャンする方法の他に、電話番号、UPI IDと呼ばれる決済用アドレスを伝える方法などがある。
例えばQRコードを使う方法だと、UPI対応の決済アプリなら、どのアプリでどのQRコードを読み取ってもOK。
以下は個人商店に置かれたQRコードで、上部には大きく「Paytm」と決済サービス名が書かれているが、QRコードは統一規格になっている。
そのため、UPI対応しているものならどのアプリからスキャンしても支払える。(ちなみに筆者はいつもなんとなくPhonePeという決済サービスから支払っている)
ちなみに、この「UPI」はインドのDX施策の一部にすぎない。UPIを含めた国家としての代表的なDX施策の全体像については、以下の記事がわかりやすいため、気になる方は参照されたい。
日本へのUPI導入によって何を目指しているのか?
つまり、UPIはデジタル版のデビットカードサービス。必要なものは銀行口座、それだけだ。
UPIが日本で広く個人にも店舗にも広がれば、「相手がどのサービスを使っているか、お店がどのサービスに対応しているか」を気にする必要がない(というかそのような概念を持つことがない)というわけである。
そのため、筆者はこのニュースを聞いた時、「日常での決済が楽になるんだな〜」と思ったわけだが、実際のインタビュー映像を見てみるとどうもそういう話に主眼が置かれているわけでもなさそうに感じた。
というのも、河野大臣は、「UPIへの参加を真剣に検討している」という話をした後に、以下のような趣旨の発言をしていたのだ。
日本と同様に、UPIを採用することに関心を示しているシンガポール、タイ、アラブ首長国連邦がUPIシステムを導入すれば、国をまたいだ送金に利用できて便利。
これは国境を越えた電子決済の、新たな標準となる可能性がある。
となると、これはビジネスにおける海外送金における利便性向上を強く想定したUPI参加検討ではないだろうか。
もちろん「国民の日常の決済の利便性向上」の観点もなくはないと思う。
ただ、既存の主要なスマホ決済サービス(PayPay/LINE Payや楽天Pay等)の動向によっては、日本への浸透は簡単ではないかもしれない。
彼らは自サービスがUPIに対応することで、せっかく囲い込んでいた顧客が流出するリスクの方を重く捉え、UPI対応を選ばない可能性もある。
主要事業者がUPIに参加しないと、互換性のない決済手段がバラバラと存在するだけとなるため(UPIに加え、PayPay/LINE Pay,楽天Payなどが並列な状態)、店舗側もユーザも恩恵を享受しづらい状況となるだろう。
現時点では、河野大臣のインタビュー内容以外にまだ具体的な話は出ていないが、今後の動向に注目していきたい。
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