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バンドマン、妖精を見る。

「どうすればいいんだよ! 」
 思わず、俺は声に出して言った。俺はそれぐらい、悩んでいた。
 
 俺はバンドマンで、ギターをやっている。俺たちのバンドはインディーズバンドだが、メジャーから声がかかっており、もう少しでメジャーデビュー出来るかもしれない、という時だった。 

「3曲くらい、曲、作っといて」
 ボーカル兼リーダーのリョウタに言われた。作曲が出来るメンバーは俺しかいない。責任重大だった。なのに曲が出来ない。一曲も。明日はバンドの打ち合わせがあるのに。
 リョウタはいわゆる、「天才」だ。すらすらと何も考えない(ように見える)で、歌詞を書ける、そんなヤツだ。もちろん歌も上手い。
 一方、俺は努力の人。俺も「天才ギタリスト」なんて言われたりもするけど、それは努力したからだ。楽器はいい。努力すれば音になるから。

 そんなわけで俺は曲が出来ずに、うんうんと、唸っていた。
 
 すると、目の前に手の平ほどの大きさの妖精が現れた。羽が生えており、短いスカートをはいている。とても可愛かった。(あのスカートの下には下着をつけているんだろうか・・・)と思っていると
「いやらしいこと考えないでください」
 と妖精が言った。うわ、しゃべった。これ、やばいやつだ。俺は酒もタバコもやらない、健全人間なのに、どういうことだ?
「あなたを助けに来ました」
 妖精は次にそう言った。
「おお、今、助けが必要な時だ。助けてくれ」
「プライドがないのですね」
「ないない」
「あきれましたねぇ。どうしましょう」
 妖精にあきれられてしまった。でも俺は曲を作るというミッションを完了させなければ、いけない。
「もし私が作ったら、それは、あなたの曲ではないでしょう? 」
 と妖精は問いかけた。  
「それもそうだな」
 俺が考えこんでいると
「変な所で真面目なんですね。めんどくさい」
 妖精が本性をあらわしてきた。イメージが崩れる。
「じゃあ、こうしましょう。魔法をかけますから、その間に曲を作ってください」
「わ、わかった・・・」
「とっとと作ってください。はい、イチ、ニイ、サン・・・」
 
 メロディがたくさん、あふれてくる。でも、それをみんな形にすることは出来なくて。これが俺の実力なんだな、と思った。
 そして俺は意識を失った。
 
 次の日、
「リョウタ、頼まれた作曲なんだけど、サビの所しか出来なくて。ごめん」
「いいよ、セッションしながら形にしていこう」
 リョウタはあっさり、そう言った。他のメンバーも満足そうだった。
 こうして、俺たちのバンドはメジャーデビューへの一歩をふみ出したのだった。
 
 あの妖精の正体はいったい何だったのか。それは判らない。
 ただ、今だから気づくことは。妖精は俺に似ていた。声が似ていた。俺が女の子の声の真似をしている時に、そっくりだった。
 妖精は俺が作り出した幻だったのかもしれない。

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