愛憎芸 #40 『無職透明』
ここは断崖絶壁ではないけれどわたしはまた東京にしがみついたんだな…と家まであと20歩くらいのところでふと思った。郵便ポストにはどうでもいいチラシしか入っておらず、わたしの上の段のポストには「チラシ厳禁!」のステッカーが貼られていてあれを貼ったところでやっぱりしょーもなチラシは投函されるものなのだろうか、だとするとそれってそのステッカー作った人だけが得するじゃん、てかあのステッカーって原価割れとかしてそうだななんか、などと思いながらカードキーを挿入、気が付けばこの家に住んでから3カ月が経とうとしている。
びっくりした。仕事をすごい勢いで辞めた。仕事でも生理的に無理ってことがあるのか。びっくりした~!わたしはこの「生理的に無理さ」に異常に敏感で防衛本能が鋭利になる。その危機感を察知した時の動きの早さは常軌を逸しており周囲もドン引き、ある友人はわたしが読んでいないある漫画の「悪・即・斬」という言葉を引用していたがあまりにもそれ、自らにとって「悪」なものは「即」座に「斬」って捨ててしまう、その思い切りがとてつもなくある。
先日次の仕事の内定を得たのでこの人生初・無職生活も数週間、リミット付きのものになったわけであるが、これほど長い休みをとったのは人生で初めてだった。ここまでの27年間のわたしは海の魚のようで、とどまることをとにかく嫌った。前々職から前職のあいだも一切開けず転職していたし大学時代もバイトの収入がない月はなく、ひたすら働き続けていた。高校時代にさかのぼっても野球を引退したら即受験勉強に切り替え合格まで一直線、合格した瞬間にはバイトを始めた。
わたしがいままで見てきた景色というのはとどまらなかったから見られた景色だと思うが、実際強制的にストップをかけていれば、ああ直近でおかしくなったのではなくて去年の夏ごろにはいろいろもうダメだったんだなとか、些細なこととしていたあのことに自分は思いっきりイラつき・ブチ切れ・悲しんでいたのだと知った。この3カ月、日記屋月日さんの日記をつけるワークショップに参加していたのも大きかった。おかげさまで毎日のように自分を振り返る時間が発生していて、別にそれを日記に書くわけではなくとも異様なまでに早く違和感に気づくことができた。(そして多くの新しい友人ができた)日記をつけていたことで、休んでいる期間も意外といろいろなことが起こることを知り、人生は何一つ平凡ではない。
気づき:大勢で遊ぶの意外と好きかもしれない。その反動たる悲しさを覚えているから。これは、日記のワークショップ打ち上げ翌日の日記からの抜粋である。
無職・透明な日々。そう思っていたけれどにごっている。久々に入った温泉で隣の男子大学生たちの会話を盗み聞いてみる。「彼女と半年で」「いつヤったん?」「まだ」純粋無垢なその男の子は自分の誕生日と記念日が被っていることに不満を覚えていた。だんだん聞いていてもおもしろくなくなってきたのでそこから離れる。白浜の空は綺麗でもしかしたら満天の星空が見えるかもしれん!と友達と風呂上りに海へ行ったらそこには漆黒の闇と船の明かりが広がっていた。すごいね、漁に出ているんだね。
この期間に、Laura day romanceとHomecomingsのライブを観た。年明けてすぐ、ローラはついに売れそうなきっかけがあって、満員のリキッド、幸せに次ぐ幸せにわたしは満たされて友人はただただ喰らっていた。ホムカミはドラムのなるみさん卒業ライブで、あれほど撮影については後ろ向きだったホムカミが、ダブルアンコールの『HURTS』だけ撮らせてくれたのはずっと残しといてね、もちろん心の中に残ると信じてるけどそれだけではなくてさ、というような複雑さを感じ取ったがシンプルに福富さんのギターがかっこよかった。ローラの『lookback&kick』といいホムカミの『HURTS』といい、観客の「きた~!!!」という雰囲気を感じられる曲が好きだ。両バンドともファンはロッキン特有の手を掲げる動作をやらないし手拍子もやらない、それはこれらの曲でもそうなのだけどただただ会場の温度だけが上がっていくあの感じ。この2バンドのおかげで、かつてモッシュにドン引きして軽音サークル入会を断念したわたしはライブハウスっていいものだなと思えている。人には人のロックサウンド…
■MAGAZINE:BUTLOVESONLY Vol. 6
長らく愛憎芸を更新しておりませんでした。なんか内定出るまでは愛憎芸はちょっとやめとこかなとか思ってしまい。今後愛憎芸はブログ的な運用にしていこうと思います。テーマがあるエッセイは別途しっかり書きつつ、愛憎芸はそれこそくどうれいんさんの日記の本番的なイメージで、日々を参照しつつ日記も引用する形で。
また、今短編小説を久々に書いておりまして(物語を書けているのはマジで回復です)、今月中には公開したいと思っております。
■三宅唱『夜明けのすべて』
すべてにおいて良かった。これが映画を観る感動なのか。映像で観ないと得られない感動。三宅さんのことはずっと大好きだがこの映画を観てもうたまらなくなってしまっている。2度目を見に行ったらきちんとnoteに書きます。
■大田ステファニー歓人『みどりいせき』
奇抜な文体に惑わされるなかれ、文章がうますぎるし構成も良い、緑色の青春野球小説。
▪︎TOMOO『Super Ball』
ドチャクソ爆売れ・紅白1万回出場してほしい。一つの事象に対する解像度・そこからの展開が劇的でこれこそ詩人だとわたしは思う。