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わかった、わかっている、ユリーカ!

字面だけ知っていて辞書的な意味を説明できない言葉がある。そんな言葉を積んでいる。「まだ知らない」ことは価値なのだと言わんばかりに。その言葉は、例えばアンビバレント、アンニュイ、クリシェ、そしてユリーカ!

"Eureka"はギリシャ語に由来する感嘆詞らしい。アルキメデス「我、発見せり」。わ、我??せり??せり。というか、アルキメデスって、あの!数学ができそうな名前だと、初めて見た時から思っていた。数学ができそうな人に平伏してしまう癖をわたしは心のどこかに抱えていて、人生で何度も怯えた。ベンチャー企業の人たちは基本的に数字に強いし数字を用いて説明してこられるから、そういう人たちに強気に出ることが難しいと、ずっと思ってきた。ということを今書いていて思い出した。

ユリーカ。大好きな星野源が曲名に選ぶ言葉の意味は、流石に調べた。積んだ言葉を下ろしてくる。「わかった」。曲中で「わかった」ということと、「わからなさ」の二つが、おそらく後者の方がスペース広く横たわっている。これら二つの相反する事柄を、体の周りでフラフープみたいに回し続けることを想像した。フラフープをするとき、いずれその輪は落下してしまうのだけど、拾い直してもう一度続けようとする、それを何度も繰り返して、なぜかその主体が一歩一歩前へ歩んでいこうとするイメージが浮かんだ。

ただ、わからないときにだけその輪っかは落下するわけではなく、むしろわかることでもそれは落ちるということが、ここ一年日記を書き続けてきたことで得た知見だったし、この前久々の心療内科へ行ったとき、診療のほとんどの時間を自分の話に費やすような心療内科医にも似たようなことを言われた。この手のオッサンの長話はつい話半分で聞いてしまうが、彼らの自己中心的な長話は無駄話ではなく、パンチライン1発のための助走なのだということを思い出した。知覚することで傷を負う場合の話。

曰く、人間には意識と無意識があり、無意識が意識に変わる瞬間、今までは傷と思っていなかったものが傷になることがある。それによって落ち込むことがあること。「知らなくてよかったこと」だったり、以前自著で書いた「聞かなくていい声」のことなのかもしれない。我、(最悪を)発見せり!だとキツイし、そのときフラフープは落ちている。

むしろ知らなければ、自分の人生だけに目を落とせば、悩まなくていいのだけれど、それでも気にしてしまうことや少しでも関与できないかと考えることは結局のところ傲慢なだけなのか?と考える日々である。例えば世界で巻き起こっていることの話。パレスチナのことを日常で話せる機会は少ない、と思う自分も数ヶ月前までは当たり前にスターバックスへ行ってしまっていた。ようやく自分ごととして捉えて本を読み学んで、行動に移し始めた頃には停戦が発表された、かと思いきやトランプがえげつないことを言っていて傷つく、ことへの処方箋は、「自分の人生に集中する」ことだけなのだろうか、そんなことはないと、どうやったら証明できるかがぜんっぜんわからない、からそのままやってくしかない。

星野源の『Eureka』を聴いていると、やはり「わかる」ことの大半は絶望の川に流れていくのだろうと思う。世界を知れば知るほど、人生を歩めば歩んだぶんだけ、落ち込むことは増える。のだが。

悪者の「わかる」がいるなら、いいもんの「わかる」もいることもちゃんと歌われている。生きていることそのものが悲しみへの抵抗であること、フラフープを拾って落として拾ってを繰り返すこと、ただそれだけであること、窓から差し込む陽の光。

陽の光。今の会社には、以前勤めていた会社にはなかった、トイレまでの「道すがら」があり、その帰路にある窓からは、ある時間帯、綺麗に日が差し込むこと、わたしはその影をみて美しい、と思ったこと。家に居着いていたあのクモの名前はアダンソンハエトリという名前であること。小さな何かを積み重ねることの尊さ、とかそれだけを言いたいのではなく、もうそれらを気合を用いて自分の人生に染み込ませていかなければ絶望に倒されてしまうという話をしている。普通の人の何倍も絶望に直面した人の言葉の重さを受け止めるのに、2週間かかった。

輪は回り続ける。円なので。死ぬまで終わらないフラフープを回し歩き続けることを覚悟しながらこの曲を聴いたあと、銭湯でいつものように44度のあつ湯と18度の水風呂の交互浴を繰り返していた時、白米と味噌汁と焼魚が食卓に並ぶ、そんなイメージがパッと浮かんだ。地に足つけて、粛々と、楔を打っていくような、日々にどのようなアレンジを加えるか。ユリーカ!したことは後に日常に染み込む、からそれを用いて日々を拓く。味噌汁。そう、ブロッコリーを味噌汁に入れると汁がトロトロに融合し、美味しくなることをわたしは知っている。そしてブロッコリーに含まれるビタミンCはレモンの5倍あることを、あの時あの人が教えてくれたからわかっている。



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