黒磯さんぽ 後編
(前編はこちら)
高校からの仲である、奈実、有香、千江子。今回は久しぶりに集まり、黒磯日帰り小旅行を開催した。午前中は、駅前のカフェで朝ごはん頂いたり、川沿いの公園でまったりしたり、地元の方に人気の蕎麦屋さんでランチを頂いたりと黒磯の空気に溶け込みながら、のんびりとグルメな一時を過ごした。午後は奈実の提案で、江戸時代終わり頃の住宅や、当時の生活道具などを展示する黒磯郷土館を見学したり、黒磯に訪れたら、もはや寄らずに帰ることができないと言われているCAFE SHOZOでおしゃべりしながらゆっくりした時間を過ごしたりと、これまた素敵な時間が待っていた。
13:00p.m.
奈実 「郷土館あった!ここだよー、私が行きたかったの。」
千江子 「ちょうど館主さんが外にいらっしゃるね。見学させて頂いてよろしいですか?!!」
館主さん 「どうぞ、どうぞ。」
3人は、まず手前にある旧津久井家住宅を見学する。こちらは1855年に建築されあた交替名主の四家の一つである津久井家の住宅。木造寄棟造・茅葺の平屋建ての中流農家建築である。
早速、中を覗かせてもらう。
神棚や仏壇が置かれる勝手の奥には、上座敷と下座敷。結婚式や葬儀も当時行われていたというこの間は、かなりの人数が入りそうな広さだ。
家の中に馬屋もある。
館主さん 「当時馬は、重要な労働力だったから、家族と同じように大事にされていて、馬も家の中に住んでいたんですよ。」
奈実 「なるほど…。今の常識からすると、馬が家の中にいるのは、不思議な感じもするけど、逆に考えると、そんなに大事な動物を目から離れたところに置けないですもんね。」
千江子 「当時は馬がいなくなったら、遠くへ行けなくなりますしね。」
館主さん 「そう、その通りですね。」
屋根は茅葺だ。今は数少ない、貴重な茅葺職人さんが、福島県の会津地方にいらしゃって、こちらの手入れを行なっているそうだ。
続いて奥にある郷土館を見学させてもらう。こちらには、江戸後期〜昭和中期までの、生活道具や農作業に使う道具などが展示されている。
有香 「あの、一番左にあるアイロンってどう使うんですか。」
館主さん 「これはね、暖めた炭を入れて使うんですよ。」
有香 「なるほどー。昔はそうやって服を整えていたんですね。」
奈実 「そこにある、藁靴とか藁で作ったサンダルが本当にすごいですね。昔の人は当たり前に作っていたのかもしれないですけど、かなり細かく作られていますよね…。力と手先の器用さとかがないとこれは作れないんじゃないでしょうか。」
館主さん 「その通りですね。今、こういう藁で何かを作るような体験教室を開いても、皆さん本当に苦労されるんです。昔の人は、色んなものを自分たちで作っていた分、手先は非常に器用だったと思います。」
現在のものとは少し形が違って、中には今の我々からすると少し使いづらいものもあるかもしれない昔の道具たち。だけど、どれも昔の人の手で、使い手のことをじっくり考えながら作られていたことがわかる。一つ一つ丁寧に見ていくと、それらを使っていた人々の暮らしを想像することができた。
3人は、暖かい館主さんの解説や黒磯のお話をたっぷり聞いて郷土館をあとにした。
有香 「私、今まで旅行して郷土館みたいなところって行ったことなかったんだけど、その土地のことをより深く知ることができていいね。今度から寄ろう。」
千江子 「あとここの館主さん、とてもいい方だったよね。少しシャイだけど、丁寧に親切に教えてくれて…。」
奈実 「そうだったね。優しい感じの館主さんだった。やっぱり旅行って、その先で出会った人のこととか、よく覚えてるじゃない。だから今回もこうして地元の方とお話できてよかったよね。」
14:30p.m.
続いて3人が向かったのはCAFE SHOZO。黒磯が今のようなおしゃれな街になったのは、紛れもなくこのCAFE SHOZOが多くの人に愛され続けていたからである。1988年に営業を開始してから時間がたつに連れ一軒、また一軒と、この街におしゃれなお店がどんどん並んでいったのだ。たった一つのお店がこうして街を動かしている。そんなこのCAFE SHOZOために遠方から黒磯に来る人も数知れない。
店内には、高校生、大学生のカップル、中年のご夫婦など、本当に様々な年代の様々な人が、思い思いの時を過ごしている。多くの人が集うのにも関わらず、それぞれがゆったりと時間を過ごせるこの空間では、カフェを作った方の細かな心遣いが感じられる。
3人はコーヒーに千江子はかぼちゃプリン、有香はチーズケーキ、奈実はガトーショコラを頂く。
千江子 「このかぼちゃプリン、甘さ控えめだけど、かぼちゃの味とキャラメルの味がちょうどよく合わさってて、なんというか、バランスがすごくいい。」
有香 「千江子、もうほとんど食べてるじゃん。このチーズケーキもさ、しつこくはないけど、味もしっかりしてて、それにコーヒーにもすごく会うの!」
奈実 「このお店店員さんもとても親切だし、空間もすごく落ち着いてるし、コーヒーとケーキもその空間に寄り添ったように作られていてとても美味しいじゃない。きっと、一人一人が特別な時間を過ごせるようにすごく考えられてると思うの。とても素敵なお店よね。」
3人はケーキを食べながら、おしゃべりに夢中になっていく。
有香 「なんかさー、日々色んな選択肢があって、それを取捨選択して生きているんだなって思わない。きっと私にも、今まで色んな他の可能性があったんだなって。」
千江子 「有香いきなりどうしたの。」
有香 「なんかここ、色んな人生を歩んでいる人が、偶然集っているような感じがして、つい思っちゃったんだけど。」
奈実 「うん。私もそう思う。ほら、だって私たち、高校の頃から仲良くしてるけど、この10年間ってそれぞれ全然違うじゃない。」
千江子・有香 「確かに…。」
奈実 「でも、こうやってたまに3人で集まって、昔みたいなというよりは、大人になった私たちの楽しい時間っていうのを過ごせるのって本当に嬉しいことだよね。それぞれ違うから勉強にもなるし。」
千江子・有香 「確かに…。」
有香 「奈実のまとめるのがうまいのは昔からだね。」
奈実 「そう?ありがとう。」
15:30p.m.
3人のおしゃべりはいつまでも続くのだが、お店を後にして、その通りのお店をぶらり。1点ものの温かみのあるビンテージ家具が売られている、ROOMS。着ていて気持ちが柔らかくなりそうな素敵な服が売られている、SHOZO 04 STORE。地元の新鮮な野菜や全国各地のこだわった品々が売られているマルシェとゲストハウス、さらにはカフェも兼ねた、chusなどを周る。どこも魅力的で、あっ、こういうの中々売っていなくてすごく欲しかったんだと思わせるようなものが売られている。人との出会いはもちろんそうだけど、素敵なものとの出会いもこの黒磯ではありそうだ。
17:00p.m.
3人は、お店をぶらぶらしながら、気づけばもう駅の近くまで来ていた。駅前にあるKANEL BREADで明日の朝ご飯にとパンを買って行くことにした。
有香 「うわー、あんぱん美味しそうだし、フォカッチャも食べたい、そして、マフィンも、そしてこのクリームチーズの入ったパンも絶対美味しい…。」
奈実 「この伊予柑ロール、パンがもちもちしてそうで美味しそう。伊予柑の甘酸っぱさとパンのもちもち感、絶対に合うだろうし。」
有香 「あー、私それも食べたい…。あーどうしよう…。」
千江子 「あのさ…、提案なんだけど、私の家宇都宮にあるから、今日は二人とも泊まって行かない!??まだ話し足りないなと思ってたし、そうすれば、パンも色々買って、皆でシェアできるじゃない。」
有香・奈実 「えー、いいのー!??」
有香 「千江子なんてナイスアイディアを…。日中街をぶらぶらして、夜語りながら皆でお泊まりなんて最高だね!最高!」
こうして3人の黒磯での時間は終わってしまったが、それと同時に夜のまた楽しい時間が始まっていった。那須塩原駅から少し北にある街黒磯。穏やかな空気が流れる小さな街だが、そこには、心温まるお店や、優しい人が沢山いる。そのおかげで、今回、千江子、有香、奈実の3人もこの日帰り旅行をこの上なく充実させることができた。ずっとその土地にあるお店とそこにいる人。そして、いつもは全然違った日々を送る人々が小さく出会うことによって旅は豊かに彩られていくのだなと感じる旅でした。(完)
最後まで読んでいただきどうもありがとうございます。