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43歳腎盂癌_10

令和6年11月25日
 ON病院_4回目〜生検手術入院

 手術の前日に入院というのがここのルールらしい。
 これまでとは違い、入院専用の窓口で受付けを済ませる。そこから同じ階の患者が4、5人づつまとめて案内される。
 ここの病院では各階に広間があり、基本的にはそこで面会ができる。面会は1回15分。病室への立入りは原則できない。だいぶ緩くはなってきたのだろうが、感染症対策は未だに続いている。

 病室は6名の大部屋と個室がある。追加有料なのだが空きがあれば個室も選べる。今回は短期間だし個室は断った。
 

 初日のスケージュールはこれといってすることはなく、

12時昼食(美味しくない麻婆豆腐)
15時入浴(シャワーのみ)
18時夕食(美味しくない牛丼)
21時消灯

 話にはよく聞くが、病院食はお世辞にも美味しいとはいえない。白飯は大盛り。もともとの少食も相まって、申し訳ないが完食は一度も出来なかった。
 翌日の手術に備え就寝前に下剤(センノシド錠12mg「YD」)を飲む。21時以降の食事は禁止。翌日の7時からは水も飲んではいけない。
 次に水が飲めるのは明日の晩から。食事は翌々日の朝食からとなる。

 特別やることもないので、食事の前後に階段の上り下りをしていた。そのくらいしかやることがない。とはいえここは7階。なかなかいい運動になるのだ。

 令和6年11月26日
入院2日目

6時起床
10時浣腸
11時着替え〜点滴開始 

病衣と着圧ソックス

 15時手術

 全男性が顔をしかめるだろうが、尿道から管を入れて、腎臓の内側にある腎盂にあるであろう腫瘍の一部を採取するのが今回の手術の目的。膀胱に転移がないかも診るとも聞いていた。

 下半身麻酔は腰椎に注射をする。これが痛いくらいで、手術自体は麻酔で痛みはないと聞いていた。

 手術室には何人いたのだろうか。されるがままに手際よく措置がされていく。横向きになりお臍を覗き込むように丸まる。麻酔の位置を確実にするためだろう。痛みは普通の注射とさほど変わらなかった。思いのほか痛くなかったので、自分の中では山場は過ぎたと思っていた。

 仰向けになり、まるで分娩台でお産するような形にセッティングされ、両腕を固定され、手術が始まる。
 
 触れられている感覚もなく、いつ始まったのかすらわからなかったが、医者同士の会話ですでに始まっているのだと気づいた。どうやら主治医の医者の他に2名、あわせて3名で手術を行なっているようだった。

 まず新人が臨床経験を積むためなのだろう、中堅にあれこれ指示をされながら行っているようだった。
 検査手術とはいえ自分の体を預けているのだから、それで練習台にされるのは気分はよくない。しかし、すでに始まっているので、いまさらどうすることもできない。検査手術は練習台にはちょうどよいのだろう。つまりは簡単な手術なのだとポジティブに考えるようにしていた。

 しかし聞こえてくる会話から、やたら苦戦しているようで試行錯誤しているようだった。不安だ。

 次に何のタイミングかはわからないが、中堅の女医に交代した。それまで新人に優しく指示していた女医の口調が急に荒々しくなった。外からの腹部を撮影する機械なのかなんなのかはわからないが、とにかく連携がうまくいっていないのか、女医のイライラが募り怒声が飛ぶ。
 麻酔をしているとはいえ、皮膚を引っ張られる感覚はあったのだが、その女医に代わってからは、より強く感じられるようになった。雑さは伝わるものだ。

 こっちはしっかりと意識があるので、慎重に事をすすめようとしていた新人の方がまだよかったなと。どうも中堅女医は口調も手つきも荒々しい。冷静にことをすすめてほしい。大丈夫なのかと疑いたくなる。こうなると不安でしかないが、どうすることもできない。

 ついにその不安が的中する事態が起こった。

 何をされているのかは知る由もないが、体の中で激痛を感じるようになった。

 下半身は触れられても何も感じないのに、確実に腎臓の付近とわかる辺りは何かをされる度に激痛が走る。痛みに強いと思っていたが、これまで感じたことのない類の痛みだ。あまりの痛さに体をよじりたくなるが体は固定され、下半身は感覚がないからどうすることもできない。手と表情で痛さを必死で伝えた。

 あまりに痛そうにする私を看護師が心配して声をかけてくれる。さすがに主治医も気になったのか、氷のような冷たい物で、麻酔の効きをチェックしはじめた。
 思い返してみれば、これは始めにやるべきことじゃないのかとは思ったが、その時は痛みでそれどころではなかった。

 肋骨にあてられた時は冷たいのを感じる。
 脇腹にあてられた時は冷たさを感じる。
 足の付け根にあてられた時は冷たさが半減した。

 何度も確認するように脇腹にあてられたが冷たい。ほんとに気持ち肋骨よりは冷たさが感じない程度だった。

 つまりはそういうことだ。

 手術中に追加の麻酔はできないのであろう。点滴から痛み止めの指示だけだった。そうでなければ麻酔してくれるはずだ。

 痛み止めで多少痛みが和らいだ気がするが、何かをされる度に痛みが襲ってくる。
 主治医は「これも痛い?」と不思議がっていたが、この状況で嘘をつくわけはないだろ。麻酔が効いていたらこんなリアクションできないだろ。いっそのこと気絶してしまいたかった。

 途中休憩が入った。
 どのくらい時間が経って、どのくらい終わったのだろうか。
 現場のスタッフも緊張が緩んだのか、談笑が聞こえてきた。この状況が当たり前になっているからなのだろう。何の心配もいらない。麻酔の効き以外は順調ということなのか。しかし私にとっては全てが初なのだ。気にしてほしいものだ。

 再開。

 また痛みとの闘いが始まった。看護師からはあまりに痛がる私の様子をみて、深呼吸しましょうと声がかかる。深呼吸する。呼吸に集中しようと。気が紛れる。とにかく早く終わることを願う。

 その時、中堅の女医から「浅く!長く!」の指示が。

 「浅く長く」。。とは。私に言ったんだよな?

 そんな呼吸したことない。深呼吸すると機器が操作しにくいのか、見えにくくなるのかわからない。謎の指示が。それ以上の指示はない。理解が出来なかった。どうも苛々が積もって、看護師の私への気遣いすら気に入らなかったのか、そうとしか思えない。

 このとき確信した。ハズレの医者に当たったのだと。中堅女医はお勉強はできるのかもしれない。しかし人間性に難がある医者であることは明らか。
 これまでの人生でも様々な場面で往々にしてそういうことは経験してきた。当たり前だがなるべくそういう人とは関わらない。避けるべき対象の人間だった。しかし、まさかこのどうすることもできないタイミングで現れるとは。


 怒声は続く。
 痛みも続く。
 地獄だった。
 

 ようやく終わった。終わったあとも女医は当たり散らすように文句を言っていた。

 やめてくれ。

 手術は2時間は経っていた。ストレッチャーに移され、そのまま元の病室に運ばれる。 
 途中のエレベターでも中堅女医の愚痴は止まらない。患者の目の前ですることなのか。

 やめてくれ。

 疲弊していて、解放されたことに安堵していたため、どうでもよくなっていたのだが「他でやってくれ」と、心の中で何度も呟いていた。

 完全にトラウマとなってしまった。

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