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短編小説

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一話完結から、三話くらいまでの短めの小説を集めています。
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#短編小説

【短編小説】75年の流れ星(一話完結)

 なにしろ2月だ、日付が変わったばかりの深夜は肌寒い。  分厚いコートを着せてもらっても…

秋ノ宮 陽菜
2週間前
14

【短編小説】さよならのお作法(一話完結)

 秋ノ宮さんは考えている。  うどんを煮込みながら考えている。あとは卵をぶちこんで、蓋を…

秋ノ宮 陽菜
3週間前
16

【短編小説】のばらの犯した罪とつぐない(2/2)

「佳代ちゃーん? いるー?」  男の声だ。三十そこそこといったところか。 「いるよー。なあ…

秋ノ宮 陽菜
3週間前
23

【短編小説】のばらの犯した罪とつぐない(1/2)

 貧しき者は、金さえあればすべてがうまくいくと思っている。  少し小金を持つと、金だけで…

秋ノ宮 陽菜
1か月前
11

【短編小説】君から君へ (一話完結)

 十二月三十一日の長岡駅発寺泊行きのバスは、十六時が最終だ。  こんな日まで仕事をしてい…

秋ノ宮 陽菜
1か月前
30

【短編小説】たづ姉さん (2/2)

 みんなでたづ姉さんを部屋に寝かせると、私はほかの者を締め出しました。  そうしてたづ姉…

秋ノ宮 陽菜
2か月前
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【短編小説】たづ姉さん(1/2)

 私が若かった頃のおはなしですから、もう随分前のことになります。  年を取ると、若かった頃に目にしたすべてが輝いて、思い出すたび、切なくも甘い感情に包まれるものですね。ええきっと、誰だってそうなんじゃないかと思います。  そうして、私ごと記憶が消えてしまう前に、誰かに伝えておきたいと思ってしまうのです。  そう。私がおはなししたいのは、たづ姉さんのことなんです。  いまでも思い出します。私が会社の寮の木製の階段を(階段はそれは急で狭いのですが)駆け上がっていきますと、

【短編小説】おっかさんの忘れ物

 信濃川の合流する海水浴場は、正守の家から徒歩三分のところにあった。 正守の家は山の中腹…

秋ノ宮 陽菜
3か月前
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【短編小説】望月パセリとつきあうということ(4/4)

 年が明けて十日ほどして、パセリの大学の版画科の展覧会があった。 パセリは裏方で忙しいよ…

秋ノ宮 陽菜
3か月前
10

【短編小説】望月パセリとつきあうということ(3/4)

 大晦日、僕は大学近くの自分のアパートに、初めてパセリを招待した。 僕は実家に帰らないし…

秋ノ宮 陽菜
3か月前
9

【短編小説】望月パセリとつきあうということ(2/4)

 初めてのデートは、上野の国立西洋美術館に行った。待ち合わせの上野駅、改札を出たところで…

秋ノ宮 陽菜
3か月前
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【短編小説】望月パセリとつきあうということ(1/4)

「いま、どこにいますか?」  ファミレスのシートに座って、メニューを開き、なにを食べるべ…

秋ノ宮 陽菜
3か月前
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【短編小説】 翻訳

 物心ついたときにはすでに、外国の児童文学に育ててもらっていたような気がする。  日本に…

秋ノ宮 陽菜
4か月前
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【短編小説】蜜柑

 晃一は世田谷という街が好きだ。  学芸大学駅から徒歩5分のロフト付きのアパルトマンに住んでもう7年。 すっかり四国弁も抜けて、生まれたときから世田谷に住んでいるように馴染んでいる。  不思議な街だ、世田谷は。  いわゆる都会的喧噪など一切なく、鳩たちのくるっぽーという鳴き声で目が覚める落ち着いた街、背の高い建物が視界を遮ることもない。  商店街はセンスのいい店と居心地のいい人情味のある店が並び、どちらもとても活気がある。  静かで居心地のいい、おしゃれな住宅地。そ