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なにしろ2月だ、日付が変わったばかりの深夜は肌寒い。 分厚いコートを着せてもらっても…
秋ノ宮さんは考えている。 うどんを煮込みながら考えている。あとは卵をぶちこんで、蓋を…
「佳代ちゃーん? いるー?」 男の声だ。三十そこそこといったところか。 「いるよー。なあ…
貧しき者は、金さえあればすべてがうまくいくと思っている。 少し小金を持つと、金だけで…
十二月三十一日の長岡駅発寺泊行きのバスは、十六時が最終だ。 こんな日まで仕事をしてい…
みんなでたづ姉さんを部屋に寝かせると、私はほかの者を締め出しました。 そうしてたづ姉…
私が若かった頃のおはなしですから、もう随分前のことになります。 年を取ると、若かった頃に目にしたすべてが輝いて、思い出すたび、切なくも甘い感情に包まれるものですね。ええきっと、誰だってそうなんじゃないかと思います。 そうして、私ごと記憶が消えてしまう前に、誰かに伝えておきたいと思ってしまうのです。 そう。私がおはなししたいのは、たづ姉さんのことなんです。 いまでも思い出します。私が会社の寮の木製の階段を(階段はそれは急で狭いのですが)駆け上がっていきますと、
信濃川の合流する海水浴場は、正守の家から徒歩三分のところにあった。 正守の家は山の中腹…
年が明けて十日ほどして、パセリの大学の版画科の展覧会があった。 パセリは裏方で忙しいよ…
大晦日、僕は大学近くの自分のアパートに、初めてパセリを招待した。 僕は実家に帰らないし…
初めてのデートは、上野の国立西洋美術館に行った。待ち合わせの上野駅、改札を出たところで…
「いま、どこにいますか?」 ファミレスのシートに座って、メニューを開き、なにを食べるべ…
物心ついたときにはすでに、外国の児童文学に育ててもらっていたような気がする。 日本に…
晃一は世田谷という街が好きだ。 学芸大学駅から徒歩5分のロフト付きのアパルトマンに住んでもう7年。 すっかり四国弁も抜けて、生まれたときから世田谷に住んでいるように馴染んでいる。 不思議な街だ、世田谷は。 いわゆる都会的喧噪など一切なく、鳩たちのくるっぽーという鳴き声で目が覚める落ち着いた街、背の高い建物が視界を遮ることもない。 商店街はセンスのいい店と居心地のいい人情味のある店が並び、どちらもとても活気がある。 静かで居心地のいい、おしゃれな住宅地。そ